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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

1. 怪獣アルメスト

 没にした異世界転生モノ小説の第一話を、このまま腐らせるのももったいないと思ったので公開したものです。おそらく続きは書きません。

 天海(あまみ)洞也(とうや)は、東京住まいの、普通の高校三年生である。特に恐ろしい目に遭うこともなく、平凡な日常を送ってきた。


 ――ほんの、十日前までは。

 

 アメリカ・太平洋時間にして、西暦2027年8月14日、午前10時30分頃。ロサンゼルスに一体の巨大生物が太平洋から上陸したのである。

 後にアルメスト(Armest)と呼ばれることとなったそれは、全長およそ二百メートル、腕の六本生えた大型肉食獣のキメラのような躯体をしており、その身体そのものと口から吐き出す細かな炎の飛沫(通称、「火炎光線」)によってロサンゼルスの街の大部分を滅却した。その後アルメストはアメリカ西海岸を北上、サンフランシスコにまで達し、これを同様に破壊してから太平洋に戻った。米軍の攻撃も一部を除いてさしたる効果はなく、この襲撃は、約430万人の死者を出す大惨事となった。

 アルメストの襲撃はアメリカ建国以来の大災害とされ、米軍(及び世界中の軍)はアルメストの捜索に全力を挙げたが、さしたる成果はなかった。不明な要因により、アルメストは身をくらましていたのである。


 世界は混乱に陥り、経済状況は著しく悪化。次の襲撃を恐れた小規模なパニックも各国で発生した。特にアルメストを恐れていた国は、この時二つ―― 一度襲撃を受けたアメリカと、海を挟んで隣国の関係にある島国、日本――であった。

 そしてその予想は、的中した。



 8月24日、午前12時40分。

 天海は夏期講習を受講するため大手予備校へ向かう最中であった。かの大惨事が起きても、受験勉強のスケジュールは狂ってはいけないのである。

 中野駅を出たばかりの電車の中で、彼は立ちっぱなしでツイッターを開く。本来は単語帳でも開いて覚えるのが受験生の心構えというものだろうが、彼はネットサーフィンをする気にしかならない。

 ツイッターのタイムラインを一通り見終わり、トレンドを見漁り始めた時、「東京」というタイトルのトレンドに目が移った。普段見ることのないようなタイプのトレンドだ。

 気になった彼はそれをタップして――驚愕した。


 画面には、東京湾から上半身を露出させたアルメストを映した動画や画像がずらずらと並んでいるのである。レインボーブリッジをおもちゃのように捻り潰した彼は、既に東京に上陸しているらしかった。

 同時にスマホが通知を受信。内容は「巨大不明生物アルメストが東京に上陸 直ちに命を守る行動を」というものだった。おそらく政府か行政かが流したものだろう、それは信じがたい通知であった。

 だが、この時アルメストは現実の東京に現れていた。芝浦埠頭(しばうらふとう)の地を踏み締めた彼は、橙赤色に光る口を大きく開いた。その上にある一対の目は、小さいながらもはっきと見開かれ、憤激に満ちていた。

 

 瞬間、品川から大門(だいもん)にかけての一帯が炎と化した。アルメストが火炎光線を発射したのである。最大温度が一万三千度にもなる過熱体内粒子の奔流は、彼の目論見通りに東京の沿岸を焼き尽くした。

 体表のレーダーで熱源──正確には、社会活動で放出される電波や熱、活動電流などの量──を感知したアルメストは、時速三十キロメートルほどの速さで歩きながら、次弾を六本木、虎ノ門、霞が関へ連続して放った。日本政府の心臓たる首相官邸、国会議事堂、国土交通省、外務省、法務省などの建築は何の抵抗も許されずにこの世から消滅し、食堂などで昼休みをしていた国会議員や公務員は灼熱の中で命を絶った。

 緩慢な動きを次第に速めつつ、アルメストは五分ほどで新橋に辿り着いた。今、彼の目下ではアルメストの出現で狂気に陥った数千人もの人々が逃げ惑っているのだが、その叫びが彼の耳に入ることはない。

 眼の前の街には、大きな人間活動が興っている。そう感じ取ったアルメストは火炎を放った。東京随一の繁華街とされる銀座はたちまち炎の海に消滅。東京駅付近に林立する超高層ビルも銀座を踏みつぶしながら迫るアルメストの拳を食らって崩壊する。

 

 この後もアルメストは同じような調子で、時速六十五キロほどのスピードを出し、新宿の方を目指し始めた。何やら人間活動が大きいようだったため、道中少し寄り道して秋葉原から上野までを焼却。悪趣味ゆえ、御茶ノ水はあえて踏み潰すにとどめて(断じて、エネルギー節約のためではない)直線的に新宿へと走る。


 その頃、天海はパニックに陥った車内でもがいていた。運転手に逆方向へ運転しろと迫る男性。震えながら座り続ける女性。はたまた、暴れ出す若者。

 天海はといえば、この異常事態をいまいち信じられないでいた。

 東京沿岸が十分で壊滅した? その原因となった怪獣が、こちらへ向かってきている?

 電車はもう新宿に着いてしまったが、高層ビルに阻まれてその「怪獣」は見えなかった。

 とりあえず彼は、電車を降りることにした。パニックとなった群衆で駅はいっぱいで、天見は自分もパニックに感染しないようにするので精いっぱいであった。


 けれどもビルに阻まれて見えていないだけで、アルメストは確実に新宿に迫っていた。飯田橋で立ち止まったアルメストは再び火炎光線を発射し、半蔵門から四ツ谷までを薙ぎ払った。火炎放射でエネルギー切れしたのではないかという希望を持った人類を、裏切るために。

 数分すると、熱さから逃れようとする人々で、濠が埋まり始めた。


 歓喜の咆哮を上げたアルメストは加速し、六本の棘まみれの脚で新宿を目指し始めた。その途中で見つけたビルを拳で粉砕することは忘れない。再び火炎光線は封印し、目の先の巨大熱源を目掛けて駆けていく。

 ものの六分程度で、アルメストはこの東京の副都心へ足を踏み入れた。買い物や遊びに出かけている人々は、六本脚の巨獣を見て、己の運命を悟る。


 天海は直接アルメストを目撃はしなかったが、インターネットで仕入れた情報で知ってはいた。周りの人々は混乱し、一部は西や北へ向かう電車へ押しかけている。塾へ向かおうと外に出たが、このままだと命が危うい気がする。

 さてどうしようか。かえって冷静になった彼は、地下街へ向かうことにした。地下は安全だとどこかで聞いたことがあるからだ。


 一方、アルメストは別の攻撃方法を試してみることにしていた。火炎光線は強力な武器だが、拡散して飛んでいってしまう。彼は目の先に屹立する超高層ビルを切り落としたくなったのである。

 巨獣の六本脚が地面に突き立てられ、彼は「構え」の姿勢をとった。体内で加速機が始動し、腹に力を入れると過熱体内粒子の収束が始まる。

 二十秒ほど静寂ののち、彼は首をゆっくりともたげ、口を開いた。その中からは、先程まではなかった砲身状の器官が外部へ向けられている。

 アルメストは四本脚で立ち上がり、西新宿の超高層ビル群を睨みつけた。全長二百十一メートルで、数キロ向こうの建築物も易々と見通した巨獣は、目に光を反射する瞬膜を展開し、直後。


 ──首を右へ振りながら、橙赤色に輝く光束を撃ち放った。


 秒速千二百五十キロメートルという途方もない速度で射出された粒子の奔流は、新宿に建つ摩天楼を真っ二つに切り裂いた。生体荷電粒子砲(BPC)と呼称されることとなる光束は、わずかに五秒で三十棟以上の高層ビルを切断し、最終的には三鷹市の中心部を直撃。流れ弾だけで四千人以上の死者を出す惨事を引き起こした。

 天海は、荷電粒子砲の光が空を駆けるところを目撃した一人となった。天空に現れた一条の光。

 衝撃音に気づいて見上げれば、新宿ミライナタワーがこちら側へずり落ちてきている!


「ヒッ」

 思わず情けない声を上げ、天海はビルから離れるように逃げる。目的地は先ほど言った通り、地下街である。彼のそばから、錯乱した人々がすり抜けすり抜け、彼と同じく地下街へ逃げようとする。

 一瞬振り返った天海は、溶岩を生物にしたかのような外見の巨大生物の一部を見た。あれが「アルメスト」なのだろうか。彼はそう思った。


 「試射」を終わらせたアルメストにとって、新宿はもはや破壊すべき地域の一つであり、様々な破壊方法を試す格好のマトでしか無かった。

 まず、緩めの火炎光線を新宿三丁目から歌舞伎町のあたりに少量、放つ。道路に流れ込んできた六千度の業火は、きっちりと進路上にいた人間たちを殺害した。だが新宿駅付近には、あえて影響が及ばないように調整されていた。

 アルメストは加速し、あっという間に新宿駅東口、ルミネエスト新宿の前に到着した。

 停止した彼は倒壊しつつある超高層ビル群を一瞥した後、目の前に建つ現代建築に向かって、思いッ切り前脚を振り下ろした。純粋な運動エネルギーの塊は、完全にルミネエストを破壊するには至らなかったが、内部にいた買い物客などを圧殺し、さらに後方に停車するいくらかの電車をも押しつぶすことには成功した。


「何!?」

 天海は突然の縦揺れに驚いたが、地下を目指して走ることには変わりない。

 だが、彼の生存のための行動は、まもなく無為のものとなる。


 ビルを破壊できなかったことで激怒した巨獣が、直下へ赤熱する体内粒子を吐き出したのだ。一万三千度の火炎は、鉄筋コンクリートの建築を溶解させ、さらには地下街をも焼き尽くした。


「うわっ!?」

 火炎を見て驚きの声を上げた天海は、しかし、その一秒後には体中を大火傷し、意識を失っていた。

 天海洞也、死亡。享年十八。あまりにも唐突な死であった。

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