予期せぬ来訪者
「みんな、お疲れ様!完売よ」
「やったー‼︎」
「すごーい!」
「ご褒美にオレンジのパウンドケーキ焼いてきたから、
片付けたら、みんなで食べましょう!」
「わーい‼︎ ありがとう、マーガレット先生‼︎」
「軒先テントは俺が片付けますから、侯爵夫人は休んでください。
怪我もしていますし」
「ありがとう。
そうね、足手まといになりたくないし、お茶とお菓子の用意をするわ。
申し訳ないけど、力仕事は任せていいかしら?フォスナー先生」
「任せてください!」
そう言って彼はテントの一部を持って倉庫へ片付けに行き、
その場を離れた。
「ちょっと、そこのあなた、バザー終わりましたの?」
「はい?ええ、お陰様で完売してしまいました。
申し訳ありません」
教会に入ろうとした瞬間、急に話しかけられ、
お客様かと思い振り向いて謝罪の言葉を述べると、
目の前に立っていたのは、どう見ても高位貴族の令嬢だった。
場違いな豪華絢爛なドレス姿に日傘をさし、
従者と侍女と護衛騎士を従えている。
「はあ、せっかくわざわざ、こんな所まで足を運んできたというのに…
無駄足だってって訳?在庫はないのかしら?一つくらいあるでしょ?」
「わざわざ来ていただいたのに申し訳ありません。
在庫も出払ってしまったんです」
「あら、あるじゃないの。あなたのしてるカチューシャ可愛いわ。
それでいいわ。いくらかしら?」
「これは売れません。申し訳ありません」
「何でよ?買うって言ってるのよ?」
「御所望でしたら、ロージー商会でも取り扱っております。
よければ、ご紹介いたします」
「はあ?貴族らしく寄付でもしろと言われたから、
今日やってる、このバザーに急遽来たのよ!さっさと渡しなさい」
「お嬢様…売り切れなら仕方ありません。
ロージー商会に立ち寄りましょう」
従者が見かねて進言するが、それを煩そうに扇子で払う。
「話題の貧乏臭いレースアクセサリーが欲しいんじゃないわ。
お父様に、ここに来たという証拠が必要なの」
「一体どうされました?」
「司祭様…」
「あら、バレン司祭じゃない。ご機嫌よう」
「これは、これは、お久しぶりです。高貴なラディアナ公爵令嬢が、
こんな辺鄙な教会のバザーに何の御用ですかな?」
公爵令嬢…やはり高位貴族だった。
「バザーをしてると聞いて、寄付のつもりで商品を購入しに来たのよ。
でももう完売だって聞いて、そこの女が着用してるカチューシャを
買ってあげると言っているのに、売れないんですって」
「そうですか。わざわざご足労ありがとうございます。
ですが、人気の品なので在庫も尽きて完売なのは仕方ありません。
そして、これは彼女の物ですし、高位貴族の方に着用済みの品は売れません。
不敬罪にあたり兼ねませんしね?」
「だから、私がいいって言ってるでしょ?
買ってもこんな安っぽいの私は身につけないし、
寄付した証拠になればいいんだから!」
「尚更、お売りできませんね。お帰りください」
「はあ?何ですって‼︎ 」
「これは平民向けのバザーです。
貴族の方々は支援という形で、参加していただいています。
それに、このレースアクセサリーの製作者はこの女性です。
侮辱するような発言は、お控えください」
「あら、この女が製作者なの?……それは失礼いたしましたわ」
「それから、この女ではありません。
こちらのお方は、アーディヴェルテ侯爵夫人です」
「………は?…なんですって…ダレン、の?」
「はじめてお目にかかります。
アーディヴェルテ侯爵の妻、マーガレットと申します」
「…………お前、がっ⁉︎」
宝石のような美しい目を見開き、
次の瞬間スッと細めた瞳で、憎悪を含んだ目で睨まれた。
この目は、嫉妬だ。
ああ、この方は、旦那様に懸想しているのだ。
旦那様を名前呼びしているということは、近しい間柄なのだろう。
彼女と私の立場が逆だったら、どんなに良かっただろう。
「どうぞ、お帰りください。あなたのような高貴な方には、
ここの下賎の空気は合わないことでしょう。
ああ、貴方様の今日の振る舞いは、
ラディアナ公爵様に報告させていただきます」
「お父様に?ちょっと⁉︎ やめっ…」
「お嬢様!もう、これ以上はお辞めください!帰りましょう」
従者と侍女に腕を掴まれ、引きずられる様に馬車に押し込めれられていた。
旦那様とは、どういった関係なのか少し気になったが考えるのをやめた。
だって、私には関係ないものね。
「大丈夫でした?大変でしたね」
「え?ええ。少しビックリしましたが、平気ですわ」
「あの方は、アーディヴェルテ侯爵の元婚約者なんです。
最近、留学先から帰ってきたようです」
「…そう、なんですか?」
「ええ、自分で婚約を解消しておいて、まだ未練があるようです」
「…ええ、好意がある感じはしてましたが…
では、なぜ解消したのでしょう?」
「はははっ、意味分かりませんよね。私もです。
今後、夫人に何かしてこないと思いますが、あの通りの気性の方なので、
アーディヴェルテ侯爵にも、さっきの件は報告はしておきます」
何だか面倒くさそうな令嬢に、目を付けられたようだ。
私たちの結婚は偽装なのに。
彼女からすれば、多分私は自分が居ない隙に、
愛しい人を横取りした、ドロボウ猫なのだろう。
面倒な事になる前に、早く離縁したい衝動に駆られていた。
* * * * * * *
「本当に、すまなかった」
もう寝ようと思っていたら、夜遅く帰宅した旦那様が部屋を尋ねてきた。
私の手首を見るなり腰を折って謝罪され、私は内心動揺した。
この人、気が利かないし、言葉は冷たいけど、
こういうのは誤魔化したりしないで謝罪するし、真面目で誠実なのよね…
「いいえ、ただの打身です。3日もすれば腫れも引きます」
「痛くはないか?」
「はい、もうほとんど」
「それから、ラディアナ公爵令嬢がバザーが終わってから来て、
迷惑をかけたと聞いた。家同士が決めた政略結婚の相手だったのだが、
関係が上手くいかず婚約解消している。
彼女との決別後の私の対応の甘さが、関係ない君を巻き込んでしまった。
随分な暴言を吐いたそうだな…重ねて申し訳ない」
「いいえ。大丈夫です。皆が守ってくれましたから」
「…あの男か?」
「…男?…バレン司祭のことですか?」
「ああ、司祭か…いや、下手に身分が高いから彼女は扱いが厄介でね。
今後また君に絡んでこないようにするよ」
「……はい。お心遣いありがとう存じます」
あんな感じだから、二人は上手くいかなかったのだろうか。
お陰で、こっちは偽装結婚させられる羽目になるし、
なんなら私の方が被害者だ。
明日は孤児院で、習いたての料理のレシピで牛乳のクリームスープ作りを披露して、
作り方を子供たちに伝授する予定だし、
午後から所有権を譲渡された領地の下見がある。
早く寝て備えなくては…




