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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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ランクアップ試験1

「シドニーさん、冒険者証の功績ポイントが溜まったんですが……」


 レイとレヴィは、ギルド受付のシドニーに冒険者証を手渡して尋ねた。


「見せてください……ああ、レヴィさんとレイさんは、これでランクアップ試験が受けられますね。Cランクへのランクアップ試験は、毎月1回まで受けられます」

「ランクアップ試験はどんなことをするんですか?」

「Cランクの場合は、実技とペーパーテストですね」

「ペーパーテスト!? そんな、急に勉強と言われても……」


(ペーパーテストなんて聞いてないよ! 難しい問題が出たらどうしよう……)


 レイはゔっ……と顔色を翳らせた。


「ペーパーテストと言っても、Cランクの魔物や薬草、冒険者としての心得についてです。真面目に冒険者として任務をこなしていれば、自然と知識として身についているものの確認ですから、そこまで不安がらなくても大丈夫ですよ」

「……そうなんですね。実技はどんな感じなのでしょうか?」

「実技は、普段使われてる武器などによって異なります。レイさんは魔術師なので、的当てか魔術試合です。どちらになるかは魔術属性によります。レヴィさんは剣士なので、ギルドで指定する者との木剣での試合ですね。試合に勝つことも大事ですが、Cランク冒険者に相応しい実力があるかどうかがポイントになります」

「そうなんですね」

「Cランクへの功績ポイントを溜めるのは、みなさんだいたい早くても数ヶ月から一、二年ぐらいはかかってますので、レイさんたちはかなり早い方ですよ」


 シドニーはレイとレヴィの冒険者証を確認した後、丁寧に説明してくれた。


「ライの指導がいいんだろ。それに、ライにくっついて一緒にクエストもこなしてるからな。その分、上のランクの依頼も受けられるし、ランクの高い依頼ほど、功績ポイントも高いからな」


 ちょうど話を近くで聞いていたギルドマスターのオーガストが、横から口を挟んできた。


「で、いつ頃試験を受ける予定だ?」


 オーガストがじっと興味深そうに、レイとレヴィを見つめてきた。


「試験を受ける日を選べるんですか?」

「試験官の予定もあるからな、必ず選べるわけじゃないが、予定は合わせられる」

「それでしたら、一週間後はどうでしょう?」

「ああ、それなら都合がつくだろ。これでCランク試験に合格したら、最速記録だな。期待してるぞ、ルーキー!」

「わっ!」


 レイとレヴィは、バシッとオーガストの大きな手で背中を叩かれた。あまりの力強さにレイは目を白黒させて、前のめりになった。



***



 試験日当日、レイたちがギルドを訪れると、二階の部屋に通された。


 部屋には、長い木製テーブルが六台あり、二列に並んでいて、各テーブルには二脚ずつ椅子が並べてある。テーブル前方の壁には、黒板が備え付けられていた。

 この部屋は、ギルド職員のちょっとした会議や、冒険者向けの特別講義や試験会場によく使われている場所なのだ。



 まずはペーパーテストだ。

 ギルドの女性職員ジェナから、レイとレヴィは離れた所に座るように指示された。


 明るいブラウンの髪にオレンジ色の瞳の可愛らしい女性だ。ギルドの女性職員の中では一番若いらしく、リスっぽい雰囲気の小動物系の顔立ちだ。


 ジェナから、試験を受けるにあたって簡単な注意点と制限時間を説明され、答案用紙と筆記具が配られた。


「それでは、試験を始めてください」


 ジェナが開始の合図をした。



 ペーパーテストは孤高の戦いだ。

 黙々と答案用紙に向き合い、己の頭脳の限界に挑戦する行為だ。


 レイとレヴィも開始の合図とともに、答案用紙に集中し始めた。


(……ここら辺の薬草は、ユグドラでも見たことあるし、この前も採集してギルドに提出したかも)


 レイは迷いなく、師匠のウィルフレッドにも、ライにも教わった薬草の名前を記入した。


(「依頼遂行中に重大な変更が生じた場合は、速やかにギルドに報告する」……当たり前でしょう!)


 レイは答案用紙に丸印を記入した。

 冒険者としての心得も、レイにはバッチリだ。


(…………ゔぅ、きのこ……)


 レイの筆が止まった。レイに最大の試練が訪れたのだ。


『それはクロドクタケです。毒きのこですね。レイがいつも間違えて採集しているきのこです。その隣はマダラアカダケです。上級魔術薬の材料です』

『レヴィ!? っていうか、念話!?』

『そうです、念話です。レイが困っていたようなので……』

『カンニングじゃない!?』


 レイは内心びっくりしていたが、気が付けば、手の方はレヴィが教えてくれた正解を答案用紙にすらすらと書き込んでいた。


『うぅ……こっちの世界には消しゴムって無いんだった……』

『これが、カンニング……試験中でないと体験できないという不正行為!』

『もう! 何を感動してるのよ!!』

『ですが、これは今までのどのご主人様とでも体験することができなかったことです』

『カンニングは感動するようなことじゃありません!!』


 こうして、レイは史上初カンニングを行った剣聖になってしまった。

 レヴィに念話でツッコミを入れつつ、消すに消せない回答に「どうしよう!?」とレイは内心大慌てだ。


 結局、レイはどうしようもなくなって、レヴィに教えてもらった部分は適当に書き直して答案用紙を提出した。カンニングで評価されるのはプライドが許さなかったのだ。


 レイはげっそりとした表情で、レヴィは逆にツヤツヤとした表情で、試験会場を後にした。


 ペーパーテストは孤高の戦い……のはずだった……



***



「……やけに、見学者が多くないですか?」

「ああ、お前たちがここでCランク試験に合格したら、ギルドの最速記録だからな。みんな気になってるんだろ」


 オーガストは嬉々として答えた。最速記録の合格者は、セルバの冒険者ギルドにとっても名誉になる。


 ギルド裏の空き地には、ギルド職員だけでなく、冒険者たちも集まっていた。

 冒険者たちは、レイとレヴィをチラチラと見ては、何やらひそひそと話し合っていた。


(ゔっ……人が多いと、緊張する……)


 レイがチラリとレヴィを見上げると、はじめての実技試験にわくわくと目を輝かせていた。レヴィには、レイの緊張は共感してもらえなそうだ。


「で、レヴィとレイ、どっちから先にやる?」

「私が先にやります!」


 オーガストの質問に、レイは真っ先に手を挙げた。ただでさえ緊張しているのだ、トリをつとめるのだけは勘弁である。


「レイは冒険者登録の時に、水の中級魔術を披露したからな。水魔術の試験は、大抵は魔術試合なんだが、危険性も考えて的当てでいく」


 オーガストの合図で、空き地の盛り土の上に、試験用の大きな(まと)が置かれた。


「レイ、かましてやれ。冒険者は舐められたらダメだ」


 ライがレイの肩に手を置いて、耳元で囁いた。


「いいんですか?」

「俺が抜けたら、銀の不死鳥はBランクパーティーになる。無駄に絡んでくる奴らは少ないほうがいい」


 レイがライを見上げると、ライがバチリとウィンクをした。

 レイはこくりと頷くと、空き地の真ん中へ歩いて行った。


 レイが緊張をほぐすように、肩を軽く上下させて、その場で軽くジャンプした。ふぅーっと大きく息を吐いて落ち着くと、標的の的を見た。


「ウォーターランス」


 レイの左手側に、青い大きな水の魔術陣が現れた。


「アイスランス」


 レイの右手側に、水色の大きな氷の魔術陣が現れた。


「いけーーーっ!」


 レイが両手を的に向けると、大量の水の渦が左手側の水の魔術陣から放たれ、無数の小さな氷の刃が右手側の氷の魔術陣から放たれた。水と氷は互いに巻き込みあって、一本の大きな槍となって的に向かって飛んでいった。


バッシャーンッ!!! ピキキキ……


 水と氷の槍は的を貫くと、打ち付けられて跳ね返った大量の水が、的も盛土も一緒くたにまとめて凍った。あとには氷のオブジェだけが残った。


「……合格、だな。文句はねぇ」


 しーんと静まりかえる中、オーガストがにやりと笑った。


「おぉっ! すげぇ!!」

「魔術であんなこともできるの!?」

「水と氷の魔術を両方一度に使ったぞ!?」

「あの威力、すごいな。かなり魔力量が必要な技だろ」


 見学の冒険者たちやギルド職員が歓声をあげた。


 レイは照れながら、銀の不死鳥メンバーの所へ小走りで向かった。


「レイ、良くやった! 見事だ!」

「いいコントロールだったね。すごいね!」

「レイ、実技試験の合格おめでとうございます」


 ライはガシガシとレイの頭を撫で、ルーファスは優しくぽんっと肩を叩いた。レヴィもにこりと笑顔で祝った。


(やった! 実技合格だぁ!!)


 レイはにっこりと笑ってジャンプした。




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