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第6話 まずは遊びに行こう

「ありがとうございました!」

「おー、さっさと帰れよー」


 入校式の予行練習が終わり、その後のホームルームも終わり、ようやく高校最初の一日が終わった。まだ入学していないため、生徒としての一日とは言えないかもしれないが。


 ただ、私の場合は学生が本業ではないため、一日が終わったという感覚はあまり無い。なんならこれからが本番だ。


「終わったー!理咲りさちゃん行こー」

「あ、うん。ちょっと待って」


 対象と遊びに行く約束をしているのだ。昼休みに「この前面白いパフェいっぱい出してるお店見つけたんだけど、一個しか食べれなかったんだよね」という話から、一緒にそこに食べに行く約束をこぎつけられたのだ。あの時手を出せなかったアイスパフェにありつける。歌でもひとつ歌いたいような気分だ。


 ただ、まさか初日からここまで距離を詰められるとは思っていなかった。事前情報からもっと苦戦するだろうと予想していたため、少し拍子抜けした程だ。まあ、上手くいく分には問題無い。順調に作戦を進めるとしよう。アイスパフェも食べられることだし。


 今日は入校式の練習漬けでそこまで話せなかったため、今後に大きく響くであろう一日目の成果は、ここからの立ち回りで決まると言って良い。ちゃんと対象との距離を縮めつつ、これからの取っ掛かりを見つけなければ。あとアイスパフェ。


「よし。行こ、燈子とうこさん」

「よっし、行こ行こー」

「え、二人ともどっか行くの?」

「うん。西駅行く途中のさ、屋根が茶色のお店あるじゃん、あそこ。あそこにすっごいでっかいアイス乗っかってるパフェあってさ、それ食べに行くの」


 理咲ちゃんの準備が終わり、いざ帰ろうとしたところで流川るかわちゃんに呼び止められた。

 会話の流れからして流川ちゃんもついて来そうだ。しかし、会話を上手く運ぶために、出来れば二人きりの方が望ましい。軽々しく目的地まで喋ってしまったのは失敗だったか。やっぱりノリで喋るのはこの任務中は控えた方が良いな。


「えー、いいなー。あ、でもね、私もみんなと遊び行くんだよ。どこ行くかは知らないけど」

「そっか、じゃあ今日は無理か。じゃあ今度私ともどっか行こうよ」

「やったー!行く行くー!」


 良かった。良い感じに二人きりになれそうだ。自然と流川ちゃんとの約束の形にも出来たし、流川ちゃんを誘ったその友達には感謝しないとな。


ももちゃん、私とは?」

「うん!理咲りさちゃんも行こー」

「うん、行こう」


 ここで対象が気軽に会話に入って来た。流川ちゃんと仲が良いという報告は確かだったようだ。


「じゃあ、もう行くね。バイバイ」

「うん、バイバーイ」


 ◆


「でっか」

「でっか」


 アイスでっか。多分顔埋まる。


「いただきます」

「ん、写真撮らないの?」

「あ、うん。そういうのは私はいい」

「そっか。じゃあ私もいいや」


 何となく分かってはいたが、対象は自分の生活を撮ってSNSにあげるタイプではないようだ。私も高校生になりきらないといけないかと思いアプリは入れてあるが、対象といる時は使い道は無いようだ。流川ちゃんは使ってそうだからそっちで有効活用しよう。


「理咲ちゃんはさ、流川ちゃんといつくらいから仲良いの?」

「ん?ああ、さっきの続き?」


 ここに来るまで続けていた探りを再開する。お店に着いてから「アイスでっか」しか話題にしていなかったため、会話がワンテンポ遅れてしまった。

 言ってしまった後ではあるが、距離を縮めたいという時に他人の話をするのは良くなかっただろうか。まあ、そこまで気にしなくても良いか。

 人間不信であるという報告と実際に観察した対象の言動からするに、他人を気にするタイプではあるだろうが、他人とのギャップを気にするタイプではないだろう。あくまで「自分でない人間」という不確かなものに対して用心深いだけだ。ただの勘ではあるが。


「桃ちゃんは…中一か中二の時に多クラス合同の体育で模擬戦のペアになって…それから仲良くなった…筈。あんまり覚えてないけど」

「へえ、同じクラスとか同じ部活だったとかでもないの?」

「うん。たまに話したり、訓練一緒にしたり…くらい」

「そっか。でも結構仲良さそうだったよね。気、合うんだ」

「んー…桃ちゃんがいい子ってだけかも。優しいし。あと、訓練一緒にしてくれたのも、実力が比較的近かったってだけだし…」


 もう少し探りを入れたいが、今の質問ですら半分躱すような返答をされてしまった。これ以上踏み込むと警戒されそうだ。

 ポロっと重要そうな情報こぼさないかなー、くらいの甘々な考えもあったのだが、流石にそこまで甘々ではなかった。


 今の発言を強引に成果と捉えるしかないか。

 桃ちゃんがいい子、という感想にくっついて来た、「優しい」と「実力が近い」という要素。流川ちゃんが対象と距離を縮められた主因とは言えないまでも、きっかけの一つとなった、くらいには捉えても良いだろう。


 か細くはあるが、一応今後の道しるべとなるものは見つかった。

 とりあえずこれだけでも初日の成果としては及第点として良いだろう。


 ということでもう任務のことは考えなくて良いな。良いことにしよう。アイスパフェ食ーべよ。


ウルトラジャンボアイスクリームパフェ:グラスに入りきらない大きさのアイスが乗ったやけくそパフェ。税込1000円。

ストロベリージャングルパフェ:グラスに入りきらない量のイチゴが乗ったやけくそパフェ。お店を見つけた時に犬飼がありつけた方。税込1500円。

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