4.黒猫の草太-2
早朝、仕事から帰ってきた紺が、キジトラ猫を片手に玄関口から草太を呼ぶ。
「なんちゃあ?」
このマンションに越してきて草太が嬉しかったのは、すごく大きな、前の住人が置いて行ったというキャットタワーがあったことだ。興味はあったけれどまあないならないで、と思っていたが、あるとやっぱり嬉しい。その上の方にある寝床でまったりしていた朝方、帰ってきた紺が玄関から入って来ないで草太を呼んだ。
こんなことはこれまでない。いや、過去の家ではあったけれど、こっちに引っ越してきてからは初めてだ。まあ、大体何があったかは、分かる。
「この猫、どこの猫だかわかるか?」
紺に抱きかかえられてゴロゴロとのどを鳴らして満足げに撫でられているその、キジトラの猫には見覚えがある。
「このマンションの三階よ」
「よし一緒に来てくれ」
「ええー」
外からならどこの家、というのは伝えられるけれど、草太はあまり玄関から外に出ない。だからよく分からない。
そう言って草太は断ったのに、紺は草太もひょいと抱きかかえた。キジトラ猫を抱えている紺の負担にならないためにも、草太は仕方なく、紺の肩の上に立った。
「だって俺が三階の玄関の前で耳を澄ましてたら変人だろうよ」
「ほうやな」
にゃーんと相槌を打って、草太は仕方なく、本当に仕方なく、紺と一緒に外に出た。
「三階で見たんだよな?」
「にゃーん」
紺の問いに、草太は答える。
少し首をかしげて、紺は考える。多分まだ、大家の今井さんは起きていないだろうから、起こしに行くのも申し訳ない。三階で探してみて、見つからなかったら、相談に行くことにしよう。
紺はキジトラ猫を抱えて、黒猫を肩に乗せて、階段を登った。




