10.ホストクラブのホスト達
「はい喜んで!」
「居酒屋か」
新居でちょっとしたパーティをする、と、勤めているホストクラブの黒服に伝えた。何人か見繕ってくれないか、とも伝えたら、首を傾げられた。
「もう一つの方だよ」
「ああ。分かりました。騒がしくない奴にしてみますね」
「いや、騒がしい方で。あと男臭い方で。嫌だけど」
多分あの桃色の靄とは仲良くなれる、と紺は思う。嫌だろ。自分の住んでる風呂に男が出入りするの。
ああいうのを育てるには、嫌がることをするのも常套手段だ。そうすることで、何とか嫌なものを追い出そうと進化する。たとえ一気に進化したとしても、紺と草太の二人がいれば対応できるはずだ。現時点では。
何回か繰り返したら、無理になるかもしれないけれど、とりあえず最初の一回でどの程度繰り返せばいいかわかるはずだ。これまでは少なくともそうだった。
いや、野郎ばかりのパーティを開くのは初めてだが。
紺が勤めているホストクラブは、佑生というオーナーが運営しているチェーン店だ。歌舞伎町に本店があって、支店は新宿に一つあって、横浜に二つあって、確か関西にもあったはずだ。紺が勤めている地下のバーは、正直紺のためだけに運営されている。だから、採算度外視である。
バーに勤めているのもかつて紺になんやかんや助けられた者達で、いきなり今日の今日そっちに出られるかと聞かれて、二つ返事で掃除からするような連中だ。本店のナンバースリーとか、支店のナンバーツーとか、普通にやってくる。
日付指定で紺の家に呼べば、それこそ万障お繰り合わせの上でやってくるだろう。ただし冠婚葬祭を蹴ってくるのは駄目である。紺が嫌がるので、彼らはその場合血の涙を呑むかもしれない。
その日紺に招待されたのは、合計五人。創仁、柾樹、哲叶、侑星、丞。当然全員本名ではない。
「お邪魔しまーす」
「紺さんこれお土産。前のところからの急な引越しで、家財道具無いって言ってたから」
「うっそ、さすがにカーテンは買ってると思ったら買ってないの……そこ最初でしょ……?」
「草太くーん、これお土産のモンプチー!」
「でかした! 撫でてええよ!!」
「やったぜ!」
ホストクラブの営業時間が終わるのは、大体朝だ。始発が走り出して、それに最後のお客さんを送って。バイバイしたら店に戻って、下っ端が掃除してくれてる間に、帰る支度をする。誰かの誕生日だとかイベントごとだとかでもない限り、そんなに沢山の売り上げはない。
大学生なんかの日雇いや時給の連中に要望があればその場で支払いをする。要望がなければ月末〆の翌二十五日支払いだ。普通の企業と変わりはしない。
それから帰って風呂に入ってひと眠りして、さっぱりしてから着替えてきている。時間と場所だけ指定しておけば、それぞれ勝手にやってきた。
手に手に手土産をもって。約一名、猫の方に持ってきている者もいるが、紺は気にしていない。
ちゃんとホストっぽい名前をチョイスできたと自画自賛しています。
これがちゃんとホストっぽい名前なのかどうかは分かりませんが、ほら、なんか。ね?