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赤い魔王の白い結婚  作者: 丹空 舞


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白銀の茶話会

リリスは白銀の茶話会、すなわち冬の王宮に居住するセシリア王女の私的なティーパーティーに招待されていた。


冬の館の石造りの高窓には、白樺の枝が夏の終わりを惜しむかのように揺れていた。

その館の庭に設えられたティーテーブルは寸分の狂いもなく完璧だった。


氷のように澄んだ淡い白と青で織り上げられたリネンの上には銀の燭台。

吸い込まれるように透明な硝子の花瓶には、柔らかいムクゲの花の白色が静かに夏を叫んでいた。


王女セシリアは浮足立った気持ちで自ら花を直した。

このティーパーティーはきわめて私的なもので、気のおけない友人や友好を深めたい人間を呼ぶようにしている。


今日の招待客はいつもの四人に加えて、あと一人追加した。


一人目は騎士の家に生まれた侯爵令嬢アナスタシア。高身長で背筋がいつも伸びており、空を切り裂く槍のように凛としている。妹を溺愛する兄達がいるせいで、なかなか男から声がかからない。


二人目はリュートが堪能な伯爵令嬢、リゼット。音楽一家に生まれ、国一番のリュートの使い手だ。歌声も美しく、詩吟の才能もある娘だ。宮廷で演奏することもよくあり、行事ごとではセシリアと公的に顔を合わせることもある。


三人目は公爵令嬢のフローラ。ドグマの王宮とは先祖代々長い付き合いだ。礼儀作法と外交術に長け、美しい豊かな金髪なのも相まって、結婚の申し込みが後を絶たない。


四人目は侯爵令嬢のベルナディット。女の身ながら、詩作の技量は群を抜いている。新進気鋭の劇作家に言い寄られているようだが、毎回エレガントな毒舌で断っているらしい。


家庭教師によって教えられていたセシリアは、武道、音楽、礼儀作法、文芸とそれぞれの指導者についていた。


が、1人きりでは虚しさがつのる。


せめてものはからいで、という名目、というよりかは半ば脅しのように、それぞれの教師の一番よくできる生徒を紹介しろと、縁を取り持たせたのが始まりだ。


今日はそこにもう一人、愛らしい小鳥が増える。

王女セシリアは、裏庭への小道を歩いてやってきた来訪者に笑みを深めた。


同席する令嬢たちが、


「ほう」

「まあ」

「これは」

「あら」


と、それぞれがため息交じりの呟きを零す。



「はじめまして」


まるで木立の隙間から差す残光のように、その妖精は入ってきた。


灰色の髪は、裾だけがやわらかくカールし、同じ色の目もまた落ち着いた灰色だ。


色白な肌に映える大きな目は、淡く化粧が施されて、まばたきをするたびにきらきらと星が散るようだった。


深いボルドーのベルベットドレスは陽の光では赤、影の中では葡萄色に見えた。

しっとりとした生地が、まるで熟れた果実のように華奢な身体を包みこんでいるのは、芸術的でさえあった。


「魅惑的なお菓子のような子ね」

と、ベルナディットが言った。


デコルテは黒のチュールレースで覆われ、首元には琥珀に宝石のペンダントが一粒光る。背中には刺繍糸で描かれた、蔦と木の実の装飾が施されている。よく見なければ誰も気づかないほどの細工だが、小粒の宝石がところどころに散りばめられており、気品がある。大手の商会の実家を持つ侍女キャサリンのコネクションを駆使した、新進気鋭のデザイナーの作だ。


「あのドレス、袖口と裾には、霜を模した銀糸の刺繍があしらわれて、まるで秋と冬が寄り添うような意匠……素晴らしいわ。誰の作かしら? 紹介していただきたいわ」


美貌のフローラが真剣に呟いた。


席をすすめられたリリスが着席すると共に、騎士の家系のアナスタシアが口火をきった。

「ようこそ、シマエナガちゃん」


「まあ、お声も鈴のよう。なんて可愛らしいメロディーなの」

と、リゼット。


「ご機嫌よう、秋の森からやっていらっしゃったのね。ドレスもなんて素晴らしいの。後でどこの作か教えてくださる?」

目が真剣なフローラ。


「ああ、セシリア様のおっしゃっていたのが今分かりましたわ! リリス様は秋の妖精のようではありませんこと。あたかもエルフたちの木苺の森から、そっと抜け出て来たかのような」

うっとりしたベルナディット。


王女セシリアは相変わらず品が良かったが、口元にはあからさまに満足げな表情が浮かんでいた。


「ふふ、わたくしの招待を受けてくださって有り難いわ。さあ、楽しい茶話会にいたしましょう」


令嬢たちが口々に喋る。


高位の貴族の令嬢たちに囲まれながらも、妃リリスは微笑みを絶やさない。


普通ならば、このメンバーに相対すれば、多少なりとも緊張するだろう。

外国から来た元平民とは思えない、堂々とした気品。

そして、楚々とした奥ゆかしさ。


これまでの令嬢の誰とも違う、何とも言い難い魅力をその場の面々は感じていた。


「何がお好きかしら」

「あら、ナッツや果物がお好きですの? お砂糖はあまり好まれないのね。本当に小鳥ちゃんのようですわ」

「ええ本当に! なんて楽しいお茶会なのでしょう」

「さあ、この胸の高鳴りを詩にいたしましょう」

「それはすてきですわ」

「では、わたくしがリュートを弾きましょう」

「さあ遠慮なく語り合おう」

「わたくしたちのシマエナガちゃん、さあ頭を出して。まあ皆様、ほら! 三つ編みに花が、まあ似合いますこと」

「本当に秋の妖精のようですわね」




そんな渦中のリリスはというと。

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― 新着の感想 ―
マイペースで楽しそうなお茶会ですが、リリスは何を想うのでしょう? 何か素敵なプレゼントがありそうな気がします。
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