EP1-6 桐島 美鈴
「お婿さんとはどういう事なのですか?田中さん。」
突然田中達の前に現れた桐島 美鈴。
笑ってる。
でも、笑ってない。
内面的な所が笑ってない。
「いや…それはコイツラが勝手に」
田中は本当の事を言う。
あくまで朱奈のことは隠しておきながらだが…
この人は自分達をまるで弟の様に思っているらしく、田中達の色恋沙汰の様な噂を聞けば、毎回過剰に反応するような人だ。特に田中に対してのその反応は少し異常な気がしてくる。
よって田中にとって今の状況は芳しくない。
田中はめんどくさい事態になる前に誤解を解いておきたかった。
しかし、ここにはバカがいた。
「おいおい。嘘は良くないよ。田中く〜ん」
バカ(和気)はまるでオモチャを与えられた子供の様な笑顔を見せ、こちらを見てくる。
田中は一瞬で理解。
コイツ…
和気を睨む。
和気はより一層笑みを深くしる。
「田中ったら最近、ちょっと訳有りの…ぶべらっ!!」
途中で和気の言葉は途切れる。
簡単な話、田中が全力で和気のみぞに拳をお見舞いしてやったのだ。
余りの衝撃に気絶する和気。
「どうしたー和気!たっ、大変だー。意識がないぞ(棒読み)」
田中は大袈裟に驚いてみせる。
「すみません。桐島さん。何か和気の意識が無いんで、急いで保健室に運ばなきゃ!では、失礼します。」
田中は和気を抱え、急いで去っていく。
その後ろを阿部が追いかけていき。
香も付いていこうとするが、美鈴に襟を捕まれる。
振り替える香に
「少し理解できない部分があるので、状況を教えてはくれませんか?香さん」
笑っている。
けど、笑ってない。
香は助けを求めようと田中達の方を見る。
二人は遠くからまるで死地に送り込んだ兵士に送るが如く敬礼を香に送っていた。
田中はわかっていた。
美鈴は田中達にのけ者にされるのが嫌いなことを。
そしてのけ者にされると、決まって事情を気弱な香から聞き出そうとすることを。
今まで経験から田中はわかっていたのだ。
しかも、香は部屋が違うため、詳しい事情は知らない。何故田中がロリコンなどと呼ばれているのかなんて解るはずかない。
更に更に、朱奈はあの一色家の人間で命を狙われているという話なので、周りの人には他言無用と釘を刺している。
故に、香は何も話すことができない。
田中はわかっていた。誰かが犠牲ならなければ美鈴からの追及から逃れられないことに。
グッド・ラック!香…
香は助けがこないことを瞬時に理解。ついでに田中に利用されたことも理解。
美鈴に少し抵抗しつつ持参のホワイトボードになにやら書いている。
『私も和気君のことが心配なので行かなきゃ。』
と書かれている。
「あら。まったく、香さん。私言いましたよね。何かを伝えたいならちゃんと相手の目を見て、言葉て伝えなさいって。」
優しく、まるで諭すように美鈴は笑っている。
けど、笑ってない。
香は逃げられそうになかった。
次の日。今日は土曜日で昨日の天気が嘘のような快晴。
しかし、そんな天気とは逆に田中は暗い。
その隣には相変わらず元気な朱奈。
二人は今住吉荘から二駅ほど離れた所にある街にあるとある事務所の前にいる。
とある事務所とは、例の通り暴力団事務所。この暴力団事務所はここら一体の事務所を実質上すべて支配するほどの力を有している事務所。
処理屋の田中といえど、あまり関わりたくない相手だった。
田中が暴力団という存在をしったのはいつ頃だろうか。
昔の頃の記憶はあまりないので思い出せない。
ただ、関わってはいけない相手。ぐらいのイメージは持っている。
何故こんな所にいるのかと言うと、処理屋としての仕事。
この街のとある老夫婦の家に事務所の人間が来たのは数日前。
新しい事務所をこの辺に建てるため、この土地を譲ってくれというもの。
老夫婦はこれを拒否。
何せ長く二人で暮らしてきた家。そこら辺に大切な思い出が幾つもある大切な場所。
二人はこの家を失いたくはなかったからだ。しかし、事務所の人達は一旦は退いたが、それからは陰湿な脅迫。それらに老夫婦は耐えられなくなり、この問題をどうにか処理してくれと相談してきたのが、一昨日。
そして今日田中達はその事務所と交渉しに行く予定だったのだが、和気は田中のパンチが痛くて暫く動けないとだだをこね、香は昨日の裏切りを恨んでいるらしく、部屋に閉じ籠り、阿部は別な仕事に駆り出され、田中一人でくることになってしまったはずだった。
しかし、
「これが悪党の住み処か。うむ!では行くぞ田中!」
田中の隣には何故か朱奈。
老夫婦の話を聞いて、居てもたってもいられずに付いてくると言い出したのが昨日のこと。
「許せんではないか!私も付いていくぞ!田中!奴らをコテンパンにするのだ。」
「いやいやいやいやいやいや…。お前解ってる?アイツラは…まぁ完全なるイメージだけどそういう奴らなんだよ。そんなのにいちいち怒ってんじゃねぇよ。それにお前は付いてんくな。危ねぇぞ。もしかしたら流血沙汰になるかもしれねぇし」
「構わん。そうなれば田中が守ってくれるのだろう?それとも田中はそんな小悪党に遅れをとると?」
「いや、それは無いけどさ…」
「なら、問答無用だな」
「………」
そんなこんなで朱奈は付いてきた。
ただし、交渉中は一言も喋らないことを条件付きで。
散々朱奈は拒否したが、そうしなければ何をしだすかわからない。
はぁ〜と深いため息を吐く。
そして朱奈を連れて、いざ事務所へ。
予想通りコヤツはひと悶着起こしやがるのである。