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【完結済】伯爵令嬢は初夜で偽装結婚宣言される ~旦那様あなたなんて大嫌いです~  作者: 米野雪子


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14/20

身に覚えのない悪い噂



旦那様から贈与された領地は順調に開発が進んでいた。

何もかも順調で、私は思ったより早く自立できそうだとホッとしていた。


ある日教会で、商会長と慈善事業打ち合わせやレースアクセサリー納品中に、

いきなりショッキングな事を伝えられた。



「…見送りになった?」


「はい」


「どうして?好感触だったのに…お互い不利益はなかったはず。

 何か不手際があったかしら?」


「いえ、万全でした。

 相手方も乗り気だったのですが…実は変な噂を耳にしたようで…」


「噂?」


「私は嘘だと分かっています。

 ですが、子供が証言している様で…それが厄介なのです」


「その噂って、何なんですか?」


「はい。侯爵夫人が子供を使って……売春斡旋をしていると…」


「…は?」


「ええ、あなた様がそんなことする訳ありません」


「どうして、そんな噂が?全く身に覚えがないのですが?」


「今、こちらでも調べています。どうも…怪しいのです。

 ラディアナ公爵令嬢が、その証言している娘を保護して訴えたらしいです」


「……あの方、ですか…」


「侯爵様の元婚約者だったらしいですね?」


「ええ、バザーと夜会で絡まれましたわ」


「う~ん、厄介ですねぇ。公爵家の権力は…。

 侯爵夫人が冤罪なのは、関わっている人達は分かっていると思いますが、

 ラディアナ公爵殿は娘を溺愛してますし…どう動くか分かりかねます」


「冤罪を有罪にできる、と言うことですね?」


「貴族の体裁を繕うために、権力に物を言わせて汚い真似をするのは、

 今に始まった事ではありませんからね。

 ですが、今回は夫人だけではなく、アーディヴェルテ侯爵の名誉も

 かかっています。夫人の危機に、侯爵殿が黙っていないでしょう」


「そうで、しょうか?」


「いや、ご自身の奥方ですよ?」


「旦那様は仕事柄…公正な方です。

 決して、私の味方ではありません」


「まさか。切り捨てられると、お思いですか?」


「その可能性もあります。私には、分かりません…

 とにかく、自分にできる事をします」


「私も調査協力します。ですので、希望を捨てないでください」


「ありがとう、ロージー商会長。心強いですわ」



最悪だ。



どうして、こんな…

体が冷え込んで何も考えられない。

とにかく落ち着かなければ…


あのラディアナ公爵令嬢…子供まで使って…

私が孤児院の慈善活動をしているのを逆手に取って…


不愉快さと、悔しさと、怒りで、頭がグラグラとして目の前が暗転し、

私はその場で気を失ってしまった。




* * * * * * *




「大丈夫ですか?侯爵夫人」


「…私、…どうしたんでしょうか…」


「倒れられたのです。具合はどうですか?」


「少し、目眩がするだけで…大丈夫です。

 ご迷惑を…ご心配おかけしました…」


私は、教会の休憩室の小さなベットに寝かされていた。

商会長との打ち合わせ中に、あの事実無根の噂の話の途中で、

気を失ったらしい。

付き添ってくれていたのは商会長ではなく、なぜかフォスナー先生だった。

私が不思議そうにキョロキョロしているのに気がついて、

商会長は今司祭様と話しているから、付き添いを交代したと教えてくれた。


「……聞きました。あの噂…」


「ええ、私も先ほど商会長より、初めて耳にしました」


「馬鹿馬鹿しいにも程があります」


「信じてくださるの?」


「当たり前ではないですか‼︎

 事実無根のあんな馬鹿げた噂、ふざけています」


「ありがとう…でも、冤罪とはいえ私と親しくしない方がいいです。

 あなたまで、悪い噂の餌食になります」


「何を、言ってるんですか⁉︎」


「…念のためです」


「あなたが、そんな事するはずないっ‼︎」


「ええ。当然ですわ。フォスナー先生、

 信じてくださってありがとうございます」


「商会長も、司祭様も皆あなたの味方です。

 色々調査を協力してくれています」


「ええ、感謝します…」


「奥様、大丈夫ですか?迎えの馬車が来ています」


「ええ、大丈夫。ありがとう」


皆に優しくされ、

護衛騎士と侍女に伴われて、私は侯爵家へなんとか戻った。




* * * * * * *




「話がある」



疲れているというのに、旦那様が夜遅く部屋を訪ねてきました。


ああ、あの噂のことだわ。


私は静かに頷いた。



「君が子供を使って売春斡旋をしていると、噂が広がっている。

 …これは、本当か?」



何、その言い方?


まさか、疑っているの?



「いいえ…私は、やっていませんし、身に覚えがありません」



事実無根の身に覚えのない噂と、旦那様の冷たい対応に心と体が冷えていく。

教会で優しく力付けてくれた人達がいて、やっと浮上してきた気分が、

一瞬で、また奈落の底に落とされる。


「そうか、ラディアナ公爵令嬢の証言と、その子供の証言が一致しているんだ。

 今現在、事実確認を調査している。

 結果が出るまで、申し訳ないが領地経営は自粛して欲しい」


「…はい」


信じてくれないのね。

あのラディアナ公爵令嬢の方を信じているのかしら。


もう、いやだ。いやだ。いやだ。いやだ。


あの噂のせいで、合意しかけていた大事な商談が2つ見送られてしまった。

そして、私の名誉を傷つけ、侯爵家までも関係者として疑われてしまう。


弱みが出ないように気をつけていたのに、他人からの妬みは避けようがない。



「1週間程だ。侯爵家の名誉回復の為に我慢してくれるね?」


「分かり、ました…」



自分の名誉のために、我慢しろってこと?


そんなの知らないわよ。


私が、何をしたっていうの?



こんな偽装結婚のせいで…要らぬ恨みをかってこんな…こんなっ…



俯く私が哀れに感じたのか、そっと近づき肩に手を置き撫でられた。

私は、その行動が見下され哀れまれていると感じて、

屈辱でカッと頭に血が上り、咄嗟に手を振り払った。



「マーガレット…」


「触らないで、…くださいっ」



あなたの哀れみなど、いらない。

自分でも、驚くほどの怒りを抑えた低い声だった。



「…しばらくの辛抱だ。耐えてくれ」


「………………」



返事が出来なかった。

もうこれ以上話しかけないで。

今にも爆発してしまいそうな感情を抑えられない。



あなたなんて 大 嫌 い よ。



旦那様は、また自分が被害者のような、悲しそうな顔で退室し行った。


誓約書に離縁許容期間は、要相談の上5年後と記載されていた。

この状況で、あと1年も我慢できるだろうか。


身分の高い公爵令嬢の言い分が通る可能性はゼロではない。

改めて、旦那様も味方じゃないと実感した。

名ばかりとはいえ妻の私に、あの冷徹な対応。

商会長の言っていた通り、貴族は自分の体面の為に

冤罪を有罪にする権力がある。


私は、この理不尽な状況に、

今にも叫び出しそうになるのを必死で抑えて、

悔しさで流れる涙を止められなかった。



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