1話:いきなり始まる同居生活?
突如、日常が思わぬところから急変した肇
偶然か それとも必然なのか 巡り合った物件は幽凪荘。
そこで起きる現象は 初めの世界観を一変させる日常だった。
僕は、近隣の火事に巻き込まれ、住んでいる場所は全焼…。
引っ越しを余儀なくされた大学生、「川瀬 肇」だ。
みんなもご存じの通り、大学生って時間はあるけど、バイトを入れようとすると、講義の時間とうまくかみ合わなくて、思うように入れられなかったりするんだよね。
まあ、全員がそうとは言わないけど…。
それで、引っ越しをすることになったんだけど、格安物件に決めた。
家賃は4万。聞いたら少し安いくらいって思うでしょ?
でも、1LDK、風呂トイレ別、アイランドキッチン、さらに駅近・家具家電付きなんだ。
だから不動産屋の人に、
「事故物件ですか?」
って聞いてみたんだけど、
「そんな報告は受けていませんし、事件があったという過去もないですよ」
とのこと。
だから、僕はその物件を即決して、そこに引っ越すことになった。
肇「えーと……マンション幽凪荘。ここだね。402号室っと」
鍵を開けて中に入る。
そうしたら、なんと! 写真よりもきれいで思わず声が出た。
肇「うわ~。これで4万って破格すぎるでしょ~。お得だね~。
とりあえず、いったん自分の住処の探検といこう!
とりあえず、食材を冷蔵庫に入れて……」
そうして食材をすべて冷蔵庫に入れていると、
{この人なら大丈夫そうだ。顔もタイプだし。ふふふ}
肇「ん? 今、なんか声がしたような……。気のせいかな?」
この物件の決め手は、家具家電付き。
なにせ火事で全焼したからね……。まとまったお金は入ったとはいえ。
そうして僕は、ここに来るときに一緒に買ってきた衣服を、クローゼットや衣装ケースの中に入れて、その日は次の日の大学とバイトのために、早めに布団に入ることにした。
特に夜は寝苦しいとか、物音がするとか、霊現象なんてなく、むしろ前の家よりも安眠できた。
ただ、事件はすぐに起きた。
大学で講義を受け、バイトを終わらせて夜に新居に帰ると――。
肇「えっ! なんで家、電気ついてるの?
俺、消し忘れた? そんなはずないんだけど……」
{ガチャ}
扉を開けて中に入ると、
肇「なんだ? すごい……みそ汁のいい匂いが……」
違和感を感じながらも、大学とバイトでおなかが減っていた僕は、そのままリビングへ向かった。
そしたら――。
「もうちょっとしたらご飯できるよ~。肇くんでよかったかな?
荷物置いて、座って待っててくれる?」
肇「あっ、すいません……ありがとうございます。助かります……。
……いやいやいや、誰ですか、あなた!
隣の部屋の人ですか? 間違えてますよ?
ここ、きっと僕の部屋なんで!」
驚く僕をよそ眼に、淡々と夕飯の準備をする人は、さらっと言葉を発した。
「とりあえず、夕ご飯できたから、一緒に食べよ?
話はそれからでもいいでしょ?
肇くんも、大学とバイトでおなかすいてるんでしょ?」
現状が理解できず、思考が停止していたのか、
それともおなかがすいていたのか。
僕は言われたまま机に腰を掛ける。
肇「いただきます!! {ずずず}
……おいしい! すごくおいしいです!」
「よかった! そう言ってくれると、頑張って作った甲斐があるってものだよ。
たくさん食べていいからね。って言っても、君の準備した食材だけど!」
肇「ところで、誰なんですか? 隣の人ですか?」
「んー、相変わらず料理上手だ~、うち。
ん? うちは……幽霊さんだよ?」
肇「そうですか。幽霊さんでしたか……。
……えっ!?
ぎゃぁぁぁぁぁっ! 幽霊だぁぁぁぁ~!!」
「うんうん。それがまともな反応だよね(笑)」
幽霊さんは、僕がびっくりしてテーブルを揺らしてしまったため、食材がこぼれないように、念力? のようなものと手を使って料理を保護していた。
{水を飲んで落ち着く}
肇「どういうことですか?
不動産屋さんは、事故物件でも過去に事件も何もなかったって言ってたのに」
「気持ちはわかるんだけど、まず自己紹介しよ? 肇くん。
うちは一ノ瀬カンナ。
不動産屋さんが言ってることは間違ってないよ?
このマンションで亡くなった人も、事件もないよ?
うちはこの土地に縛られてるに過ぎないからね~。
居心地いいから、どこにも行かないってのもあるんだけど」
カンナ「デザートの杏仁豆腐だよ?
おいしいと思うから、食べてみて?」
肇「どうも! {ぱくっ}
うまっ!!
お店のやつより食べやすくて、杏仁豆腐特有の薬みたいな味がしない!
これ、好きかもです」
その時思った。
カンナさんに、完全に胃袋をつかまれた、と。
肇「でも、おかしいんです!」
カンナ「なにが?」
肇「だって僕、霊感ないのに、カンナさんが生身の女性みたいにはっきり見えるんです」
カンナ「じゃあ? 私見てどう思う?」
肇「はい! きれいですごくエロいです。
あと、一つ一つのしぐさがとてもかわいいです」
その瞬間、カンナさんの平手が僕に飛んできた。
カンナ「可愛いなんて、何百年ぶりに言われたんやろ~?
だめだ~、やっぱりうれしいなぁ~」
ちなみに、その平手で僕は三回転くらいした後、
そのまま壁に刺さったのは言うまでもない。
{うん……この平手の威力。僕、いつでも死ねる……}
カンナ「肇くんに霊感や霊力的なものがあるんじゃないの!
君が交わした契約書に込めた霊的要素が働いて、
見える・触れられるを可能にしてるんだよ」
カンナさんの説明を要約すると、
この物件が空いていた理由は、事故物件だからではなく、
カンナさんが入居者を選んでいたから、長らく決まっていなかったということ。
カンナさんが見えるのも、契約書自体に霊的要素を込めていて、
それを書いた人にのみ力が反映する、というからくりだった。
カンナ「じゃあ、うちシャワー浴びてくるから、テレビでも見てて。
あっ! 覗きたかったら覗いていいよ?
んー、それか一緒に入る?」
いたずらな表情を見せながら、いけない誘いをしてくるカンナさんに、
僕は素直に顔を赤らめて、おどおどした口調になってしまった。
肇「だっ、だっ、誰が覗くんですか! 女性の裸を……!
もちろん、一緒にも入りません!
ハレンチなことを言わないでください。
そもそも、出て行ってくれたりするのは無理なんですか?」
カンナ「いいけど、私が出ていくと、ここに住めなくなるよ?
あと、今日みたいなご飯も食べられないけど……大丈夫そ?」
{それは……困るし……カンナさんの料理は、明日も食べたい……}
カンナ「じゃ、共同生活よろしく……ね?」
勝ち誇った表情で、カンナさんは風呂場に行くのであった。
そうしてお互いにシャワーを済ませて、僕が風呂場から出ると、
カンナ「紅茶入れておいたよ?
それともホットミルクがいい?
寝る前に飲むと、睡眠の質が上がるんだよ~」
肇「ありがとうございます。その前に布団、敷いてきます」
そして寝室の扉を開けると、布団はすでに敷かれていた。
だが、布団に対して枕が2つ……。
肇「えーと、カンナさん、これは?」
カンナ「ん? どうしたん? 布団一つしかないやん?
だから、一緒に寝るのが一番平和でしょ?」
肇「いやいやいやいや……なんで一緒に寝るんですか!
一人で寝ますよ。心臓に悪いです!」
カンナ「ひどい!
こんな可愛い女の子を、布団なしで押し入れで寝ろ!! なんて……。
肇くんがそんな男だったなんて……うち、うち悲しい……」
肇「いやいや、ドラえもんじゃあるまいし。
それに、幽霊に布団なんていらないでしょ?」
カンナ「それを言ったら、シャワーもいらないでしょ?」
{それもそうなんだよな……}
カンナ「シャワーを容認したんだから、布団もちゃんと容認しなさい!
そして、うちに抱かれておとなしく寝なさい。
いい匂いするよ? ほらほら~」
それとも……肇くんは、幽霊のうちに発情してくれるの?
それはそれで嬉しいけど。
肇「しません! しませんよ! 確かにきれいですけど……!」
カンナ「でもさ~。肇くん、顔真っ赤だし、ズボンがテントになってるよ?」
肇「ぎゃぁぁぁぁぁ~!!
これはあれですから! 違いますから! 大丈夫ですから!
……おやすみなさーい!!」
急いで電気を消して、布団に入る僕。
{これからの僕の当たり前の日常は、いったいどうなっていくんだろう……}




