魅惑の精霊4
「やだね! 僕はレイと一緒に行くよ!」
「銀の不死鳥からも聞きに来て欲しいんだ。こういうのは、パーティーリーダーの方がいいだろう」
銀の不死鳥と筋肉礼賛は、別々にフェンの街に宿を取った後、再度落ち合った。
ギルドマスターのヨーゼフに、盗賊団の襲撃について詳しい人物を紹介してもらって話を聞きに行く者と、街中で盗賊団について聞き込みをする者の二組に別れようというのだ。
もちろん、アイザックはレイと一緒の組になりたがった。
「それに、そういう知識はレヴィの方がいっぱい持ってるんじゃないかな? 昔のご主人様たちについて回ってたんでしょう? 軍の会議の一つや二つ、出てて詳しいでしょ?」
「ええ。以前のご主人様には軍師や騎士団長、将軍などをされてた方がいましたからね。大抵の会議には一緒に出席してました」
「レヴィ!?」
「なら決まりだね! さ、レイ、あっちの方に行こうか! 誰か情報を持ってるかも〜」
「あっ、待ってください!」
アイザックは、サッとレイの手を取ると、大通りの方へ向かって駆け出した。
「……あの野郎……」
エイドリアンは顔を顰めて低い声で呟いた。
ウィルフレッドから、レイとアイザックを二人きりにするなと言われていたのだ。だが、マイペースで自由奔放なアイザックのペースに流されて、上手く立ち回れていない。
「私であれば、過去のご主人様たちの知識が何か使えるかもしれません。早く終わらせて、二人に合流しましょう」
「……そうするしかないな……」
エイドリアンは渋い顔で頷き、二人は約束の場所へ急いだ。
***
「あれ? さっきのお姉さん!」
「あんたたち、結局あの依頼を受けたのかい?」
レイとアイザックは、大通りの武器防具店の前で、冒険者ギルドの依頼ボード前で声を掛けてきた女剣士にばったりと出会った。
彼女はブラウンの瞳を眇めるようにレイたちを見つめてきた。
「『厄介な奴ら』って信者たちのことだったんですね」
「……そこまで聞いたのかい……ちょっと話いいかい? ここじゃアレだから……」
彼女の案内で、近くのカフェに三人は入った。
女剣士の名前は、アニスというらしい。
奥の方のテーブル席に座って、お茶を三人分注文した後、彼女はすぐに話し出そうとした。
「あ、ちょっと待ってください」
レイがピンッと人差し指を上げて、テーブルの周りに防音結界を展開した。
「……今、何を?」
「防音結界です。これで、このテーブル席の会話は、周囲に漏れなくなりました」
「……あの依頼を受けるだけのことはあるんだね、こんなに幼いのに」
アニスは目を丸くして、レイを見つめた。非常に関心しているようだ。
「それで、僕たちに話したいことって?」
「ああ、その信者のことなんだが……ここ数ヶ月、この街から行方不明者が何人も出ているって話は……?」
「ギルマスから聞きました。フェンだけでも、二十人ぐらいいるそうですね」
「おそらく、そのうちの一人が、あたしの妹なんだ……あの子は、魅惑の精霊のファンでね、手配書の顔を見て一目惚れしたらしいんだ」
(……あのただ丸が描かれてるだけの手配書で、一目惚れを……?)
レイは一瞬、気が遠くなったが、軽く頭を振って気を取り直した。
「どうしたんだい?」
「なんでもないです!」
レイは苦笑いを浮かべて、誤魔化すように胸の前で両手を振った。
「……それで、調べてみたんだけど、他に行方不明になってる者も妹のファン仲間が多くてね、行方不明になっていないファン仲間の子に確認したら、一目会いたいから森に入ったって……本っ当に、バカな子だよ!!」
アニスは悔しそうに顔を顰めて、ダンッと両拳でテーブルを叩いた。
レイはびっくりして、目を丸くしてアニスを見つめた。
アイザックは淡々とアニスを見つめている。
「それで、信者について何か知ってるの?」
アイザックは冷静に尋ねた。
「……すまない、取り乱したな。信者については、戦えそうな奴は盗賊仕事を手伝わされているらしい。他の街出身の行方不明者が盗賊たちと一緒にいて、商隊を襲っていたそうだ」
「ふ〜ん、それだけ?」
「……それからもし、盗賊の討伐の時にこれと同じものを持っている娘がいたら、私の妹だ。できれば、傷つけずに連れ帰って欲しい……」
アニスは首からペンダントを外してテーブルの上に置いた。細い革紐の先には、黒く艶やかな石が付いていて、まるで真ん中からパッキリと割られたような不思議な形をしている。
「黒の守護の双子石か……これなら使えそうだね」
アイザックが興味深そうに黒い石を見つめた。
「双子石、ですか?」
「そう。一つの石を二つに割ってできるのが双子石。元は同じ石だから、同じ魔力を持ってるんだ。だから、これと同じ魔力を探索魔術でたどれば、もう片方の石の場所にたどり着けるよ。子供に片方を持たせて、迷子になっても追跡できるように魔術を仕込んだり、互いに引き合うように魔術をかけて、親の元に自然と戻って来やすいようにしたりもできるよ」
「そんなこともできるんですね」
アイザックの説明に、レイも瞳をキラリと輝かせて興味津々だ。
「そんなことができるのか? 私は両親から、ただお守りだと言われて、妹と一緒に渡されたのだが……」
アニスはただただ驚いて、呆然としていた。
「これには特に何か魔術がかかっているわけではないから、特殊効果は付いてないけど、この魔力をたどれば、妹さんの所へたどり着けるんじゃないかな。まあ、妹さんが持っていればの話だけど」
「……妹はこのお守りを『かわいくない』とは言っていたが、いつも肌身離さず持っていた。盗賊に取り上げられていないのであれば、あの子が持っているはず……」
アニスは少しだけ希望の光が差して、瞳を潤ませた。
「少しの間だけ、このお守りをお借りしても大丈夫ですか? 盗賊の討伐が終わったら、必ずお返ししますので」
レイは優しく伺うようにアニスに尋ねた。
「ああ。妹を、よろしくお願いします」
アニスは、テーブルに顔が付くかと思うほど、深々と二人に頭を下げた。
***
「それで、この双子石を借りてきたのか」
エイドリアンが、アニスから借りてきた双子石のペンダントを眺めて言った。ひとしきり眺めた後に、アイザックに戻した。
銀の不死鳥と筋肉礼賛メンバーは、フェンの料理屋に集まった。夕食をとりながら、情報を整理しているのだ。
ベンだけは盗賊団のアジトや信者の居場所探索のため、街の外に出ている。蝙蝠系の魔物のため、彼にとっては夜からが本領発揮だ。
テーブルの上には、パンと大盛りのナポリタン、鶏皮がパリパリとしたガーリックグリルチキン、ポテトサラダ、鹿肉と野菜のシチューがどどんっと載っている。
体を動かす分、防御壁部隊員はよく食べるのだ。
「そう。信者の居場所が分かるから、レイが信者たちを隔離しやすくなるでしょ。そっちはどうだったの?」
「フェン周辺は、週に一、二回は盗賊被害が出ているらしい。隣街へ向かう街道によく出没しているらしいぞ。魅了魔術をかける都合から、魅惑の精霊の顔が見えにくい夜や雨の日にはほとんど盗賊被害は無いらしい。魅了魔術は、顔が見えないとあまり効果が出ないからな」
「そうなると、僕が雨を降らそうか? 雨が降れば、盗賊団はアジトから出て来ないんでしょ?」
「それはいいな。盗賊の居場所が固まっていた方がやりやすいしな」
アイザックが何でもないというように、天候を変えることを提案した。
エイドリアンも当たり前のように頷いている。
(盗賊討伐のためだけに雨を降らすって……スケールが違いすぎる……)
気軽に天候を変えようとする魔物たちに、レイは遠い目をした。
Sランク魔物は本来、災害レベルに恐れられている存在だ。水系のSランク魔物であれば、天候の一つや二つ変えることは造作もないことだろう。
「モーリスはどうだった?」
「フェンに駐在している領軍の地下から聞き耳を立てていたのですが、盗賊団のアジトの候補として、洞窟が二ヶ所、川の近くが一ヶ所、数年前の崖崩れで廃村になった所が一ヶ所あるようです。どれもフェンから徒歩数日内の場所のようです。あと、フェン以外の街や村でも、先月ぐらいから行方不明者が出ているようで、十名ほどだそうです」
「なるほど。あとはベンの調査結果待ちだな。それから作戦を考えよう」
エイドリアンの言葉に、みんなは頷いた。




