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EP1-18 朱奈の秘密


住吉荘を出ると、近くの道路に有った黒く塗り潰されたスポーツカーのようなデザインの車に田中達は乗り込む。


運転席にはマリアが。

助手席には香。後部座席には田中、阿部、和気が乗る。

後部座席に三人は流石にキツいが文句は言えない。

そのままマリアはアクセルを踏み、車を急発進させる。

いつの間にか、渡利の姿はどこにもなかった。


「あの…師匠、渡利さんは?」


和気は運転しているマリアに恐る恐る尋ねる。

運転しているマリアは何故か毎回機嫌が悪いからだ。


「あぁ?私も知らん!」

「知らんって…」


マリアの答に和気は少し呆れている。


「ま、問題ないだろ!呼べば直ぐに来るし。」


マリアの運転は決して快適と言ったものではなく、制限速度をガンガン無視し、どんどん車を抜いていく。

その運転技術は素晴らしいものだが、車の振動はガツンガツン来るし、車を次々と追い抜いているため、左右に激しく動き、乗って数分で田中達は正直ギブアップ寸前だった。


「師匠…。あれ、魔術とかで瞬間移動的なモノは無いんですか…?」


田中は弱々しくマリアに聞く。


「私は空間移動系の魔術は苦手でな!下手したら、全く知らない場所のコンクリートにめり込む事もあるかも知れないし、それは却下だ!どうせ、一色家の日本の別荘はここから三時間程度で着くし、車の移動で問題ないだろ!」


ところで、と言ってマリアは続ける。


「お前いつの間に魔術を信じる様になったんだ?朱奈は使えないはずだし…」

「まぁ、あれだけ見せつけられればな…」


田中は数時間前に魔術の片鱗を垣間見えている。


異常に輝く炎。

突然現れる扉。


あれを見て、まだ魔術を信じない田中ではない。


「一つ質問しても良いですか?」


その時の光景を思い出し、色々とマリアに聞きたい事があることを田中は思い出す。


「ん?何だ?」

「どうして師匠は朱奈を一色家から拐ってきたんですか?」


マリアの声が止まる。

暫くして、ん〜…と唸ってからマリアは語り出した。


「取り敢えず、お前達は一色家について、どれくらい知っている?」


マリアはハンドルを切りながら、田中達に質問をする。


「確か…神への扉を開く、すげぇ宝を守っている一族だとか。」


和気は思い出すように目線を上に向けながら答える。

実際田中達が朱奈について知っているのはそれくらいだった。


「まぁ、それだけ知ってれば上々だな。」


マリアはポケットから片手でタバコを取り出し、くわえて、火を着ける。


「正式名称は血印の赤宝と呼ばれる。一色家はこの宝を守っているわけだが、何分真理を無視して神の道を開いちまうような宝だ。最早人智を超えちまっている。創った張本人でさえ、破壊できずに封印するしかできないほどだったんだからな。」


フーと煙を吐きながら続ける。


「人智を超えた宝は人の封印術じゃ抑えきれずに何度か暴走して、その度に多数の命が失われた。それで、先人達はどうにかしてそれを鎮める方法を探した。じゃあ、一体その方法は何だと思う?」


マリアは少し前から目線を外し、怪しい視線を田中達に向ける。

誰もマリアの問に答えることは出来ない。


「ヒントはだな…その宝は人から産み出された赤ん坊のようなもので、その力の暴走は謂わば、夜泣きみたいなもんだ。じゃあ、夜泣きする赤ん坊に親は一体どうする?」


マリアは直ぐに目線を前に向けるがバックミラーに映った顔には、まだ怪しい笑みを浮かべている。


「そりゃ、抱き抱えて、あやしたりするんじゃないんですか?」


和気は不思議そうな顔で答える。


「ま、正解だな。つまり、血印の赤宝が選んだ一色家の人間の体にその宝を魔術で埋め込んで、安定させるようにしたんだな。要するに、人柱だ。」

「そんな…」


田中の顔がどんどん困惑の色に変化していく。

「む?気づいたか?その通り。今の人柱が朱奈なんだよ。」

「そんな!まだあんなに若い人間にそんな事!」


田中は有り得ないという顔でマリアを見る。

マリアはバックミラーで田中を確認して、一度間を開けてから、また語りだす。


「歳なんて関係無い。宝が選べば、その者に拒否権は無い。人柱と為った者は厳重に監視され、大切に取り扱われる。もちろん、その者達に本当の自由はない。」


先程までのマリアとは違い、苦い虫を噛んだような顔をしている。

「私が朱奈の元に来たのはな、朱奈の母親であり、先代の人柱である私の親友との約束だったからだ。自分はこの子に何もしてやれなかったから、一つ、私の代わりにこの子の望みを叶えてくれってね…。」


マリアはその時の朱奈の母親の顔を今でも鮮明に思い出せる。


「待ってくれよ。その言い方じゃ…」

「ああ…ソイツは朱奈が七歳の時に死んだよ。」


バックミラーからマリアの顔は確認できない。

それでもマリアは語る。


「アイツはそもそも一色家の人間じゃなかった。先代の当主であり、朱奈の父親が日本を旅行中に偶然出会った女性に一目惚れ。何度もアタックして、やっと付き合うことに成功し、そのまま結婚ってな…。まぁ、溺愛していたらしいしな、アイツも幸せそうだった。」


マリアはその事を語っていた時の親友の顔を思いだし、思わず微笑む。


「朱奈を産んで直ぐくらいに、当時の人柱が病死してな。直ぐに選定の儀式が行われ、ソイツが宝に選ばれた。旦那も一色家の人間も大層驚いたらしい。何せ初めて一色家以外の人間が選ばれたのだからな。まぁ、旦那はそれを必死に否定し、何度も儀式を行ったが結果は同じ。ソイツは人柱に為った。」


「…」


田中達は黙るしかなかった。


「一色家の人間では無いため、宝の力を完全に抑えられなくてな、何度も小さい暴走をしていた。それはさぞかし辛い事なんだろう。何時も笑顔で弱音を言わないアイツがそこでは弱音を言っていたよ。」


マリアはまた煙を吐き、ため息をつく。


「そんなときだったな。朱奈が二歳の時に旦那が死んでな。それから五年後にソイツは力を暴走させて、死んでいった。そして、当時七歳だった朱奈が人柱に選ばれた。それから9年後、朱奈の精神もそれなりに成長したと判断した私は朱奈に会いに行き、アイツの自由に成りたいという願いを一時的にという条件付きで叶えてやったと言うわけだ。」


一通り語り終えたのかマリアは何も喋らなくなる。


「師匠は何でそんな一色家の人間と親友だったり、内情に詳しいんですか?」

「ん?私はその頃は近衛十隊の八番隊隊長だったからな。」


まさかの真実。


まぁ、この人ならばそんなこと、あり得なくはないが。


何て田中は少し驚く。

「ちなみに、この件には協力者もいた。流石に私一人では一色家の厳重なセキュリティから朱奈を拐う事なんて出来ないからな。」

「協力者?」


田中は何となく予想は出来ていた。


「遠矢という男でな。一連の出来事を聞くと、快く私に協力してくれた。」

「やっぱり」


田中は予想通りの答に思わず頷く。


「何だ?知っているのか?」


意外そうな顔で田中の方を振り向くマリア。

「まぁ、今回の依頼はソイツがしてきたんすよ…。」


「成る程。全くあの男の考えることは私にも解らん。」


マリアは呆れた様な声を出してから、本題に入ろうとする。


「お前達、これから言うことは、必ず聞いておけ。」


マリアの声に緊張の色が混じり、自然と田中達にも緊張が走る。


「今、一色家別荘にいる近衛隊は、一番隊と五番隊の二部隊が存在する。皆、魔術や超能力やらバシバシ使ってくるから、ザコでも死ぬ気で戦えよ。更に気をつけなきゃいけないのが、一番隊だ。一番隊と言うのは、近衛十隊の総司令部であり、最強の部隊。近衛十隊は完全に実力制で、一色家の人間だとか、そう言ったものは関係無い世界だ。そんな中で最強の一番隊の隊長を務めているのが、現代当主であり、朱奈の兄である、一色 仙龍。因みに一番隊隊長の就任条件は、現、隊長三人を相手に勝つこと。」


その事実に田中達は衝撃が走る。

隊長三人を相手…つまり、マリアクラスの人間を三人相手に勝ってしまった人間が、現代当主。

要するに、その男に勝たなければ、本当の意味での朱奈の自由はない。と言うことを意味しているからだ。


「腹くくれよ、てめえ等!もうびびったって遅いぞ!」


そう言って、マリアは更にアクセルを強く踏んだ。


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