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第3話:異世界初のスキル雑談と座標騒動


「こんちゃう!!雪兎ちゃうです!今日も元気に配信していくぞー!」

「えーと、ここはどこだっけ?w」


 わたしがそう宣言し『スキル雑談』のウィンドウを起動させると、半透明の光の粒子が周囲に拡散した。その光は、雪兎ちゃうの全身から湧き出し、森の木漏れ日を受けてキラキラと輝いた。映像と音声の波を乗せて、どこかの受信者へと送り出されていく。


「異世界で初配信ということで、始まりの場所、つまり座標【0, 0】からの配信としますっ!」


 未だ自身の所在が不明なのを再確認しながら、わたしは冗談めかしてそう宣言した。


 配信を始めた途端、リスナーたちは一斉に歓声を上げ、いつものように賑やかなコメントの波が、光のウィンドウの端に流れ始めた。


『うおおおお!異世界配信キター!待ってたぜ!』

『座標0, 0は草!初期スポーンかよwww』

『スキル雑談って名前がもうネタじゃん!最高!』

『生きててよかった!心配したぞちゃうちゃん!』

『スパチャ投下!異世界にスパチャ送れたっけ?』


 この見慣れたコメントの羅列こそが、わたしにとっての最大の安心材料だった。配信は順調。スキル雑談はリスナーへと確かに繋がっている。


 わたしはコメントを拾いながら、現状を報告し始めた。城の牢屋から脱出したこと、身体が雪兎ちゃうのまま戻れないこと、そしてこの『スキル雑談』という特殊能力が開花したこと。


 その時、頭脳派リスナーのイソーが、真面目な顔で声を上げた。彼の背後で、わたしの頭上から漏れ出る光の粒子を、興味深そうに観察しているリスナーたちがいる。


「ちゃうちゃん、その能力、多分俺たちリスナーだけじゃなくて、この世界の誰かにも見えている可能性があるかもよ」


「え?マジで?どういうこと?」


「さっき、ちゃうちゃんから出た光の粒子が、あの川の水面に反射した時、一瞬だけ配信画面の映像が水面に映ったんだよ。それもコメント欄付きで」


 イソーが指差す先には、木漏れ日が差し込む穏やかな川の流れがあった。わたしたちの姿と、その横を流れるコメントが薄くぼやけた映像として確かに水面に映り込んでいた。


「うわっ……これ、異世界の人たちに丸見えやん!」


 この事実に、リスナーたちは大いに盛り上がった。


『ちょw異世界の人たちに、俺らのコメント読まれるのかよwヤバすぎだろwww』

『おい、聖地巡礼するぞ!』

『異世界ガチ勢の皆さん、こんちゃう!』


 わたしは頭を抱えた。てか、このノリは異世界で通用するの?


「ちょっと!みんな!変なコメントは禁止!『異世界ガチ勢』とか言わないで!文化摩擦で捕まるから!」


 そう冗談半分で注意を促していると、突然後ろの茂みがゴソゴソと揺れた。


 騎士や魔法使い姿のリスナーたちが、警戒して武器を構える。

 一瞬の緊張感に場が包まれたがしかし、茂みから現れたのは甲冑姿の兵士でもモンスターでもなかった。


 ぼろぼろの服を着た一人の痩せた老人だった。老人は目を丸くし、わたしたちの集団、特にわたしの容姿と目の前に映し出された『スキル雑談』ウィンドウを信じられないものを見るように見つめていた。


「お、お前たち……!天からの啓示を撒き散らす、異端の使徒か……!」


 老人は恐怖に震えているようだったが、その瞳には強い好奇心と、どこか信仰にも似た光が宿っていた。


 何を言ってるの?このおじいちゃん…と思いながらも一応説明してみる。


「えーと、異端の使徒が何だか分からないけど…VTuberの雪兎ちゃうっていいます!あの、もしかして、わたしの配信、見えてました?」


 なぜか老人はわたしの言葉には答えず、おずおずとわたしの足元に近寄った。そして、先ほどわたしが「座標【0, 0】」と宣言した場所の地面を拝むように触り始めた。


「……始まりの聖地……。遠い昔の預言書に記されし、世界が始まる地点……」


「ええっ?何言ってんの?おじいちゃん!そこ、今ちゃうが立っていただけの場所!座標も適当に言っただけやし!」


 わたしが慌てて否定する最中にもリスナーたちのコメント欄は容赦なく流れる。


『おじいちゃん可愛いwww』

『そこ、初期スポーンじゃなくて聖地だったのかよ!』

『ネタバレ禁止な!おじいちゃんは即ブロックでwwww』


 老人は、このリスナーたちのコメントを「神の言葉」として聞いていたのだろう。彼は、さらに深く頭を下げた。


「その神の言葉コメントの中に、いずれ災いの場所が記されよう。我々は、その『0,0』が世界の起点であることを広く伝えねばならん!」


 老人は、わたしとリスナーたちに意味ありげな言葉を残し深々と頭を下げると、一目散に街のある方角へと駆け去っていった。


「意味はわからなかったけど、元気なおじいちゃんだったねぇ」


 そんな話題で雑談配信を再開すると、入れ替わるように老人の騒ぎを聞きつけたらしい、一人の若い女性が、こちらに目を向けて立ち止まった。彼女はわたしの姿を見て、目を輝かせた。


「あ……!噂の『豊穣の使徒』様!?」


 彼女は、わたしの姿を見て感激した様子だったが、すぐにわたしの前に流れるコメントに視線が吸い寄せられていった。


 彼女の丸く見開いた目に映るコメント欄は相変わらずだ。


『衣装が緑色だから豊穣!?w』

『原因は頭の葉っぱやろwwww』

『白髪とツインテが雪兎じゃなくてアイスキャンディみたいだなw』


 コメント欄の文字を必死に読み取ろうとしていた彼女が「アイスキャンディ」というワードに気付いた瞬間、その健康的な薄桃色の顔がサッと青ざめた。


「ひぃっ!使徒様のお姿を"アイスキャンディ"だと侮辱する者がいる!うぅ…何なの?この光る文字は……真の啓示ではないの!?うゎぁああああああああああああああああああああ!!!」


 彼女は悲鳴を上げ、慌てて逃げ去ってしまった。


 彼女の何とも意味不明なリアクションに対して呆然としてしまう。


 リスナーのコメント欄は、この予想外の文化摩擦に大いに沸いていた。わたしは頭を抱え、このスキル雑談という能力の恐ろしさを痛感した。


「マズい……マズすぎる。わたしのおふざけと、みんなのいつものノリが、この世界に影響してしまう。適当に宣言した座標が、この世界での聖地になってしまった?」


「しかも『豊穣の使徒』?一体どういう宗教観なの?」


 まるで分らないといったわたしの表情を感じたのか、頭脳派であるイソーが、深刻な面持ちで分析を始めた。


「ちゃうちゃん、これは単なる偶然ではない。この能力は、我々の元の世界から持ち込んだ『法則』を、この世界の根源的な魔力の流れか、あるいは法則に、直接異常な影響を与えていると考えるべきだ」


 イソーは周囲を見回し、更に難しそうな表情で声のトーンを下げた。


「特定の言葉や定型的な行動が、異世界の住民に『預言』や『神の指示』として伝わっている。この配信をこのまま続ければ、意図せずこの世界全体を巻き込んでしまうことになる。帰還の方法を探す前に、この能力の影響を何とかコントロールしなければ、本当にこの世界を壊してしまうかもしれない」


 何を言っているのかはさっぱり分からなかったけど、イソーが心配そうに放つ言葉に、わたしは少しだけ悪ノリがすぎたかな?という自責の念が芽生え始めた。


────────────────────────


 その後、雪兎ちゃうが異世界での初配信で適当に宣言した『座標【0, 0】』は、異世界で『聖地』という名の社会問題となり、この世界に住む人たちに非常に大きなインパクトを与えた。



 ──────わたしは強く決意した。


「わかった。この能力『スキル雑談』は、わたしとみんなを繋ぐ命綱だ。絶対に手放さない。でも、この世界を壊さないように慎重に、そして誰にも気づかれないようにコントロールしなければならないんだ!」


 と、自分で言ってはみたものの言葉の意味は良く分かっていない。ノリと勢いがわたしの持ち味だから!


 この日から、雪兎ちゃうの『スキル雑談』は、異世界のルールとリスナーのノリの間で綱渡りのような道を歩む配信となった。



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