プロローグ 雨の日に…
雨の日だったと思う。
目の前に広がる景色は自分にとって信じられないもの。血が流れ、泥だらけになり、ゴミのように転がっている大切な人。自分にいろんな楽しい話をしてくれたり、夢を語ったり、笑顔が良く似合う人。恐らく自分はこの人の事が好きだったのではないかと思う。
故に信じられない。
この人は私を護り、
この人は私の味方で
この人は私の初恋の人で…
その人の背中には一本剣が刺さっていて
その剣はその人の急所を捉えている。
私にだって解る。
その人は助からないことが。
その人は私を探す様に手を伸ばし、私の目を見て
…あと 少し…ク ソ…
そう言って息絶えた。私は泣いた。
大切な人の死を目の当たりにするのは二度目。
前の時より私は泣いた。
泥だらけになりながらも、顔に流れるものが目から溢れた涙なのか、激しく顔に当たる雨なのか、鼻水なのか分からないほど泣いた。叫んだ。
ただ叫んだ。
その人は言っていた。俺の名を呼べ。
辛くて、苦しくて、どうしようもない時は
俺の名を呼べ。
そしたら俺がお前を救ってやる。
護ってやる。
お前を苦しめているのがどんなモノでも、俺はお前のために戦ってやる。
俺はどんな時でもお前の味方だから。
だから叫んだ。
辛くて、苦しくて、どうしようもなくて、
だけどその人は動かない、助けてくれない、救ってくれない。
それが自分に更なる悲しみを与える。
雨はその激しさを増して、私の心に幾つもの波紋を作り出す。
そこに現れる人影。
自分の大切な人を殺した張本人。
大切な人を二度も奪った張本人。
私はその人に叫んだ。恨んだ。
妬んだ。
その怒りと雨で目が曇り、
その人の顔がどこか寂しそうだったのに自分は気づけなかった。
雨はさらにその激しさを増し、私の叫びを消し去る。
だから私はもっと大きな声で叫ぶ。
大切な人はこの世を去り、その人を殺した人はもう遠くに行ってしまい届かない。
それでも私は叫んだ。叫び続けた…
その時私には叫ぶことしかできなかったから。