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最終話:バイバイ異世界


 どんちゃん騒ぎの祝勝会から一夜明けた。  城塞都市の空気は、昨晩の熱狂が嘘のように澄み渡っている。重い頭を振って起き出した雪兎ちゃうは、住民が持ってきてくれた「アルカディア特製滋養強壮バナナジュース」を飲み干し、最後の目的地へと向かった。


 案内人は、イソー。向かう先は、世界の特異点にして原点である聖地【0,0】。

 そこはデータの残滓がオーロラのように揺らめく、幻想的な空白地帯だった。


「……なんだか寂しくなるね」


 ちゃうは、少しだけ名残惜しそうに背後の景色を振り返った。そこには、アカリとシロークルー、そして防衛ネキをはじめとする、昨晩共に笑い明かした異世界の住民たちが待機していた。


「使徒様、この恩は一生忘れない。貴殿の教え通り、自由を謳歌してみせる!」


 シロークルーが感極まった声を上げる。その隣で、防衛ネキが誇らしげに胸を張っていた。彼女の隠しスキル『グッズ制作』。それは防衛資材を転用し、この世界に存在しない「思い出」を物質化する唯一無二の力。


「この世界からあたしらがいなくなっても、みんなが『雪兎ちゃう』を忘れないようにね。これ、全部あたしの手作りだから」


 防衛ネキが指を鳴らすと、拠点に山積みされていた資材が光り輝き、無数のアイテムへと姿を変えた。デフォルメされた雪兎ちゃうのぬいぐるみ、ロゴ入りのアクリルキーホルダー、そして「黄金のバナナ」が刻印された限定バッジ。



 それらは、集まった住民一人ひとりの手に渡された。ちゃうは照れくさそうに笑いながら、一人ひとりと握手を交わし、別れを告げた。


────────────────────


ポータルの渦が【0,0】の座標で激しく回転を始める。帰還の時だ。


 ちゃうは、操作ウィンドウの前に立つイソーを見つめた。


「なぁ、イソー。こっちに残るんやろ? ……そしたら、元の世界におるイソーはどうなるん?」


 それが、ちゃうが抱いた最後で最大の懸念だった。だが、イソーは眼鏡の奥の瞳を和らげ、静かに首を振った。


「案ずるな。私はこの世界の管理OSが、君の記憶を媒介に顕現した一時的な姿に過ぎない。君が帰還し、あちらの世界のシステムに再接続すれば、君の記憶の通りに『イソー』は再現される。……明日の朝、君が配信をはじめれば、きっとコメント欄にヒョッコリ現れるだろう」


「……そっか。よかった」


 ちゃうは安堵の溜息をつき、一行と共に光の渦の中へと一歩踏み出した。


「シロークルー! アカリ!イソー! この世界のみんな! ほんまにありがとう! ウチ、あっちに帰っても、あんたらのこと絶対忘れへんからな!」


 その瞬間、最前列で防衛ネキ謹製の「ちゃうぬいぐるみ」を抱きしめていた少女が、全てを見通すような声で呟いた。


「使徒様、ありがとう! 私、わかるの。また絶対に来てくれる。この世界がまたピンチになったとき……黄金の光と一緒に、使徒様は必ず戻ってくるって」


 その予言めいた言葉を最後に、ちゃうの意識は爆発的な光の中に溶けていった。


────────────────────


 ……ピッ、ピッ、ピッ!


 聞き慣れた目覚まし時計の音が、現実を引き戻す。

 目を開けると、そこは豪華な宮殿ではなく、使い慣れた安物の布団。窓の外からは都会の騒音が聞こえてくる。


「……あー、戻ってもうた」


 ちゃうは、天井を見上げて呟いた。身体が重い。あの無敵のステータスも、最強の武力も、全知全能の演算能力も、ここにはない。あるのは、少し寝癖のついた二十代の自分と、飲みかけのペットボトルが散らかったワンルームだけ。


「……夢、やったんかな」


 少しだけ、雪兎ちゃうの姿を失ったことに後悔が滲む。だが、時計は無情にも進む。彼女はいつものルーティン通り、PCのスリープモードを解除した。


「……よし。やるか。朝活配信」


 マイクをセットし、OBSを起動。配信開始ボタンを押した瞬間、彼女の声は「配信者・雪兎ちゃう」へと切り替わった。


「――はいどーも! 全多層次元の皆さんおはちゃう! ……あ、間違えた。みんな!おはちゃう、見ちゃう!聞いたちゃう!しゃべっちゃう!雪兎ちゃうです!」


 画面には、いつものようにリスナーたちが集まってくる。

 ちゃうは、堰を切ったように話し始めた。祝勝会のあのご馳走のこと、聖地での別れ、そして防衛ネキが配った最高にクオリティの高いグッズのこと。


「ほんまやって! ネキがめっちゃ腕上げててさ、ちゃうのぬいぐるみが市場価格の3倍くらいで売れそうな出来やってん!」


 リスナーたちは「妄想乙」「ネキそんなキャラじゃないだろw」と、いつものやり取りで返してくる。その中にはこちらの世界のイソーのコメントも確認できた。


 だが、ちゃうのトークが熱を帯びるにつれ、彼女の身体に異変が起きた。


「――っ、あ、これ『スキル雑談』!?」


 不意に、部屋の空気が震えた。本来あるはずの生身の彼女の姿がノイズに包まれ、中空に見覚えのある配信ウィンドウが現れた。

 

 次の瞬間、あの異世界の「救世主」の姿をしたアバターが、この現実世界に顕現した。


さらに、部屋全体が圧倒的な光に包まれていく。


「ちょ、これ……また!? 配信中やで、これ……!」


 空間が歪み、現実の床がふっと消える感覚。


 また飛ばされる。あの、騒がしくて、面倒くさくて、けれど最高にエキサイティングなあの異世界へ。


「……ははっ、ほんま勝手な世界やw」


 ちゃうは、消えゆく意識の中で苦笑いをした。

 少しだけ後悔していたはずの自分はどこへやら、今の彼女の心は、次に始まる冒険への期待で爆発しそうになっていた。


「なんか知らんけど、ちょっといってくるわ、みんなぁあああああ!」


 黄金の光が彼女を完全に飲み込む。


 PCのモニターには、アバターの居ない背景と、爆速で流れ続けるリスナーのコメントだけが、静かに残されていた。






『ほなワイらも行くかwwww』


『まったく世話のやける推しやで』


『しゃーない、次の場所でもベーコンエッグ丼作るかぁwww』


『ベーコンエッグ丼!それ、確信犯やろw』






───── 完 ──────



最後まで拙作にお付き合いいただきありがとうございました。

ひとまず「異世界びっぐぶいちゅうべぇ」の物語はこれにておしまいとなります。


急ぎで書いていた為、誤字脱字や内容に整合性がとれていない部分などがありますが、ご愛嬌という事でご勘弁頂ければと思っています。


そんなわけで、これから異世界でベーコンエッグ丼を作ってきますw


またねー!



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