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EP1-15 届かぬ手の先

雨が降っていた。

その勢いは少しずつ増し、その雨粒は田中の顔を痛いくらい打ちつけてくる。


「もう、ご安心ください。朱奈様。」


そう言って女性は朱奈に傘を差し出す。

それを朱奈は震える手で傘を受けとる。

その目は驚きと恐怖で見開かれている。

田中はそんな朱奈の目を見て、その女性を敵だと判断する。

状況は理解できないが、朱奈が怯えている。それだけで田中が動くには十分だった。


田中は立ち上がり、女性に向かって走り出す。

頭がまだ混乱していて、超能力も本調子ではないが、それでもかなりの速さで女性との間を詰める。

そのまま田中は女性の顔に強烈な回し蹴りを放つ。

女性もその蹴りに反応をして腕をクロスさせそれをガード。


ドゴッ!!

っと鈍い衝撃音が鳴り、女性は数メートルほど後ろに飛ばされる。

「っ!」


女性は体制を整えると、田中を一度睨み、それから田中の後ろで呆然としている朱奈を見てから、また田中を睨む。

女性はどうやら自分の身の事よりも、朱奈のことが気になるようだ。


「だっ、駄目だ、田中!戦ってはいけない!」

「はっ?」


突然の田中の行動に呆然としていた朱奈は回し蹴りによる衝撃音で我を取り戻したのか、隣に朱奈を女性から守るように立つ田中の背中に叫ぶ。

その忠告に田中は思わず後ろを振り向く。

女性はその一瞬の隙を見逃さずに、田中と同じ位の速度で田中との間を詰め、田中と同じ様に回し蹴りを放つ。

反応が遅れた田中はガード仕切れず、まともに蹴りをくらい、後ろの朱奈を飛び越え、数メートルほど吹き飛ばされる。


「がっ!」


コンクリートの道路に叩きつけられた衝撃で田中は一瞬呼吸ができなくなる。

女性の蹴りは女が本来放つ事ができる、それどころか人間が放つ事ができる蹴りの威力を遥かに超えている。


おそらく田中と同じように何らかの力を持っているのだろうと田中は立ち上がりながら予測する。


「エリも止めてくれ!もう戦うな!」


今度は田中から守るように立つ女性の背中に叫ぶ朱奈。


「どうゆう事ですか?」


女性は振り向かず、田中から目を離さずに朱奈に質問する。

クールな女性の顔にも困惑の色が窺える。


「てめえ一体何者だよ!?」


しかし、状況を理解できないのは田中も同じで、女性に叫ぶ。


「私は…一色家近衛十隊、一番隊第三位、エリザード・テリエル。貴様こそ何者だ」


女性もとい、エリザードは田中を睨みながら答える。


「俺は、田中 太郎。処理屋をやっていて、コイツに護衛を頼まれているんだ。」

「護衛?…。ならば貴様は朱奈様を拐った誘拐犯では無いのですか?」

「誘…拐…?何だよそりゃ?」


田中もエリザードも全く今の状況を理解できない。

後ろの朱奈は何も語らず下を向いている。


「オイ!説明してくれよ朱奈!一体何がどうなってんだよ?」


田中の問いにも答えず、下を向いたまま。

完全なる沈黙。

激しい雨音だけがこの場を支配している。


「何をしている三位。」


その沈黙を破ったのは一人の男。

朱奈の三メートルほど後ろに何の前触れもなく突然現れる。

身長は178あたり、黒髪で、顔立ちは良く、かなりのイケメン。

どことなく、朱奈に似ていて、黒いスーツに身を包む。


バサッ

とその男の後ろで傘を開く音がする。

気づけば、その男の後ろには身長は180を超え、赤髪でオールバック。目付きは悪く、小さい子供ならば、ただ見ただけで泣いてしまいそうな感じであるが、顔は整っていて、見た目は柄の悪いホストの様な姿で、こちらも黒いスーツに身を包んでいる男が立っていて、傘を前の男に傘をさしている。


「隊長!しっ、しかし、この者はどうやら朱奈様の身を保護してくれていた様子で…」


エリザードはその男の出現に明らかに動揺しているようで、先ほどのクールな姿はどこにもない。


「兄上…!」


朱奈もその男の出現に怯えているようだった。


「だが…その男が一連の騒動の主犯である女…マリアの関係者であることは解っている。これはどう説明するつもりだ?」


男は朱奈の姿を一度確認してからゆっくりと喋る。

その声は聞いた者を怯えさせる冷たい何かを秘めていた。


師匠が…朱奈を拐った?

ますます理解から遠退く田中。


「違うのです、兄上!私が…私が自分の意志で家を出たのです!」

「お前が?」

「はい…マリアはただ私に協力してくれただけで、この者も私が宿として使っていただけで、何も知りません。だから…」


朱奈の声は男によって静かに止められる。


「解った。もういい…。この件に関しては不問とする。だが、お前にはそれなりの処置が必要となる。解るな?」

「はい…」


朱奈の声は雨の音にもかき消されてしまうほどに弱く成っていく。

「無駄な心配などかけさせるな…。お前は我が家の、世界の宝なのだという自覚をもっと持て。」

「はい…すみません…。」

「貴様」


突然男に呼ばれ、全く理解できないまま、次々と進んでいく状況に混乱していた田中はハッと意識を呼び戻される。


「この件に関して、貴様も不問とする。二度は言わぬから良く聞け、もう朱奈の事は忘れろ。」


そう静かに言って男はその場を去ろうとする。

赤髪の男はそれに従い、朱奈も何も言わずにエリザードに背中を押されながらその後ろに従う。


「まっ、待てよ、朱奈!解んねぇよ!なんだよ!こんなサヨナラなのかよ!」


田中は手の届かぬ遠い場所に何も言わず行ってしまおうとする朱奈に走り寄ろうとする。

その田中の叫びに朱奈の歩みも止まってしまう。


少し遅れて先頭を行く男が走り寄る田中を振り向く。


「二度は言わぬと言った筈だ。」

「だっ、駄目です兄上!止めてください!」


男の殺気にいち速く反応し、止めようとする朱奈。


「朱奈にはもう関わるなと…。」


そんな朱奈の叫びの効果も無く、田中に静かに手を向けて、力を溜める。


「逃げろ!田中!!」

無駄だと判断した朱奈は今度は田中に叫ぶ。

「っ!」


その叫びを無視して田中も朱奈に走り寄る。

その様子を男は見てから静かに目を閉じて、力を放つ。


「金光明炎…炎天葬」

「逃げろ!!田中!!!」


今度の朱奈の叫びは本当に田中に届かなかった。


変わりに田中に届いたのは眩く輝く炎。


田中の視界は炎の包まれ、光で何も見えなくなる。

伸ばした腕はもう何も掴む事はできなかった。


住吉荘前に静かな爆発音が鳴り響く。


「田中ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


その後に残ったのは朱奈の叫びと激しい雨音だけ。


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