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EP1-4 静かな放課後


「ただいま」

「お帰り!お前一人なのか?」

学校が終わり部活もやっていない田中は特にすることもなかったので真っ直ぐ帰宅。

田中は朱奈がいることも半分忘れていたため朱奈のお帰り!に少し驚く。

誰かにお帰り、なんて言われたのもなんだか久しぶりに感じる。こういうのも悪くないなとか思っていると、何やら朱奈はごそごそとしている。

「何してんだ?お前」

「何って、外に行く準備に決まっておるだろう。貴様こそ何をしている。ボケッとしていないで、早く出かける準備をしないか!」

「貴様じゃねぇ、田中 太郎だ。」

「貴様こそ私は一色 朱奈だ。お前こそ私の名を呼べ!」

「いいのか?お前、超お嬢様なんだろ?そんな馴れ馴れしく呼んでも大丈夫なのか?」

「当たり前だ。私に変な気をつかうでない。そうゆうのは何か…うざったい。」


うざったい

恐らくこれは朱奈の心からの本音なのだろう。

様々な人に特別扱いされ、対等な関係など持ったことのない朱奈の本音。

「そうかい…じゃ行くぞ。朱奈。」

「気安く私の名前を呼ぶな。馬鹿者」

田中のせっかくの気遣いは台無し。

朱奈はごそごそと荷物をあさっている。

「さっきと言ってる事が違うじゃねーか」

田中はぼそっと呟きながら朱奈のほうを見る。

チラリと見えた朱奈の顔は少し紅くなり、口は微笑んでるように見える。

「効果抜群じゃねーか」

田中はニヤケながらまた呟いた。





住吉荘から少し歩いた所には商店街がある。他のスーパーなんかより商品は安く、街は買い物客で活気満ちていて田中はこの商店街が好きだった。

「田中!あれは一体なんなのだ!?」

朱奈は商店街に来てからずっとこの調子。

今度はわたあめに興味を引いたようで、屋台おじさんが子供達にわたあめを作っている姿をずっと見ている。

「食べてみるか?」

ある程度の買い物も済ませ、少し余裕もあるため、わたあめに目を輝かせている朱奈に買おうかと聞く。

朱奈は頷こうとしかけるが、わたあめを買っている子供達の年齢を予測。

いくら見たことも無く、興味をどれだけ引く品でも、年下の子供達のようにわたあめではしゃぐのは朱奈のプライドが許さないのか、首を横に振る。

朱奈は見るからに子供の様な姿をしているが、田中と同年代なのだ。

しかし、お腹からぎゅ〜っと空腹を示す音が鳴る。

朱奈は顔を真っ赤にし、反論。

「ちっ、違うぞ!これは食べたいとかではなく…」

必死に反論する姿は子供そのもの。

そんな朱奈の頭の上にポンッと手を置いて朱奈を止める。

そして黙って屋台の所に行き、わたあめを2つ買う。

「いや、俺も久しぶりにわたあめ食いたくなってな…そのついでだよ。お前食べた事ないんだろ?ほれ」

といってもう一つのわたあめを手渡す。

朱奈はまだ顔が紅いが、黙って手にとる。

「しょ、しょうがないな。せっかくの善意を無駄にするのもなんだしな…」

ぶつぶつと朱奈は呟きながらわたあめをしゃぶる。

「甘い」

「うまいか?」

「うん…うまい…」

どうやら朱奈はわたあめを気にいってくれたようだ。

わたあめをむしゃむしゃと、しかしわたあめの食感を楽しむように食べている。

そんな朱奈の子供っぽい姿に思わず笑ってしまう。

すると朱奈はわたあめを食べることも忘れて田中の顔をじっと見ている。

笑いすぎたかな…

田中はそう思い謝ろうとすると朱奈は思いがけないことを言った。

「お前…笑顔が良く似合うな。」

今度は田中の顔が少し紅くなる。

それも気にせず、朱奈はじっと田中の顔を、しかしどこか遠くを見るような顔で見ている。

田中はこれまでに笑顔が似合う。と何回か言われたことがあった。しかし、異性に言われた経験はないため、面を喰らう。

「どうしたんだ?急に」

「いや、そう思っただけだ。少し意外だったから」

変なヤツだな…

そんな事を思いながら、二人はまた歩き出す。

最後の買い物も終わり、住吉荘に帰ることにした。

結局あれから朱奈は考え込むように無口になった。

先ほどのように何を見ても興味を示さず、田中が話を振っても一向に反応しない。

時々田中の顔をじっと見たりするだけだ


やっぱり怒ってんのかな…

田中の超能力は読心系ではないため朱奈の心を知る術はない。


田中がそんなことを思いながら、ふと頭を上げると空はなんだか曇ってきている。

どうやら明日は雨になるかもしれない

「明日は雨かもな」

田中は呟く。

それを聞き、朱奈も頭を上げ、空を見上げる。

「お前…雨は嫌いか?」

突然朱奈が質問してくる。

「どうしたんだ?急に」

「私は雨が嫌いだ。じめじめするし、気分が暗くなる。」

無視かよ…

田中は心の中でツッコみつつも朱奈の突拍子もない質問に答える。

「俺は…俺は雨は好きだな。」

「何故だ?」

「なんていうか…たぶん俺は雨の静けさが好きなんだと思う。雨粒が岩にあたる音とかさ、気持ちの良い静けさっていうのかなぁ…」

久しぶりに詩人の様なことを言ってみる。

見ると、朱奈はまたもや田中の顔をじっと見ている。


「どうしたよ?お前がいろいろ反応してくんないと、俺ただの痛い人じゃんかよ」

「む?すまないな…少し考え事をしていた…」

そう言ってまた黙る。

しばらくしてから沈黙を破るは朱奈。

「よし!田中、私と手を繋ぐことを許す。繋いでいいぞ。」

急に楽しげに朱奈が手を差し出す。

「いつ俺が手を繋ぎたいなんて言ったよ。オイ」

「いいのか?もう一生繋ぐことなどできぬかもしれぬぞ。」

と言ってさらに手を田中に差し出す。

どうしても止める気配を見せなかったため、しかたがなく田中は手を握る。

意外と温かい。

「やっぱり思った通り田中の手は温かいな」

「どうしたんだ?お前」

「どうもしない」

「なんか変だ」

「変ではない」

明らかに朱奈の様子は変だが、どうやら機嫌はよくなったようだ。

手を繋ぐ二人の後ろ姿はどこか親子のようでありながら、恋人のようであった。




その夜。

住吉荘の食卓に異変。

「一体何したんだよ?お前?」

田中の反対側の席に着く和気が聞いてくる。田中の左隣の席の阿部はただ黙って成り行きを見届けようとしている。

住吉荘の食卓に起こった異変。

それは…

「田中!これはお前がつくったのか? 凄くおいしいぞ」

口の横に食べかすを付けながら、朱奈は無邪気な顔で田中に笑顔を向ける。

今日の朝まで光の席だった田中の右隣の席には朱奈が座っている。

ちょっとした異変。

しかし、大きな異変。

理由は田中にもわからなかった。




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