表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】伯爵令嬢は初夜で偽装結婚宣言される ~旦那様あなたなんて大嫌いです~  作者: 米野雪子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/20

偽装結婚の始まり




「おはようございます、奥様。お加減よろしいですか?」


「…奥様?」


「はい、侯爵夫人ですから」


ああ、そうか、一応表向きは侯爵の妻なのだったわ。


「………旦那様は?」


「はい。旦那様はお忙しいとかで、早朝に王宮へ行かれました。

 朝食をお運びしますか?」


「食欲ないので結構です。湯あみをします」


「はい、では用意いたします」


「湯を張ったら下がってください。浄めは一人で出来ます」


侍女に少し怪訝そうな顔をされたが、すぐ下がって用意してくれていた。

ベットを見ると、シーツが乱れ、ご丁寧に指でも切ったのか

血液が付着している。微かな怒りと嫌悪感が湧いてくる。



馬鹿みたい…



ため息をつき、湯に肩まで浸かり

昨日の夜のことを思い出す。


あの時は、初夜に備えて緊張しながら身体中洗って、

優しい人だったらいいな、でも怖い、

初めては苦痛だと聞くし、耐えられるだろうか。

でも、これから夫婦として一緒に生きていく人だし、

最初はぎこちなくても、そのうち分かり合えるようになりたい。

もし、子供が出来たら喜んでくれるだろうか。

私たち、どんな家族になっていくんだろう。


…なんて、緊張しながらも、

私は、自分の未来を夢見ていたのだ。



ピチョン…



頬から、いく筋も流れる滴は止めどなく落ち続け、

波紋がいくつも湯船に広がった。

私は膝を抱え、心から冷え込んでいく体を丸めて

嗚咽しながら子供のように泣きじゃくった。




* * * * * * *




旦那様が私に会いに来たのは、あの初夜から1ヶ月後だった。

宰相補佐の仕事が忙しいのは本当らしい。

だけど私は、この夫婦ごっこが苦痛だった。

できれば顔も見たくない、声も聞きたくない。

私を卑下して利用した男など一緒に過ごしたくもない。


「すまない、忙しくてね。元気にしてたかい?」


「ご覧の通りです」


「予算を全然消費していないようだが…遠慮しなくていいんだよ」


「今は必要ないです」


「そうか…」


「旦那様、お疲れのようなので、どうぞお休み下さい。

 無理に私の相手をしなくて結構です」


「いや、無理などしていない。

 ……つれないな、私たちは夫婦だろう?」


何言ってるのこの人。白々しい。

使用人達への夫婦円満アピールなんだろうけど、

早く何処か行ってくれないだろうか。


「今日来たのは、これ…少し遅くなったけど…

 目を通して署名してほしい」


「誓約書ですか…分かりました。

 目を通し、訂正して欲しい箇所などを後日お伝えします。

 訂正後の署名でよろしいですか?」


「ああ、あと少し君について聞きたいんだが…」


「なぜ、ですか?」


「その、同僚に結婚相手について聞かれてね…

 適当に誤魔化しておいたんだが、

 そういえば、私は君を何も知らなかったと思って」


「適当で構いません。

 私は、旦那様の同僚の方々とお話する機会はありませんから」


「いや、しかしお互い少し知っておいた方が、話を合わせやすいだろう?

 それに、私も君を知りたいんだ」


「私は別に知りたくありません」


「…うん……私達は交流の機会が少ない夫婦だけど、

 やっぱり、この先長い間共にするのだし、多少は分かり合いたいんだ…」


「では、知りたいことを書面にてご提出ください。

 回答を記入して返却します」


「いや、ちょうど今時間もあるし話さないか?

 よければ一緒に庭でも散歩しよう」


「結構です。私、もう失礼します。質疑は書面でお願いいたします」


「待って、どうしてだい? 私と話すのが嫌なのか?」


「書面なら一度で済みます。

 人って、興味のないものは憶えませんもの。

 私、何度も同じことを聞かれるのが嫌なだけですの」


「…どうやら私は…君に嫌われてしまったのかな…」


「そんな感情は必要ないとおっしゃったのは旦那様です。

 では、失礼します」


わざとらしい困ったような悲しげな顔。

同僚には、偽装結婚だと知られたくないのだろう。


卑怯者。


目の前の旦那様は、肩まである銀色の髪を後ろで縛り、

碧眼で整った顔立ちの美しい男だった。

初対面の結婚式で少しでもときめいた自分が、今思うと滑稽で、

本当に馬鹿みたいだ。


目もいつも微妙に視線が合わないし、職業柄表情が全然読めない。

何を考えているのか、常に偽物の仮面みたいな微笑みを浮かべ、

目の奥は鋭くこちらを観察している。

一緒にいると、いつも探られているようで不快になる。


事情のある女友達とでも合意して、偽装結婚すれば丸く治るのに。

そうしなかったのは、自分より地位の低い弱味のある令嬢の方が、

支配しやすいからだろう。


騙して偽装結婚した卑怯者のくせに。

演技とはいえ、いい夫ぶるのが本当に鼻につく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ