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第二章「海底のキス、鼓動の記憶」
ふたりきりのナイトダイブ。
光のない深海で、彼の手だけが、確かに私を導いてくれた。
「なんで、そんなに優しくできるの……あなた、誰なの?」
私が泣きながら問いかけた夜、彼は静かに唇を重ねた。
それは、懐かしい温度で、忘れたはずの幸福に似ていた。
そして、少しずつ、彼が語り始めた――
「夢の中で、ずっと誰かを待ってた。黒い髪で、泣き虫で、海が好きな子を……」
私の胸が痛む。
だって、それはきっと――私のこと。
「私も、あなたを忘れられなかった。ずっと、あの海に沈んだままだった」
唇を重ねながら、私たちは海と、記憶と、過去の痛みまでも溶け合わせていく。”