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EP1-11 拉致

全ての準備は揃った。

アイツラは絶対にゆるさねぇ。

アイツラに後悔させてやる。

俺の顔に泥を塗った事を。

全ての準備は揃った。

先ずはあの餓鬼だ。




桐島家訪問以来、朱奈は更に田中になつくようになった。

なるべく田中と一緒にいるようにしているし、田中の言うことは比較的他の連中より大人しく聞くようになった。

朱奈は田中と過ごす時間を何よりも楽しむ様になった。まるで、楽しい思い出を沢山創るように。

朱奈の存在は田中達にとっても次第に大きな存在に成りつつあり、田中達でさえ会話をしたことのない、あの香も最近になり、朱奈と言葉で喋るようになっていた。

そのことは素直に田中達や光、徳子を驚かせた。

共同フロアの食卓テーブルの田中の席の隣は今や完全に朱奈の特等席。そのことも住吉荘の住人にとっては最早当たり前。

逆に居ないほうが違和感を感じるほどになっている。

「む〜。」

「どうしたんだ?朱奈?」

朝食を食べ始めてから、ずっと朱奈は考えるように腕組みをして、唸っていた。

「私も学校に行きたい。」

「は…?」

ずっと考えている割に随分軽い事に田中は少し驚く。

「だって、学校に行っている間は私は一人で昼間の時間を過ごさねば成らぬのだぞ。それに、光から借りた青春マンガには学校生活こそ最高の思い出のように描かれている。私だって、学校で青春したい。」

「お前な…学校てのは良い事ばかりじゃねぇぞ。授業は面倒だし、テストは疲れるし、三年になれば、受験だってある。考えただけで憂鬱だっての…」

「だって、暇なんだもん。」

「本音はそれかよ。」

「昼間は私は一人なんだぞ!ゲームも漫画も一通り完破していまったし、その間私はなんて無防備…あっ!そうだ田中!私は昼間は無防備だ。私の護衛として、それは頂けないだろ?」

「うるせー。第一この仕事が来て以来、お前を狙った襲撃らしいものも無いし、本当に命狙われてんのかって感じなんだけど。」

朱奈がこの住吉荘に来て、1ヶ月。

朱奈を狙った襲撃は一度もなく、田中達は最初に想定していたような闘いも一切ない。

マリアは一向に帰って来ない。

てゆうか、この仕事に終わりが有るのか、報酬そのものも有るのか、疑問になってきている。

「ほっ!本当だぞ!」

「じゃ、いい加減誰に命狙われてんのか教えろや。オイ」

「………それは言えない。」

今までも、朱奈について朱奈に聞いても、朱奈はそれは言えない。の一点ばり。

朱が特別な一族だってことも隆辰に聞いて、初めて知った位だ。

いい加減自分達を信用しても良いと思うんだけどな〜。

なんて、田中はぼんやり思う。

どうやら朱奈はマリアに口止めされているようだった。

つ〜か、何時になったらマリアは帰ってくんだよ。


朝の時間を朱奈や和気と過ごし、時間が来たので、朱奈を置いて、学校へ四人は出発する。

「あ〜あ。学校なんて憂鬱だ〜!」

和気が意味も無く叫ぶ。

「うるせぇよ」

田中は軽くツッコむ。

「てゆうか、出会いが無いんだよね。普通学校っていうのはさ、出会いがあってこその学校なんだよ。俺は憂鬱な授業を受ける為に学校に行ってるやけじゃねぇんだよ。あ〜あ、出会いが欲しい。」

「てめえは、もし出会いがあっても、直ぐに一蹴されそうだけどな…」

「うるせぇよ!全く皆俺のことをバカバカバカ言いやがって、やすがに俺だって傷つくぞ!」

そんな事を言っている和気を置いて、三人はさっさと先に行ってしまう。

そんな三人の後ろ姿を見る和気。

「あ〜あ。憂鬱だな。オイ。」





「田中さんっ☆」

田中が購買に行こうと廊下を歩いていると、後ろから聞き慣れた声が呼び止める。

「う〜す。何か用すか?美鈴さん。」

田中は先程の授業を寝て、過ごしていた為体が少しダルい。

「用が無ければ話しかけてはいけないんですか?」

美鈴は笑っているが、何処と無く拗ねている様に感じる。

「いや…そうゆう訳ではないけどさ…」

「なら良かった。あっ!そうそう。朱奈ちゃんとは仲良くやっていますか?また、泣かしたりしてないですよね」

「ああ、順調ですよ。順調過ぎる位ですよ。」

「そうなんですか。それは良かったですね。家の妹も朱奈ちゃんを気にいった様で、宜しければ、また皆さんで家に来ませんか?」

「あ〜…また、今度の機会に…」

「田中さん、何だか冷たくなりましたね。」

「へ?」

「昔の方がずっと優しかった。もしかして私の事が嫌いになってしまったんですか…」

そう言って俯く美鈴。

「いやいや!まさか、俺が美鈴さんを嫌いになるなんてあり得ませんよ。美鈴さんには感謝してますし、こんな綺麗な人を嫌いになるはずないですよ。」

田中は反射的にフォローを入れる。

「じゃあ、私の事好きですか?」

「へ?」

「好きですか?」

美鈴にズイッと見上げられる。

「まぁ、好きですよ…」

「まぁ!田中さんたらっ☆」

なんて言いながら廊下の角に美鈴は姿を消す。

一体何だったんだ…





放課後。退屈な授業が終わり、田中は今一人で商店街に居る。

勿論、友達が居ない可哀想なヤツではなく、晩御飯の食材を買いに来たのだ。

今日の飯は何にしようかな…

まるで、主婦みたいな事を考えてながら商店街を歩く。

そうしていると、田中は自然と朝の朱奈を思い出す。

暇で暇でしょうがないと言っていた。

田中は住吉荘でぶすっとして寝転がっている朱奈を想像して、微笑む。

今日は久しぶりに鍋にでもするかな…

時期はもう11月。

暖かい鍋は冷えた体に染み渡るだろうし、鍋は楽しいし、中々のチョイスだろう。

そんなこんなで鍋の材料を買っていると、途中で和気と阿部と出会い、合流。

和気は鍋にバカみたいにはしゃぎ、阿部は静かに喜んだ。




三人が住吉荘に帰る頃には5時を過ぎていた

三人は住吉荘に近づくと、ふと違和感を感じた。

何時もは田中達が住吉荘に来ると、待ってましたとばかりに朱奈は走り寄ってくるはずなのである。

寝ているという可能性もあるが、不思議と三人にその考えは浮かばなかった。

妙に静かなのである。もはや、人の気配すらない。

妙な不安感に三人は直ぐに朱奈がいるばずの自分達の部屋に行ってみる。


扉を開くと、

そこには朱奈の姿は何処にもなかった。

部屋はまるで数人の人間が荒らしたようになっている。

誰かが来て、抵抗する朱奈を連れ去ったのは明白。

一体誰が?

しかし、田中達は朱奈から何も教えられていないためどうしようも無い。


『御機嫌よう。田中さん。』

突然部屋にまるでスピーカーから聞こえるように突然声が響く。

『私のことは覚えているかな?伊東 醍醐だよ』

その名前を聞き、田中はぼんやりとその声の主がいつぞやの事務所の男だと思い出す。

「一体何が目的だ」

田中は周りを警戒しながら、大声で叫ぶ。

『あの時の生意気な餓鬼はコチラで預かっている。返して欲しければ、9時に読裏廃ビルに一人で来ることだ。それまでは餓鬼には何もしない。今度は本当だよ。では、サラバだ。』

そこで声は完全に途切れる。

「くそっ」

田中は壁を叩きながら、部屋を出ようとする。

その肩を阿部が止める。

「オイ!離せよ!速く助けに行かねぇと…」

そこで阿部に殴られる。

「阿部!何すんだよ!」

しりもちをつきながら田中は阿部を睨む。

「少し落ち着け。」

阿部はただ静かに言う。

「そうだぜ、田中よ。そんなんじゃ救えるヤツも救えなくなるぞ。」

「っ!」

「恐らくさっきの声は空間に声を録音する超能力の一種だろう。田中の質問にも答えなかったしな。そしてヤツ等の目的は朱奈でも無いな。そうだったら俺たちに猶予なんて与えるはずがねぇ。恐らく、お前にプライドを傷つけられた復讐って所か」

和気は何時もとは違い真剣な表情で分析していく。

「じぁ、俺が行ってヤツ等を倒して、朱奈を助けてやれば、万事解決じゃねぇかよ!」

「だから、落ち着けって。ヤツ等はお前に確実に復讐するために相当念入りに準備するだろう。お前が一人で何の作戦もなく突っ込んで行ったら、お前はともかく朱奈に身の危険が及ぶかもしれねぇ。先ず第一に考えるのは朱奈の安全だろ?それに時間までは猶予があるし、俺達には優秀な情報屋がいるだろ。だから落ち着け。」

「じゃあ、どうすんだよ。」

ある程度落ち着きを取り戻した田中が和気に問いかける。

「よしっ!香を大至急読んで、作戦会議を開こう。そして万全の状態でアイツを助けに行くぞ。」


こうして、朱奈救出大作戦は始まった。


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