牛乳のクリームスープと領地視察
「当家のシェフに聞いたレシピで作ってみましたが、
どうでしょうか。口に合うといいのですが…」
孤児院の子供たちの農作業と畜産手伝いの対価、
野菜と羊肉と牛乳が次々大量に教会に届き、
どうせなら栄養たっぷりの美味しい物をと、誰でも簡単に出来そうな
牛乳のクリームスープを子供たちに指導しつつ作ってみた。
「いい匂い~!」
「美味しそう!」
食卓テーブルに並べられたスープを前に、すでに子供達は大喜び。
「では、皆さん神様と自然の恵に感謝していただきましょう」
「いただきます‼︎」
来月からは、小麦とチーズも対価として現物支給してもらえるから、
パン職人を招いて、パンの作り方も皆に伝授する予定でいる。
これで子供たちがパン屋や酪農に就職できる可能性も広がる。
そうだ、チーズが手に入るのなら、次はグラタンも挑戦してみよう。
「美味しいいいいいっ!」
「お肉と野菜がいっぱい!」
「牛乳嫌いだけど、このスープは美味しい!」
大旨好評のようで、私は胸を撫で下ろした。
栄養バランスもいいし、美味しいし、簡単だし、
育ち盛りの子供には、すごくいい食事のはずだ。
「作り方も簡単だから、
次からは皆んなで、教えた通り作ってみてね」
「はーーーーいっ♪」
「奥様、そろそろ…」
「あ、そうね。司祭様にご挨拶してから行くわ。
先に馬車に乗っていて」
次の予定は、トービの栽培実地試験の領地の視察だ。
商会長とも待ち合わせしているから、遅れないようにしなくては。
司祭様に挨拶を終えて、教会から出るとバッタリ、
フォスナー先生と鉢合わせた。
「ご、ご機嫌よう、フォスナー先生」
「アーディヴェルテ侯爵夫人、もうお帰りですか?」
「ええ、これから視察ですの。
よければ、先ほど牛乳のクリームスープを皆んなで作ったので、
召し上がってみてください」
「そうですか。相変わらずお忙しいですね。
いい匂いがすると思ったら、スープだったんですか。
ご馳走になります。ありがとうございます」
「ふふっ、では失礼します」
「あの、アーディヴェルテ侯爵夫人、腕の具合はいかがですか?」
「もう、すっかり痛みもありませんわ。ご心配おかけしました」
「…いつも、あんな風なのですか?」
「はい?」
「アーディヴェルテ侯爵様です…」
「…いいえ。あの時は事故のようなものです。
暴力で支配するような方では、ありませんわ」
「そうですか…なら、いいんですが…
あなたは幸せですか?」
「………っ、…ぇえ。
では、馬車を待たせてありますので失礼します。
授業頑張ってください」
「はい、ありがとうございます。
…お気をつけて」
一瞬、言葉に詰まってしまった。
あの濃いグレーの瞳が、真っ直ぐ私の真意を探るように見ていた。
多分、彼も私の咄嗟の嘘に気付いている。
“あなたは幸せですか?”
ずるい聞き方だ…
彼は、私に問うてるのだ。
旦那様が私に支配的な婚姻をしているのを疑うのではなく、
たとえ、彼が私を愛してようと、大事にしてようと、蔑んでいようとも、
“あなたは幸せですか?” と。
旦那様の人格を非難するのは不敬になる。
そして、たとえ事実であっても、
私が貴族らしく「そんな事はない」と否定するのを見透かしていた。
だから、私の本当の気持ちを聞いてきたのだ。
……嘘をついて、ごめんなさい。
あなたのまっすぐな優しさは、
偽り続けなくてはいけない私には、
毒になり、痛みになり、傷になる──────
* * * * * * *
「本当に不毛の地ね…もう肌寒いわ」
「ええ、この通り周りに何もないので、この広大な土地で作りたい放題です」
「そうね。伐採や整地の手間が必要ないのは、凄く助かるわ」
「宿舎を作る材料は、近くの森林から調達するとして…」
「あ、そうだわ。建築を増やしたいのだけど…」
「宿舎ですか?」
「いいえ、私の別荘というか、あの丘の上辺りに」
「侯爵夫人の別荘ですか?静養用にでも?」
「ここの領地の所有権は私に譲渡されたから、
そんなに大きな家じゃなくていいから、領主の自分の住居が欲しいの」
「なるほど、そうですね。
少しずつ発展させて、村を作るのもいいですね。
う~ん、ワクワクして来ました」
「ふふっ、私もです」
これなら、離縁した後の保険の住居だとは誰も思わないだろう。
私の計画は、着々と順調に進展していた。




