EP1-10 一色家
道場で組み手が終わり、かいた大量の汗をシャワーですっきりさせた頃には4時を過ぎていた。
居間に戻ると残っていた朱奈と裕美子は肩を寄せ会いながら仲良くソファーで寝ている。
見ていると何とも微笑ましい光景だ。
二人を見ながら隆辰は微笑むと、静かに田中達を別室の和室に招いた。
この和室もとても広く、隆辰のお気に入りの部屋らしい。
「さて、聞きたいことはいろんなあるが、何故お前達が一色家の人間と一緒に居るんだ?」
隆辰は和室に似合う木製のテーブルに座り、その隣に美鈴を座らせ、田中達を反対側に座らせると、単刀直入に聞いてきた。
田中達はお互いに視線を見合せ、隠しきれないことを理解。
田中が四人を代表していきさつを語り始める。
其を一通り聞き終えると隆辰は深い溜め息を着く。
「なるほど。マリアの仕業か…全く今でもあの女の考えることは解らんな…まぁ、それがアイツの良い所でもあるがな」
「ハ、ハハハハハハ。」
田中は苦笑しかできない。
「私はあの人は嫌いです。田中さんや他の皆を何時も危険な目に合わせてるんですから。」
美鈴はマリアの話が出た途端に不機嫌になる。
「ずっと気になってんすけど、一体桐島家と一色家はどのような関係なんすか?」
田中は隆辰に向かって真剣な顔で聞く。
すると、隆辰は少し複雑そうな顔をする。
「う〜む。実際桐島家と一色家には何ら関係など無い。ぶっちゃけ儂も一色家の人間を初めて見るしな。」
「へ?」
思わぬ答に事情を知らないモノはポカンとする。
「まぁ、説明するとだな、田中達にはわざと教えなかったんだが、桐島家というのは元々古くから日本で栄えた殺しの一族じゃ。様々な裏の仕事をこなし、長い時間を懸けて磨かれた殺人術と進化した肉体を持っている特別な一族。裏の世界じゃ、昔は五大老と呼ばれる巨大な勢力の一つで、五大老は世界でもそれなりに有名な勢力として知られておる。」
いきなりのカミングアウトとスケールのデカさに正直ビビる田中達だが、どおりでこの家系は皆強いはずだと納得する部分もある。
「話しは変わり、一色家というのは、昔から神の扉を守ってきた一族で、本家はイギリス。一色というのは日本名にすぎない。まぁ、本当の名を知ってる者のほうが少ないがな。」
カミサマ?出たよ久しぶりの魔術設定。
田中達は改めて朱奈の言っていた魔術の存在が現実のものなんだと認識する。
隆辰がこんな顔で冗談なんて言うはずもない。
「てゆうか、神の扉ってなんすか?」
隆辰の話に割って入る和気。
「む?まぁ、正確には神の扉を開くことができる宝玉だな…」
「宝玉?」
「そっ。宝玉。」
「人間は神になることは出来ません。それは絶対の真理です。しかし、人間はより近づこうと努力し、人間の限界に挑戦してきました。」
捕捉するように美鈴が語り始める。
「魔術もその可能性の一つですし、超能力もその一つ。しかし、人間は神にはなれない。しかし、大昔に四人の賢者がその真理を砕き、神の道を切り開く神宝を4つ造り出した。だが四人の賢者はその宝の力を恐れ、封印した。その四人の子孫の一つが一色家というわけです。」
「つか、何でそれで神に為らなかったの?」
和気が質問する。
「神宝はあくまでも神の道を切り開く宝。それで神になれる訳ではありません。それに人間は元々罪深き生き物です。その昔神の言い付けを破り、地上に落とされた者。そんな人間が神の道を開けば、たちまち神の逆鱗に触れることになるでしょう。まぁ、それでもその宝を欲する人間はたくさん居るわけですが、一色家とはそんな偉大なる宝を護る一族。私たち殺しの桐島家を警戒するのは当たり前なんです。」
なるほど、恐らく朱奈は桐島家が恐ろしい殺しの一族だと教えられていたのだろう。
ゆえにあの反応。
「因みに、師匠達は殺人なんかしてるんですか?」
田中は一応の確認。
「儂はした事はある。しかし、殺しの一族は儂の代で引退した。美鈴は確かに一族のあらゆる技術を継承しておるが、人殺しなどしておらん。儂が断じてさせわしない。それに五大老なんて過去の異物じゃ、今ではそう呼ばれた5つの一族は衰退して、裏の世界でも大した力なんぞ持っとらんしな。」
隆辰は苦笑しながら語る。
しかし、その顔にはどこか苦いモノを噛んだような顔をしていた。
「ま、お前達も大変な仕事を引き受けたモンだが、精一杯がんばれよな。」
「た、確かに。そう聞くとアイツってすげぇ奴らに命狙われてるんじゃね?」
和気がどこか面白そうに軽く言う。
「ま、どうにかするさ…」
田中は適当に答える。
朱奈が一体誰にしろ、護るだけ。
俺はもう誓ったんだから。
「まぁ、暗い話はそこら辺にして、晩御飯にしましょ。朱奈ちゃんに約束してますしね。」
美鈴はそんな事を言って、席を立ち、部屋から出ていく。
其々が様々な事を思いながら時間はすぎてゆく。
時間は夜の10時を越えていた。
朱奈は桐島家で豪華な夕飯を頂き、目を輝かせ、田中達や美鈴と話し、どうやら楽しい時間を過ごせたようだ。
そんな姫様は今田中の背中でお休み中。
疲れてしまったとは言え寝てしまうとは、どうやら朱奈の桐島家に対する警戒は無くなったようだ。
そんな寝顔を見て、微笑んでいると、和気がコチラをニヤニヤしながら見つめていることに気づく。
「おやおや、朱奈の寝顔を見て萌えてる所を見ると、いよいよ本当にロリコンに目覚めたか?」
「萌えてねぇよ!てゆうか、てめえはあくまで俺をロリコンキャラにする気なのか」
「そっちの方がおもしろくね?」
「お前…後でぶっ飛ばしてやるから覚悟しとけよな。オイ」
そんな二人を見ながら香はふと空を見上げる。
空には月がひっそりと輝いていた。