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序章:時代を超える願い

物語の幕開けは、遥か平安の世、西暦1184年3月28日の出来事をもってその序奏とする。紀伊国、那智の浦。怒涛逆巻くその海に、平家一門の貴公子、平維盛たいらのこれもりは、静かにその身を投じた。水底へと沈みゆく維盛が胸に抱き、そして後世に遺したとされるのは、「願わくば平穏なる世とならんことを……」という、血を吐くような切実なる一念であったという。


その入水の直後、霊峰高野山の上空が、束の間、名状し難き「優しい光」に満たされたと、古は伝えている。


平維盛とは、時の権勢を誇った平清盛の嫡孫にして、その眉目秀麗なる様は、軍記物語の傑作『平家物語』において「絵にも描けないほどの美しさ」とまで謳われた貴公子であった。されど、武勇の誉れにおいては必ずしもその名を馳せず、富士川の合戦においては、源氏軍の策とも知らず、水鳥の羽音に驚いて軍を敗走させたという、武将としては不名誉な逸話も残されている。


その一方で、妻子への情は深く、都落ちの際には、愛する家族との別離をただひたすらに嘆き悲しむ、人間味溢れる姿もまた伝えられており、その心根の優しさが偲ばれる。戦乱を厭い、ただひたすらに穏やかなる世を希求したその人となりは、後の世にかすかなこだまを残したのかもしれない。


この時代を超えて響き渡る悲痛なる願いと、天空に現れた神秘的な光の現象。これらは、直接的な物語の開始を告げるものではないにせよ、遥かなる時を超えて響き合う、ある種の予兆として、歴史の深淵に静かに刻まれたのかもしれない。


維盛が抱いた、戦乱のない平穏な世への切なる希求は、果たして空しき願いとして消え去ったのか、あるいは――。


高野山の上空を染め上げたとされる「優しい光」は、何を告げようとしていたのであろうか。

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