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第6話:聖地集結と孤独な決意

 さきほどまで行っていた謎の石アイテムを鑑定する配信を終わらせて、わたしは脳内でアーカイブを見返すように記憶の沼に沈んでいった。



「今、『帰還のシステムキー』って……」


 イソーの口から漏れた言葉に、わたしは首を傾げた。イソーは先ほどからずっと顔が青いままだった。


「え?なんなんそれ?何もわからんかったけど」


 わたしは鑑定呪文を唱えただけで、実際にシステムメッセージが流れたことには全く気づいていない。正確には一瞬何かが流れたかもしれないけど、気に留めてもいなかった。


 イソーは慌てて周りを見渡した。わたしたちの周りでは、老商人と異世界住民がわたしの「鑑定の呪文」を神の儀式と捉えて歓声を上げている。この騒音の中で、重大な情報を伝えるのは危険だと判断したのだろう。


 彼はわたしの耳元まで顔を寄せ、小さな声で囁いた。


「ちゃうちゃん、鑑定の結果、文字が流れた。ごくわずかな一瞬だったが、俺は見た。『帰還の鍵』という文字と『世界法則の固定』、そして『認証条件:特定金額の御布施(認証完了)』って」


────────────────────────


 配信中の出来事を細かくを思い出し、それを理解した瞬間、わたしの顔からも血の気が引いた。


「特定金額の御布施……?それって……さっきのスパチャ!?」


 自身の理解と記憶を再確認するため、頭脳派リスナーであるイソーに問いかけた。


「その通りだ。あの特定の金額のスパチャが、この鍵となる石を認証し、世界法則の固定という効果を発動させた。つまり、あのスパチャは単なる金貨の交換じゃなかった。帰還への重大な手順の一つだったんだ!」


 わたしたちは、元の世界に戻るための決定的なヒントを無意識のうちに、しかも配信というノリの中で手に入れていたのだ。


「そんな……!じゃあ、この石が……鍵なの?」


 わたしが手に持った灰色の石を凝視すると、わたしたちの会話に聴き耳を立てていた老商人が再び声を張り上げた。


「おぉ!神の使いは、その鍵を手に、次なる目的地へと向かわれるぞ!皆の者!神の使いに祝福を!」


 老商人の的外れな預言は、この異世界において、たちまち"新たな真実"として拡散されていく。わたしは慌てて会話をを終了させた。このまま続けていれば、何を口走ってしまうかわからない。


 周囲に群がっていた異世界住民は、わたしたちを囲み、まるで勝利を称えるように手を振り拝み始めた。わたしたちの居場所が、今や森から街へと続く街道で最も注目される場所となってしまった。


────────────────────────


 その日の深夜、わたしたちは隠密行動を開始した。


 街道の喧騒から逃れ、森のさらに奥深くへと移動する準備を整える。昼間の騒動で、わたしたちの居場所が完全に露見したことは明らかだった。


 その時、イソーが警戒のために持っていたアイテムで、街の方角を覗き込み、息を飲んだ。


「ダメだ、ちゃうちゃん!もう遅い!」


「え?何が?」


 イソーが指差す方向を、わたしも目を凝らして見た。遠くの街の方角から無数の松明の光が、こちらの森に向かって進んでくるのが見えた。その光はまるで夜の川の流れのようにどんどん太く濃くなっていく。


「あれ、松明?…って、多すぎない!?」


 その数、数十どころではない。夜の闇を照らす松明の光は、数百、いや千人近い大群に見えた。


「あれはただの行進じゃない。集結だ!先頭にいるのは、昼間出会った"聖地"の老人と、叫びながら逃げて行った若い女性だ!」

 イソーが慌てた声で情報を伝える。松明の群れは、一糸乱れぬ行進ではなく、むしろ熱狂的な群衆のようだった。彼らは手に手に松明や、よくわからない聖遺物(たぶんわたしたちが配った金貨)を持ち、異様な熱気を帯びていた。


 ハッピ姿のリスナーが、街の方角から聞こえてきた音声を『スキル聞き耳』を使って拾い上げた。


「ちゃうちゃん!聞こえるぞ!『始まりの聖地【0, 0】へ!使徒様の教えのままに!』って叫んでる!」


「うそでしょ……!?」


 彼らは、わたしが適当にコールした座標【0, 0】を、本当に聖地として認識し、集結し始めているのだ。老人が去り際に言った「災いの場所が記されよう」という預言は、まさにこの騒動のことだった。


 このままでは、わたしたちは数時間後には、押し寄せる異世界住民によって、森の中で身動きが取れなくなる。


「逃げるぞ!とにかくここから離れるんだ!山岳地帯へ!」


 騎士姿のリスナーが先導し、わたしたちは松明の光とは逆の方向、人里から離れた山岳地帯へと逃走を始めた。この大騒動は、わたしたちが望まない形で、この世界の価値観を大きく塗り替えてしまった。


────────────────────────


 リスナーたちが山道を駆け上がる中、イソーは、誰にも気づかれないように、懐から小さなメモ帳を取り出した。エルフの細い手で、彼は素早く文字を書きつけていく。


>【ヒントA:座標】 始まりの場所。群衆の集結地。この法則は集団行動を引き起こす。

>

>【ヒントB:鍵】 特定金額のスパチャによる実体化。鑑定結果:『帰還のシステムキー』。法則の固定。

>

>【不明点】 帰還コマンド発動のトリガー(ヒントC)は何か?そして、鍵の使用方法。


 イソーは、雪兎ちゃうや他のリスナーが、この「帰還の鍵」が手に入ったことに興奮し、この逃走を「面白いネタ」として捉えている間に、この一連の出来事が偶然の産物ではないことを確信していた。


 この異世界転移は、何らかの巨大なシステムによって管理されており「配信のノリ」こそが、そのシステムを動かす唯一の「コマンド入力」なのだと。


 イソーは、雪兎ちゃうに全てを話すのは危険だと判断した。ノリと勢いが持ち味の雪兎ちゃうに、この深刻な真実を伝えてしまえば、かえって余計な混乱を招きかねない。雪兎ちゃうが無邪気でいることこそが、このシステムを誤魔化すための最大の防御になると直感したからだ。


 この謎は、自分が水面下で解く。そして、必要な時に、必要な行動をちゃうちゃんに促す。


 それが、頭脳派リスナーとしてのイソーが下した"孤独な決意"だった。彼は、元の世界に帰るという目的のため雪兎ちゃうという配信者を、時には欺き、時には利用するという、重い役割を担うことになった。


「ちゃうちゃん、急ぐぞ!次の配信場所を確保しないと!」


 イソーはメモ帳を懐にしまい、雪兎ちゃうとそのリスナーたちの群れに続いた。彼の瞳は、暗闇の中で、静かに、そして鋭く光っていた。



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