キャリーの懺悔
「すまない、マーガレット遅くなっ…」
「旦那様…」
「…眠って、しまったのか?」
「はい、お疲れなのでしょう…」
馬車に乗り込むと、彼女は寝息を立てて座ったまま目を閉じていた。
30分位待たせてしまった。申し訳ないことをしてしまった。
「そうだな…当事者だったからな。
相当、疲弊しているのだろう…本当に迷惑をかけてしまった…」
「ラディアナ公爵令嬢のご様子は…」
「あれは、もう駄目だ。取り返しのつかない過ちを…いや、過ちではないな。
意図的にマーガレットを貶めて、彼女の人生を壊そうとした。
私の妻という事実だけで…こんな目に合わせてしまった…
公爵家とは示談はしない。上に報告する。後日、沙汰が下されるだろう」
「そう、ですか…お疲れ様でした。
まだ、終わっていませんが、とりあえず、ひと段落ですね」
「ああ。マーガレットの名誉回復の為に、私も尽力しよう…」
* * * * * * *
「ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさっ…」
目の前で俯き泣きじゃくる少女。
小さな体を更に小さくして、肩を震わせている。
怯えきって今にも消えそうな存在をそっと抱き締める。
ビクッと震え、体を硬くして泣き続ける、小さな背中をずっと撫でる。
落ち着くまで、小さな温もりを包み込んだ。
「お母様は、大丈夫。最高の医療環境で治療を受けて、
必ず元気に帰ってくるわ、キャリー」
「…ほん、と?」
「ええ、だからもう、何も心配しなくていいわ。
もう、嘘をつかなくていいの」
公爵が今回の賠償の中に、母親の治療完治を含めてくれた。
加えてこの家族にも、迷惑料として慰謝料が払われる。
私たち侯爵家にも賠償金と慰謝料が支払われ、
見送りになった取引先への説明責任と支援金、名誉回復への働きかけ。
結構な金額と労力になるが、娘の醜聞と世間体を隠す為なら、
王族の次に資産を持っている公爵家なら、安いものなのだろう。
「…うっ、ううううっ…でも、でもっ私、嘘をつきましたっ…
そ、そのせいでっ…何も悪くないっ!優しいマーガレット先生をっ…
わああああああっ‼︎」
「解決したから大丈夫。あなたに嘘を強要した、悪い大人も捕まったわ。
もう、怯えなくていいの。あなたは被害者なのよ」
「でも…私は、私は、まだっ…罪を償ってませんっ‼︎
マーガレット先生だって…あの嘘のせいで…誤解されたままだしっ!
ど、どう償えば…私っ…」
「そうね。もう少し落ち着いたら、償いについては話し合いましょうか?」
「なんでもします!私、どんな罰でも受けます‼︎」
「じゃあ、約束して。
今度から何か困った事が会ったら、自分一人で悩まないで、
必ず先生や司祭様に相談すること。私たちが出来る限り力になるわ。
だから、どんなにいい条件でも、知らない人や、
何か怪しい交換条件で取引してくるような人は、絶対に信じてはダメ。
おかしいと思ったら、絶対に相談して。分かった?」
「はい…今回のことで良く分かりました。
私が、浅はかでした…」
「それだけお母様が大切だったのだから仕方ないわ。
あなたはまだ人生経験の無い子供だもの。
そのあなたの弱みに、相手は親切なフリしてつけ込んできたのよ。
本当に酷い人達だわ」
「あの人たちは、マーガレット先生を貶めて…何がしたかったんですか?」
「そうね。簡単に言うと、先生の旦那様が好きで私が邪魔だったの。
それで評判を落とそうとしたの。内緒よ?」
「そんな、卑怯なこと…」
「そうね。卑怯者だわ。
だからもう、あんな人たちの為に心を痛めないで頂戴」
「私、でも、まだ償ってません。…加担してしまいました。罪は罪です…」
「そうね。あなたの気がすまないのなら、教会でボランティアでもどう?」
「ボランティアですか?」
「そう。司祭様とも話し合って、教会のお手伝いしてくれる?」
「はい!」
この子の人生は、まだ始まったばかりだ。
賢くて優しい子だし、こんな1度の出来事で潰れて欲しくない。
とりあえず当分この子の精神的なフォローをしなくては。
そして私も、自分の身の振り方を決心した。




