#2 隣のさくら
新学期の最初のホームルーム。
担任の赤城先生が、プリントを片手に教卓に立った。
「はい、それでは、これから座席表を配ります。」
教室にざわっと小さな緊張が走る。
陸は内心、前の席がいいなと思っていた。
なぜなら、黒板が見やすくて、集中もしやすいから。
「西野陸くん、2列目の窓側」
黒板の左端を見ながら、すぐに自分の席を確認する。
すると...
「...その隣が、橘さくらさん。」
「え?」
思わず声が出た。さくらと隣の席?
教室の中の空気が、ほんの一瞬、静かになったような気がした。
「やったね、陸」
後ろから駿の声が飛んできた。
「お前、隣に好きな子が来るとか、最高すぎんだろ」
「なっ...別に好きってわけじゃ...」
陸は慌てて振り返るが、駿はニヤニヤ笑っている
だけだった。一方、さくらはというと...
「よろしくね、お隣さん」
にっこりほほえみながら、少し照れくさそうに
陸の方を見ていた。
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午後の自習の時間。
窓からは春の陽射しが差しこみ、教室の中は
ぽかぽかと暖かい。となりのさくらは、
ノートを開いて静かに文字を書いていた。
「さくらちゃんって、国語得意だよね」
陸が思わず話しかけると、さくらは顔を上げる。
「うん。文章読むの好き。でも、陸くんの方が漢字は詳しそう。」
「いや、そんなことないよ。古文とか苦手だし。」
「そうなんだ。じゃあさ、教えあいっこしようか。苦手なとこを。」
「...うん、そうだね。」
会話が終わると、また少しの沈黙。
けれど、その不思議とその静かさが嫌ではなかった。
新しい席。新しい距離。
この春、少しずつ何かが動き出している...
そんな気がした。
(#3に続く)