#4 放課後メモリー
放課後の教室。
ほとんどの生徒が帰ったあと、窓から差し込む夕陽が
机の上を照らしていた。
「ねぇ、陸くん」
席を立ちかけた陸を、隣の席のさくらが呼び止めた。
「今日の古文、少しだけ教えてくれない?」
「え、あ、うん。いいよ。」
まさかの展開...と思いながらも、
陸は心の中で少しだけ嬉しくなっていた。
さくらはノートを開き、困ったように眉を下げる。
「助動詞のところ、いつも混乱しちゃうんだよね」
「そうなんだ。教えてあげるよ」
「ありがとう。」
「ここはね、まず意味を分けて考えるとわかりやすいんだ。」
陸は自分の教科書を開き、ページを指した。
「...確かに。言われてみれば整理できそう」
「でしょ?俺も最初はごちゃごちゃになってたよ」
さくらの横顔を見て話す陸の声は、どうやら
やわらかかった。
教室にふたりきりの静けさ。
机を挟んだ距離は近いのに、なんだかいつもよりも
遠く感じるような、照れくさいような、そんな
空気が流れていた。
「陸くんって、優しいんだね」
「え?な、なんで?」
「だって、説明もすっごく分かりやすいし、ちゃんとこっちのペース見てくれてる感じがする。」
陸は思わず目をそらした。
「そ、そんなことないよ。普通だよ」
さくらはクスッと笑った。
「ありがと。おかげで少し安心したかも。
...受験のこと、いろいろ不安だったから。」
「そっか...。じゃあ、これからもわからないところがあったら、いつでも聞いていよ」
「うん。頼りにしてるね、お隣さん」
さくらの言葉に、陸はなんとも言えない表情が
胸にふわっと広がるのを感じていた。
帰り道。ひとり自転車をこぎながら、
陸はさっきの「お隣さん」という言葉をなんども
思い出していた。
(#5に続く)