6.不動産屋の斎藤-2
霊能者の九十三から不動産屋の斎藤の所に連絡が来たのは、歌舞伎町に行ってから三日後の事だった。その日の午前の終わりに件のホストから連絡があったという。ホスト風情に何が出来るのか、とも思ったがまあ一度会ってみるかということになった。霊能者である九十三の紹介なのだから、きっと副業なのだろう。どっちが本業かは分からないが。
待ち合わせは翌日の昼間、近くにある喫茶店で。
九十三と合流してしばし待つと、一人の男が現れた。一目見て高級ではないとわかるダークスーツにノータイで、細い釣り目で、髪も一昔前に流行ったような茶髪だった。信頼に足りないと齋藤は思ったが、口は開かない。なぜならしょせんホストである、というのは、わかっていたことだったから。
「紺さん!」
「……ああ、九十三って君か。本名書いておいてくれよ。兄さん元気かい?」
「元気ですよ」
しかしその男の口から出てきた声は酒に焼けてはなく、どこか柔らかく。
「そちらが齋藤さん? 不動産屋の?」
「ええそうです」
「先日はご足労をおかけしたようで」
喫茶店で四人掛けの席に、なんとなく若い女性の隣に座りがたいと九十三の斜め向かいに座っていた斎藤に頭を下げながらその男は慣れているのだろう。九十三の隣にすとんと腰を下ろした。
「クリームソーダで」
ちらりと喫茶店のマスターに視線をやって、紺が注文したのはなんともホストらしからぬものだ。いや、喫茶店で酒を頼むとも確かに思えないが。
「不動産屋ってことは、なんか住み着いて、客が寄り付かないとか?」
「ええ、そうなんです」
「ペット可じゃないと受けないよ」
「猫と、小型犬は問題ありませんでしたよね?」
「え、ええ、大丈夫です」
九十三の確認に、斎藤は頷く。どうやらこのホストは、猫を飼っているらしい。斎藤の得られた情報はそれだけだ。一体どういう人間なのかということも、教えられない。伝手を辿って辿り着いた霊能者の、兄の友人、という情報しかないのだ。しかもそれは、今しがた増えた情報だ。何者なのかは、依然として分からない。
それでも三人は連れ立って喫茶店を出て、マンションまでぶらぶらと歩く。詳しい話はマンションについて、周りに人がいなくなってから、ということになっているが、どうやら紺は九十三の仕事を把握しているようで文句はないようだった。
クリームソーダ好きです。
赤も青も緑も好きだ。