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魔法少女に救済を  作者: 鯉川のぼり
歪な幸福
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初陣の付き添い

 沈海の訓練開始から早1週間。巡先輩の指示で沈海は怪魔の討伐、言い換えると実戦訓練を行うことになった。この一週間で魔法の使い方もわかったようだし、元々の身体能力も高かったのもあるが、体術もだいぶ様になった。もう刃物で武装した一般人数人を一気に相手しても負けないくらいには強くなっている。

「流石にたったの一週間の訓練であんな怪物と戦うなんて無理です!死んじゃいますって!」

「大丈夫だよ。状況が悪化すれば付き添いの子が怪魔を倒すことにするから。それでも無理かい?」

 沈海は渋々了承して武器庫へ武器を取りに向かい、その場には巡先輩と私、篝火と桃葉が残った。巡先輩が言っていいよ。と言わないということは伝えることがあるんだろう。8年近くの付き合いだからそのくらいなんとなく分かる。沈海の実戦訓練と称しているが、どうせ本当はいつも通りの怪魔退治の依頼なんだろう。今月は依頼が多いから沈海の訓練兼依頼が終われば、私たち3人の内2人は他の依頼に駆り出されるきがする。4月後半はやけに依頼が多いから嫌いだ。

 ちなみに巡先輩は今日は非番兼、依頼受理役をしている。昨日、お偉いさんの護衛依頼で負傷したらしく、篝火から傷が塞がるまでは絶対安静を言い渡されているから仕方ない。

 それに、巡先輩は昨日まで2週間休みなしで依頼に出ていた。せめて傷が塞がるまでは私たちで依頼を片付けようという話になっている。それもあって今は私たち4人が依頼に出れば巡先輩だけ、ここで過ごしてもらうことになるのだが。まぁ、たまには1人になる時間も欲しいだろう。

 しかし、あまりにも何も言われないものだから、準備しに行っていいのかどうなのか不安になってきた。何か悩み事があるときに黙ってしまうのが巡先輩の癖だ。何か、聞いたほうがいいのだろうか。

「メグせんぱーい。あの子、魔法少女になってたった2週間で怪魔と戦わせて大丈夫なんですかねー?流石にリスクが高いと思うんですけど」

「桃葉ちゃんも人手不足なのは知っているでしょう?この時期はもう訓練してる暇もないからね。いっそのこと実戦と訓練を合わせちゃったほうがいいかなって」

「だったらもし負傷があれば私が診るってことですよね。桃葉は近距離戦闘、その上タイマン苦手だもんね。そうなると沈海がダメだったときに怪魔を仕留めるってなると……」

 その場の全員の視線が私に向く。私がやるしかないらしい。大人しく頷くとようやく巡先輩がいつもの調子で話し始めた。さっきのあれは演技だったらしい。本当に演技が上手い人だ。いい加減嘘か本当かくらい見分けられるようになりたいが、なかなか難しい。

 準備しておいで。と巡先輩が言ったので、私たちは事務室から出てマスクとフードを取り、変身してからそれらを着用し、伝えられた怪魔のいる場所へ移動した。


 流石に四人同時移動はきつかったらしく、電話ボックスの中にぎゅうぎゅう詰めになった。流石に全員は入り切らなかったらしく、桃葉は電話ボックスの外へ雪崩れた。

 どうにか電話ボックスから出ると、そこはシャッター街となった暗い商店街前だった。周囲に人気はなく、シャッター街の入り口には立ち入り禁止のテープが貼られている。

 そこに立ち入って頭上を見上げてみれば、所々が崩れて穴が空いている。足元は経年劣化や頭上から降ってきた物で荒れて歩きづらい。きっと怪魔が住み着いたせいで改修も撤去もできないのだろう。

 こういう場合こそ魔女狩り、いや、管理局に連絡する類いだと思うが、実際は管理局に連絡したところでどうにもならないから私たちに依頼してきたんだろう。そもそも怪魔の結界内に百何十と入ってきたが、結界内で管理局の部隊と遭遇したことは一度もない。実際は金でも払って隠蔽しているのではと最近は疑っている。

 そんなことを考えていると視界が歪んで、瞬きをすれば見慣れた気持ちの悪い空間に立っていた。魔力探知をしてみればそこまで怪魔の魔力は強くないが、結界の歪み具合で分かる。今回の怪魔は初陣も沈海には荷が重いかもしれない。

 後ろを見れば既に全員武器を構えている。結界に入ったら個々の主である怪魔を倒さない限り外には出られない。仕方なく私は前に進み始めた。

 だんだんと強くなっていく魔力の反応。おそらくここから百十数メートル先にそれは居ると予測し、一度結界の障害物の陰に隠れて作戦の再確認を行なった。

 私が怪魔の気を引いてその間に沈海が攻撃。桃葉は沈海が怪我した場合の回収係と篝火の護衛。篝火は回復役という立ち回りだ。正直私はいつも一人で怪魔と戦うことが多いから、サポートは苦手だけど、頑張ろう。

 今回の主役である沈海の方を見てみると、彼女の仮武器であるロングソードを握る手が小さく震えている。沈海は私たちに出会う直前に怪魔に殺されそうになっている。怖がるのも仕方ない。しかも自己肯定感の低めの沈海のことだ。自信がないんだろう。それはそうだ。まだ魔法少女になって1ヶ月も経っていないのにこうやって怪魔退治に行くことになったんだ。不安になるのも仕方ない。私は沈海の前に立って手を出した。

「怖いとは思うけど、危ないと思ったら下がっていいから。お互い頑張ろう」

「……はい。できるだけ、やってみます」

 沈海は少しの沈黙の後、そう答えた。私がすべきことは全員負傷ゼロで怪魔を倒すこと。できれば沈海に花を持たせること。ただそれだけだ。私は座っている沈海の手を引いて怪魔の方へ再び足を進めた。

「ウミちゃーん。良かったねー。ウレイが他人を励ますなんてなかなか無いよー」

「不愛想に見えて愁は意外と気にしてるからね。見捨てられることなんてないから安心して大丈夫」

 後ろで軽く貶された気がするが、今は無視しておくことにした。怪魔を倒したら軽く小言でも言ってやる。他人を見捨てるほど私も薄情じゃないし、そんなことしたら沈海に嫌われる。

 ちなみに、海というのは沈海の行動名だ。私たちが顔を隠すようにマスクとフードを着用するように、依頼の最中は偽名を使う。例えば私の行動名は愁、篝火は(トモシビ)、桃葉はキャンディ……。とか。そんな感じだ。

 でも、今はそれは気にしない方がいい。私は大鎌を握る手に力と覚悟を込めた。

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