EP1-3 一色 朱奈
「という事でしばらく厄介になることになった。日本名は一色 朱奈。よろしく。」
ものすごいざっぱりとした自己紹介。
突然加わった新しい住人の出現に住吉荘の朝の食卓は静まり帰っていた。
朱奈のあまりに堂々とした態度に周りはただ、ただ呆然としている。
「ム?何をしているのだ?速く食わねば学校というのに遅刻するのではないのか?」
朱奈は周りの反応などお構い無しにご飯を食べている。
はぁ〜。
と男三人は深い溜め息をつく。
頭が痛い。
「どうした?元気がないぞ?朝それではこれからどうするのだ。」
「お前が原因だよ…」
三人は同時にツッコム。
「ねぇねぇ、田中君…」
「何ですか?光さん」
「この娘今一色って名乗ったよね?一色ってあの有名な一色さんだよね?なんでこんなとこ居んの?」
「色々あって…」
「どうやら色々と事情がありそうだな。ま、あの女が絡んでる時点でまともではないがな」
「わかってくれますか…徳子さん」
そんなやり取りをしている一方朱奈は香に興味を示したらしく、いじくりまわしている。
「どうして口で喋らんのだ。ちゃんと会話が成り立たないではないか」
香は顔を真っ赤にし急いで席を立とうとするが椅子がバランスを崩し、バタンと転んでしまう。更にその拍子にテーブルの皿が飛び、朝御飯のスクランブルド・エッグが止めと言わんばかりに香の顔に落ちる。
朱奈はあわてて手を貸そうとするが香が素早く動き部屋からでていく。
「むぅ?変なヤツだな。どうしたというのだ?」
お前のせいだよ…
田中は心の中でツッコム。
今から数時間前にまで遡る。
「この子は魔術師だ」
「「「は?」」」
聞き慣れない単語に三人とも思わず聞き返す。
「だから魔術師なんだって。理解したか?」
「イヤイヤイヤ。ちょっ待って!理解したかって無理でしょ!魔術師だ。はい、そうですかで済むと思ってんですか」
和気が珍しく正論を述べる。
「む?まぁ、解らんでもないが、世界には自分の想像もつかないモノなんていくらでもあるのだから、魔術くらいどうってことないだろ」
平然と言ってのけるマリア。
「この子は日本では四職と呼ばれる特別な一族の子で、日本名は一色 朱奈と言う。一応日本語も話せるしコミニケーションには問題はないだろ」
「イヤイヤイヤ!問題ありまくりでしょ!何で突然の自己紹介?何?コミニケーション?突然すぎてまるで話に追い付けねーよ!てゆうか魔術の件はもう終わり?」
和気は激しく反論する。
「じゃあ、単刀直入に言うとだな…この子はある事情で命を狙われている。しばらくここで面倒みてやってくれ。」
「はーい意味わからなーい!理解できなーい」
和気はうるさいので一旦黙らしといて、田中は冷静に質問する。
「誰に命を狙われているんですか?」
「教えられない」
「面倒ってここで?この部屋で?」
「うん」
「俺という存在を忘れてませんか?」
「問題ないだろ」
「香の部屋は?」
「あの子はコミニケーションがとりにくいだろ」
「俺たちに拒否権は?」
「ない」
はぁ〜
三人が何回目になるかわからない溜め息をつく。
これだ。これなのだ。これこそマリア。
自分勝手、破天荒、自己チュー。
しかし、三人が三人、マリアに大恩があるため皆、頭が上がらない。
田中の時もそうだった。
四年前、自分の人生を呪っていた田中の前に突然マリアが現れ、摩訶不思議な力でいとも簡単に田中を救ってしまったのだ。
あれ?
と田中の頭に疑問が浮かぶ。
「マリアさん。アンタも魔術使えんの?」
「ああ!もちろんだ。」
「もしかして、あの時使った力って魔術?」
「あの時? ああ…あの時のも魔術だぞ」
それならば田中は魔術の存在を認めないわけにはいかない。
田中は魔術で救われたのだから。
するとマリアは突然立ち上がり、窓を開ける。
「じゃ、私はいろいろ忙しいから、この子の事よろしく頼むな!」
それだけ言うと窓から飛び降りる。
思わず窓から頭を出す三人。
ここは三階。
それほどの高さでは無いにしても、女性が飛び降りるには無理がある。
しかし、マリアは悠然と着地。
上の三階の三人に笑顔と軽い挨拶を送る。
三人の頭には同じ疑問。
何故わざわざ窓から?
「おっ?なんだこの本は?」
呆然している三人の思考を有無を言わさず中断させる可愛らしい声。
三人は同時に振り向く。更に同時に衝撃が走る。
朱奈と名乗った魔術師は和気が変態大学生の光に借りたエロ本に興味を示したのか、エロ本に手を伸ばしている。
エロ本の表紙が彼女から見えないようになっているのが不幸中の幸いだろう。
一瞬。
阿倍は伸ばしている手を掴み、田中はエロ本に飛び付き和気にパス。和気はそれをベタにも背中に隠す。
てゆうか見知らぬ他人の部屋に来て、少しも臆すること無く興味の示すままに行動する彼女の行動力に三人は早速面を喰らう。
「うお!?一体なんなのだ?びっくりしたぞ!」
「びっくりしたのはこっちだ!いきなり何しとんじゃ!ガキ!」
エロ本に飛び付いたために倒れている田中が思わずツッコム。
朱奈は何の躊躇いもなく田中を左足で踏みつける。
「五月蝿いぞ。貴様は一体誰に向かってガキ呼ばわりしているのだ!私は一色 朱奈だぞ! それにお前!」
朱奈はエロ本を隠そうとしている和気にビシッと指差す。
「それを私に見せるがいい。これから私達は命を預け合う仲になるというのだぞ!私達の間に隠し事など言語道断だ!それを渡せ!」
左足を退かそうとする田中を加えた三人が途端にうごけなくなる。
見せれるわけがない!
朱奈が言った事は正論。これから赤の他人と暮らすのだからなるべく秘密は作りたくない。
でも、だからこそ三人は見せるわけにはいかなかった。
これから暮らすのに初日からこんなモノを見せれば四人の関係はギクシャクするのは当たり前。
田中と阿倍は同時に視線を和気に向ける。
その視線が語る意味を和気は理解する。
…お前がどうにかしろ…
元々和気がまいた種である。二人が和気を睨むのは当然。
「てめえ等裏切るのか!この前貸してやったじゃねーか!」
叫ぶ和気。
「止めろよ!そんなリアルな嘘つくの!お前がどうにかしろ!」
「何を騒いでいる!さっさと渡せ!」
三人は再びうごけなくなる。
「こ…これは〜、あ、あれだ!18歳にならないと読めないモンなんだよ!ざ、残念だったな…」
こちらもまた正論。
本の表紙にはR-18のマークが表示されている。
18歳未満の者は見るころはできない。
「たわけ! マリアが言っていたぞ。貴様等とて18歳ではないはずだ!」
あっさり看破。
「貴様等が見ることができて、同年代の私が見れないはずがないだろ!馬鹿者」
さぁ、渡せと言わんばかりに手を伸ばしている朱奈。
しかし三人は別の意味でうごけなくなる。
俺達と同年代?
あり得ない。あり得るはずがない。
朱奈は身長推定135程度。髪は黒で腰まで伸びる長髪は大人っぽいが、容姿は可愛らしいがどうみても高校生の顔つきではない。小学生とまではいかずとも中学生。
ランドセルを背負わせれば小学生です。と誤魔化せるレベルである。
「嘘つけ!」
和気と田中は同時にツッコム。
阿倍は朱奈の姿をじっと見ている。
「む?」
「む?じゃねぇ!お前が俺達と同年代なはずがねぇだろ!頑張っても中学一年生だぞ!」
朱奈はカチンときたのか肩を震わせている。
その時部屋の呼び鈴がなる。
和気はドアを開け、来訪者を確認。
来訪者を見た瞬間三人はまたうごけなくなる。
来訪者は香。
香がこの部屋にくるのは仕事がらみの時と、もう一つ。
香の趣味はエロ本鑑賞。こんな恥ずかしがり屋に似合わずエロ本が大好きなのだ。
マリアが朱奈を香の部屋にではなく、男三人の部屋に置いていった理由の一つ。
そして香がこの部屋にきたもう一つの理由は和気にエロ本を借りにきたのだ。
それの証拠に香は掌をひょこっと前にだしている。
マリアとはまた別の嵐が住吉荘にやってきた。
そんなこんなで三人は今ものすごい疲れている。
さすがに女の子を床に寝せるわけにはいかないので、三人が交代で使っていたベッドを使わせ、三人は床で寝たため当然のごとく疲れはとれるはずがない。
朱奈には三人はひとしきり落ち着いた後に昼間は学校に行っていること。故に昼間は住吉荘に一人で待っていて欲しいなどと基本的なルールを決めた。
疲れた田中の顔を面白そうに光は突っつく。
「いいな〜 楽しそうだな〜。エロ本くらい別にいいんじゃない?」
「黙っててください。」
「ケチ〜。私なんかも毎日見てるよ〜。」
「知ってます。アンタと一緒にしないでください」
そんなこんなで学校に行く時間になり、疲れた体を引きずりながら学校に向かう三人。
これからどうなるんだろう…
おそらくほとんどの人達が生きている内に感じる不安を三人は感じている。
体が重いのは、疲れだけではない。
そんな三人のことなど知らん顔だと言わんばかりに今日は雲一人ない快晴だった。