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第4話:異世界通貨雑談


「マズい……マズすぎる。このまま街に入ったら、豊穣の使徒として担ぎ上げられるか、穢れた異端者として吊るされるか、どっちかだよ」


 『スキル雑談』を終了させた後、わたしは頭を抱えながら、遠くに見える城塞都市を睨んでいた。


 イソーの深刻な分析「この能力が世界の法則に干渉している」は、まだ完全に理解できていないが、老人が聖地巡礼に向かい、若い女性がアイスキャンディ発言に怯えて逃げたという事実が、この能力の影響力を雄弁に物語っていた。


「とりあえず、街には入れないな。このまま森の中にいるわけにもいかないし……」


「ちゃうちゃん、俺たちの見た目をどうにかすれば、街に入れるかもしれない」


 ハッピ姿のリスナーが提案した。「俺たちの姿はアバターだ。このアバターの姿を、この世界に馴染むように変更できれば……」


 しかし、誰もアバターの見た目を変更するスキルを持っていなかった。わたしたちが持つスキルは、戦闘、情報分析、機械接続、そしてわたしの『スキル雑談』など、すべて元の配信活動や個人の趣味にに依存していたからだ。


 結局、わたしは新たな決断を下した。


「わかった!街には入らないで外から情報を集めしよう。そして配信は続ける」


 リスナーたちが一斉に歓声を上げる。この危機的状況で配信を続けるという決断は、わたしにとっては唯一の「日常」であり、何よりも、イソーの言う「能力の影響」のヒントを探るための唯一の手段でもあった。


────────────────────────


 場所を変え、川沿いの少し開けた場所に移動し、第2回目の『スキル雑談』を開始する。


「こんちゃう!雪兎ちゃうだよー!さて、今日は『異世界サバイバル生活・お金って何?』をテーマに雑談配信をします!」


 配信を始めると、すぐにリスナーのコメントが殺到する。


『お、お金か!』

『やっぱ異世界転生したら金策からやろな!』

『ヒロインが金に困る配信は最高だぜ!スパチャ投下!』


 わたしは、リスナーのコメントの盛り上がりに感謝しつつ、今回のテーマを説明した。


「そう、お金だよ!だって見てよ、この街。明らかに中世レベルの文化圏だよね?さっき見た老人が持ってたコインは、どう見ても金貨や銀貨やし。元の世界の電子マネーやスパチャが使えるわけがない!」


 その言葉を聞いた瞬間、リスナーの『スパチャ投下!』というコメントに混じって、あるリスナーからのスパチャが、わたしの光のウィンドウに表示された。


 それは、普段のスパチャと同じ元の世界の通貨単位によるものだったが、その金額が妙にキリの良い見慣れた数字だった。


「お、スパチャだ!『スパチャありがとう!』って言いたいところだけど、これは元の世界のお金やん?異世界じゃ使えないwwww」


 わたしはいつものようにコメントを読み上げ、笑いに変えようとした。


 その時、イソーが真剣な表情で、わたしの腕を掴んだ。


「待って、ちゃうちゃん。今のスパチャのデータ消えてないよ!」


「え?だって、この異世界でデータが処理されるわけないやろ」


「いや、スパチャ自体は元の世界で処理されてるはずだ。だが、この『スキル雑談』ウィンドウの中に、さっきのスパチャと同じ金額のアイコンが異世界通貨の金貨のような形になって残っている!」


 わたしは目を凝らした。言われてみれば光のウィンドウの隅に確かに小さな金色のコインのようなマークが一つ表示されている。そのマークは、さっき流れたスパチャの金額とリンクしているように見えた。


「え、これ、もしかして……スパチャが異世界通貨に変換されたってことなん!?」


 驚愕していると、さらに別のリスナーから、同じキリの良い金額のスパチャが連続で投下された。


『同額テストスパチャ!w』

『テストなら無料か?www』

『おお!この金額だと金貨になるんかw』

『ほなワイも投げとくかw』


 その度に、ウィンドウの中に金貨のアイコンが一つ、また一つと追加されていく。


 そして、そのスパチャを投げたリスナーのアバターの口から、驚きと興奮が混じった声が上がった。


「うおお!マジかよ!?さっきスパチャ投げた瞬間、俺の目の前に『金貨を認証しました』ってメッセージが出たぞ!」


「ちょ!俺も出た!これ、元の世界のスパチャが、この異世界で使える通貨に変わるってことか!?」


 わたしとイソーは顔を見合わせた。


「これだ……!」イソーの瞳が、データ解析に取り憑かれたように輝く。

「この能力は、元の世界の経済活動を、この異世界の法則に無理やり当てはめている!このスパチャは、単なるお金じゃない。特定の金額のスパチャは、この世界で『何かを認証する鍵』になっている可能性が高い!」


 畳みかけるような解説に理解は全く追い付いていないけど、わたしたちが無一文の異世界転移者を卒業したのだけは伝わった。


 そんな事実を確認していると、わたしたちの目の前に一人の異世界商人らしき男が姿を現した。彼は、わたしたちの目の前に浮かぶ光のウィンドウを見て、興奮した表情で近づいてきた。男の目は、ウィンドウの隅に浮かぶ、金貨のアイコンに釘付けになっていた。


「お、おお……!神の使いよ!その天の御恵み(金貨のアイコン)を、この老いぼれ商人に譲っていただけぬか!?」


 配信という名の、元の世界と異世界を繋ぐ奇妙な経済活動が今、始まった。


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