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EP1-8 桐島家と一色家

夢を見ていた

非道い夢だった

昔の暗い暗い悪夢

外では雨が降っている

少年の身体には幾つもの衝撃が走り、連続する痛みで気絶することもできない。

もう限界だ

このままでは死んでしまう

気が付けば

少年は両親を殺していた

肌にまとわりつくようなじめじめとした雨の日の出来事


非道い夢だった


田中は目を冷ますと外では雨が降っているようだった。

背中の傷が痛い。

ふと隣を見ると朱奈が無防備に眠っている。前回と同じように抱きつく様に眠っている。

阿部は壁に寄り、腕を組みながら眠っている。

その光景に思わず田中は微笑む。

和気は相変わらずフトンの中でぐっすりとイビキをかいている。


今日は日曜日。今日が学校の休みの日で本当に良かったと田中は思う。

背中の傷はどうでもいいが静かに一人で心を落ち着けていたい。

田中は昨日のあの後の事を思い出す。




「こりゃすげぇな…」

田中の背中を見て長谷川 一はそんな感想を述べる。

朱奈に医者に行くようにせがまれた田中は昔マリアが紹介してくれた医者の所に行った。田中も何度か利用したことがあるので長谷川 一とは顔見知り。

朱奈はフロントで待っている。

「は〜…肉体強化系の能力に感謝するんだな。普通なら即死レベルの量の銃弾だぞ。」

なんて言いながら体にめり込む銃弾を一つ一つ何喰わぬ顔でとりはじめる。

聞いた話によると一は昔裏の仕事でマリアのパートナーをしていた時期があるらしく。こんな傷を見ても何も言わず治療してくれる。

「この調子なら消毒して包帯巻いてもすぐに治るだろ。まったく一体何食ったらそんなになるんだか…ビスコか…ビスコなのか。あれで赤ちゃんでも凄く強く成れるもんな。」

なんて軽く冗談を言ってくる。

「ま、傷の事についてとやかく言う義理はねぇし、てめえがどこで死のうと俺は関係ないけどよ…」

医者にあるまじき事を軽々と言ってのけやがったよコイツ。

「ああゆう真っ直ぐそうな女をそんな理由で不安がらせんなよ。」

うわぁ…臭いセリフなんて田中が思って黙っていると、今ごろ恥ずかしいのか少し顔を赤らめる。

「何か反応しろよ!俺がメチャクチャイテェ存在じゃねぇか!」

なんて言いながらも治療は終わる。

治療室から出て、フロントに戻ると朱な奈の姿を確認。


どうやら疲れてしまった様子でグッスリと眠っている。

受付の看護婦さんからは何やらクスクスと笑われているような気がする。

看護婦さん曰く治療を田中が受けてから、先程まで何もせずにずっと田中の無事を祈っていたらしい。

まぁ、疲れて眠ってしまったようだが。


そんな朱奈の寝顔を見て、一さんが言ったことも満更ではないな〜と思う。

帰りは朱奈を起こさない様におんぶをしてゆっくりと帰る。

背中の温かい温度を感じながらゆっくりと。

住吉荘に帰ると今度は田中がばったんきゅ〜。

そのままこの時間まで眠っていたようだ。




田中の起きた気配を感じたのか阿部が目を覚ます。

「む…どうやら大丈夫そうだな」

「ああ…お陰様でな」

阿部は恐らく朱奈から話を聞いていたのか、田中の腹にキツい一撃を入れてくる。

田中はそれを特に抵抗すれことなく受け入れる。

「これで赦してやる…」

これだけ言って阿部はいつもの阿部に戻る。

軽く感謝する田中。

本当に昨日はヤバかった。下手したら朱奈を殺してしまっていたかもしれない。

「ケガはいいのか?」

突然寝たままの和気から声をかけられる。

どうやら起きていたようだ。

「少し痛むが問題ねぇな」

「そうか…油断すんなよ」

和気と久しぶりにまともな話をした気がする。

「ああ…気を付けるよ」

「田中…?」

隣で寝ていた朱奈が目を覚ます。

「田中!ケガは大丈夫か?無事なんだな」

先程二人に既にされた質問を朱奈はする。

「ああ…問題ない。それよりお前は大丈夫か?」

すると、田中の話などカンペキ無視して田中に抱きつく。

「ホッ、ホントに無事なんだな!良かったぁよ〜」

泣きじゃくり何時ものような言葉使いが無くなっている。



一通り泣き、落ち着くと朱奈は俯きながら田中に聞く。

「ヒグッ!田中…田中は私のことを怒って、ヒグッ!怒っているか?」

「は?」

「だっ、だって、私は無理にお前に付いていって…それに、ヒグッ!約束まで破って、勝手な事して、田中にケガさせて」

「いや、別に怒る必要なんてねぇよ。それにお前のお陰で助かったぐらいだ。ホントにあの時はヤバかったんだよ」

これは田中の本心。

恐らく、あそこで朱奈が田中を止めていなければ、大変な事になっていただろう。

「ホントか?」

「ああ…ホントだよ」

「ヒグッ!でっ、でもあの時の田中…まるで別人みたいで…怖くて」

別人。

朱奈の言った喩えはまさしく正しい。

核心を得ていた。

「俺が嘘ついてる人に見えるかぁ?お前、嘘解るんだろ?」

田中は事務所での出来事を思い出す。

「いや、ついてない…」

「だろっ?」

するとまた朱奈は田中の胸の中で泣き始める。


その時呼び鈴が鳴る。阿部が出ていく。

おそらく、香か、光かな…

なんて思いながら朱奈を落ち着かせようとする。

すると、部屋に客人が入ってくる。

誰かな?

なんて軽い気持ちで顔を上げた田中は一瞬で緊張。

客人の名は桐島 美鈴。

今この状況で一番会いたくない人No.1。

「なんで、桐島さんが?」

「気になっちゃって直接来ちゃいました。それよりこれはどうゆう事ですか?田中さん」

「いや、これは…その」

「田中さん…」

田中は思わず正座する。

美鈴は優しく微笑む。

けど、笑ってない。

今の状況を見て、阿部と和気はこっそりと部屋を出ようとする。

「阿部さん。和気くん。こっちにいらっしゃい…」

優しい…

けど、優しくない言葉で、命令系ではない言葉だが圧倒的な強制力を持って、二人にゆっくりと話しかける。

「二人にもちゃんと話を聞かないと。私が納得するまで…」

笑顔がこんなに怖いとは思わなかった。


「田中さん。先ず話を聞く前に一つ言っておきます。理由は知りませんが女の子を泣かせるなんて言語道断です。何が何でも女に涙を流させるなとあれほど言ったはずですが」

「いや、これは…」


「言ったはずです、理由は知らないと。」

「はい。」

「よろしい。それでそちらは?」

「えと…」

田中は答に詰まる。

「貴様こそ何者だ」

朱奈は先程から会話を聞いていたようで、田中に抱きつきながら美鈴を睨む。

「とりあえず、田中さんから離れてくださいますか?」

「む?何故だ?」

「当たり前だろ…」

「田中が言うなら仕方がない」

少し名残惜しそうに手を離す。

が正座する田中の膝の上にドンと座る。

「あの…」

美鈴が少し困った顔をする。

田中は美鈴の困った顔を初めて見た気がした。

「名を名乗れ。」

「桐島 美鈴です」

「一色 朱奈だ」

まるで真逆の名乗り方。

お互いの性格が真逆であることをお互いに理解する。

そしてもう一つ。

「一色?」

「桐島?」

「どうゆうことだ!田中」

「どうゆうことですか?田中さん」

二人に同時に同じことを聞かれ、正直かなり怖い。

「え…と、悪い。俺も理解できないんだけど…」

「説明しよう!」

一瞬静かになる部屋にバカの声が高らかと響く。

「「黙れ」」

静かに一蹴。

泣く泣く黙る和気。

御愁傷様と和気に手を合わせる。

「理解は全く理解できませんが、何故格式高い一色家の方がこのような場所に?」

軽く住吉荘を貶される。

「ふんっ!我が一色家をそのように呼べる貴様はどうやら本当にあの桐島家の者か。一体桐島家の者が田中達とどうゆう関係だ?」

何かヤバい空気になっている。

この二人以外の男三人は黙るしかない。

「私はこのお三方の…そうですね、身内の様な関係です。」

うわー、いつの間にそんな設定に?

「ほう?私は身内どころか同棲までしているぞ」

これは同棲と呼ぶのだろうか?

てゆうか、いつの間に同棲なんて言葉覚えた!?

「田中さん。」

矛先は田中へ。

他の二人は田中に手を合わせる。

「今日、和気君や阿部さんを連れて家にいらっしゃってください。ミッチリと稽古をつけて差し上げます。」

「バカを言え!田中はケガをしておるのだぞ!今日は1日安静にするように医者に言われている。」


あ、ヤバい。

三人の顔が歪む。

「ケガ?」

と言って田中の方を見る朱奈。

その顔は既に女としてではなく一人の武道家の顔に変化している。

「ケガをしたのですか?田中さん」

笑ってる。

けど、笑ってない。

「いや、まぁ…」

頭が上がらない。

「田中は暴力団の男から私を守ってくれたのだ」

まるで、自分のことのように語る朱奈。

しかし、三人の顔は更に引きつる。いつの間にか汗がでている。

「暴力団? そのような者達に遅れをとったのは、我が一族の顔に泥を塗りたくるような事ですよ。三人共!今すぐ私の屋敷に来てください。やはりミッチリと稽古する必要があるみたいです。」

と言って、ニッコリと笑う。

クドイようだがもう一度言う。

笑ってる

けど、笑ってない

「朱奈さんもご一緒にどうですか?ご馳走を用意しますよ?」

「いい…のか?」

はい、と頷く美鈴。

「私はあの一色家だぞ」

「貴女はどうやら少し家について誤解をしてるようですし、良い機会ですし、ご一緒に」

「うむ…さすがに私も貴様のことをイメージだけで判断してしまったようだ…。軽率な判断を赦してくれ」

「いえいえ。まだ幼いのに礼儀もしっかりと出来ていて、どっかのバカとは違い、すばらしいですね」

先程から美鈴の言葉が少しキツくなってきている。

「私は幼くなんてないぞ!田中達と同年代だ!」

「へっ?」

今日二度目の困惑の顔を田中達は見ていた。




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