表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

476/476

目指せ!ダンジョン管理士!9

「はぁ、はぁ……やっと、出られる……!」


 翌日、レイは息も絶え絶えな状態で、三十九階層にたどり着いた。


 中層階の超アスレチックを真面目に通っていては、いつまでたってもダンジョンの出口にはたどり着けないと、フェリクスとレイは魔物だけが通れる隠し通路の階段を、ひたすら上へ上へと上って行ったのだ──それも六十九階から三十九階までの、三十階分の階段をだ。


 はじめは「階段を上るだけだから楽勝」とたかを括っていたレイだったが、一切周りの景色が変わらない状況が続き、ただ階段を上るという単純作業もあいまって、「もはや階段を上ってるのか、下がってるのか、自分の感覚が正しいのかすら分からない」状態になってしまった。


 レイがギブアップしてしまったため、フェリクスも彼女を気遣って、一般のダンジョンフィールドに出ることにしたのだ。



「ここからはもう上層階だから、物理トラップは無いよ。魔術トラップしかないし、レイはもう初級ダンジョン管理士の称号を持ってるから、トラップは発動しないよ」


 フェリクスが、三十階分の階段を上がって来たとは到底思えないほど涼しげな表情で、教えてくれた。


「……はぁ、はぁ……義父さんは疲れたりしないんですか?」


 レイは中腰の姿勢から、チラリとフェリクスを見上げて尋ねた。


「うん? 魔王種と戦う時は、軽く一週間から十日は昼夜戦いっぱなしになるからね。このくらいでは疲れたりしないよ?」


(義父さんが、イケおじな見かけによらず、体力おばけすぎる……!!)


 フェリクスののほほんとした受け答えに、レイは先代魔王の恐ろしさを改めてひしひしと感じたのだった。



 ひと休憩入れた後、レイたちはダンジョンの出口へと向かって歩き始めた。


 三十九階層は、地下水が流れる洞窟フィールドだ。

 所々で、岩壁から水が吹き出していたり、急流に橋がかかったりしている。

 壁や地面には、ぼんやりと淡く光る苔や、小さなシダ植物が生えていて、少し幻想的だ。


「はぁ……景色が変わるだけで、妙な安心感がありますね……」

「人間の感覚は不思議だね。あのくらいで狂わされてしまうのかい?」

「そうですね。途中から、今まで何階上がったのかも分からなくなりましたし……」


 レイはどこまでも続く無限階段編を思い出し、苦笑いをした。


「そうだねぇ、管理人エリアに転移の魔術陣でも設置しようか? 移動が大変だよね」

「うぅっ、そうしてもらえるとありがたいです……」


(また来るかは分からないけど……)


 どうせならもっと早くに気づいてもらいたかったと、レイは遠い目をした。


「それにしても、トラップが発動しなければ、なんだかハイキングみたいですね」

「そうだねぇ。特に上層階は、冒険者たちが飽きずにチャレンジできるように、いろんなフィールドを用意してるんだ。何事も最初が大事だからね」


 レイとフェリクスは他愛もない話をしながら、出口を目指して歩いて行った。



 三十階層も半ばに到達した時、何やら向こうからガヤガヤと人々の話し声が聞こえてきた。


 レイとフェリクスは、ピタリと歩みを止めた。


「あれ? この声はもしかして……?」

「レイ、昨日の講習会の内容は覚えているかい?」

「はい。『ダンジョン管理士は、攻略者を直接手助けしてはならない』ですね?」

「そうだね。僕たちが手助けしたら、『試練を与えて自力でクリアさせることで、成長を促す』というダンジョンの存在意義がなくなってしまうからね。だから、ここはさっさと通り抜けるよ」

「はい!」


 レイは返事をすると、できるだけ顔が見えないように、森織りのローブのフードを深くかぶった。


 フェリクスが何やら口ずさんだかと思うと、二人の気配が周囲に紛れるように希薄になった。


(相手の記憶に残らないように、何か魔術をかけてくれたのかな?)


「……」

「……」


 フェリクスが何も口にしなかったので、レイもここは黙って従うことにした。


 一本道の先では、ニ十人ほどの冒険者グループがたむろしていた。

 ちょうど小休憩を終えて、これから出発しようとしているところのようだった。


 レイがチラチラと横目で確認すると、ジンデイジーの推しのランドンや、ベルモントの推しのユーニスもいた。


「っ!? 待ってくれ! あなたたちは一体、どこから来たんだ!?」


 ランドンが、急にハッとなって、レイたちに声をかけてきた。

 無精髭を生やした、紫髪の渋いイケおじだ。


 他の冒険者メンバーも、驚いたように、急にレイたちに注目し始めた。


(あ、この人、何か見抜く系のスキルでも持ってるのかな? それに、今ので義父さんがかけた魔術も解けちゃったみたいだし)


 レイはどうしようかと、チラリとフェリクスの方を見上げた。


「僕たちは下の階層から来たよ」


 フェリクスは、淡々と事実だけを伝えていた。


「そっ、それならこの先には一体何が……?」

「それを今ここで知ってしまってもいいのかい?」


 ランドンの質問に、フェリクスはさらに質問で返した。


 ランドンだけでなく、彼の冒険者仲間たちにも、ざわりと戸惑いの空気が広がる。


「自分の足で未踏の地を踏み締め、新しい発見に胸を躍らせる──それが冒険者ではないのかい?」


 フェリクスの言葉に、冒険者たちはごくりと唾を飲み込んだ。どうやら図星だったようだ。


「僕がここで、この先に何があるのか教えるのは簡単だけど、それでは冒険者として大事なものを失ってしまうのではないのかい?」


 フェリクスがさらに問いかけると、冒険者たちの中には、ちらほらと頷く者もあらわれた。


「ほら、私たちは先を目指すよ」


 ユーニスが、ぽんっと、ランドンの肩に手を置いた。


 ランドンも渋々「それもそうだな」と、俯く。


「そうだ、せめてヒントだけでもくれないか!? 確かに私は冒険者だが、このパーティーのリーダーでもある。このパーティーのメンバーの命を預かっているんだ。できるなら、メンバーの命を失うような無謀なことはしたくはない!」


 ランドンに縋られ、レイはフェリクスと視線を合わせた。


 フェリクスのはちみつのように深い黄金眼を見つめていると、特に興味もなさそうな雰囲気が伝わってきた。


(……ヒントくらいならいいのかな? なんか、このまま何も知らずに中層階に行っちゃうと、可哀想だし……)


「ここから先は、筋肉と体力です」

「へぁ?」

「筋肉と体力です」


 簡潔に言い切ったレイに、ランドンから間の抜けた声が漏れた。

 ただ、非常に大事なことなので、レイは二回同じことを伝えた。


 迷言を残したまま、レイとフェリクスはさっさと出口に向かって歩き始めた。


「一体何だったんだ……?」


 ランドンは呆気に取られて、レイたちの背中を目で追った。



──彼らがレイの言葉の真の意味を理解するのは、それからさらに五年後のこととなる──



***



 魔術師の技巧箱(アルカ・アルス)を逆攻略した次の日、レイは黒の塔に出勤していた。


 銀の召喚状の効果で、転移も召喚魔術も封じられていたレイは、元の姿に戻ったフェリクスによって、ドラゴニアの王都にあるバレット邸まで送ってもらっていた。


 今日は、今までのことを報告しに、黒の塔の所長室に来たのだ。


 応接スペースには、所長のテオドールと護衛役のライデッカーのほか、なぜか看守長のマリーとその部下で弟のルイスも同席していた。



「無事に戻って来てくれて良かった。それに、私の身代わりになってくれたこと、礼を言おう」


 テオドールは、ほっと安堵の息を吐いて、頭を下げた。


「所長!? そんな! 頭を上げてください!」


 レイはかえって、わたわたと慌ててしまった。


「レイちゃん、最難関ダンジョン『魔術師の技巧箱』の最下層に飛ばされたんでしょ? どんな所だったの? それに、今までにも何人か飛ばされてるはずなのよ。その人たちは無事だったのかしら?」

「う〜ん、どこから説明すればいいんでしょう……?」


 マリーに訊かれ、レイは「う〜ん」と渋い顔をして、しばらく考え込んだ。


 レイはとりあえず、今伝えられることを話した。


 ダンジョンは、九十階層まであること。

 自分が出会った階層ボスは、少なくとも全員がAAA以上のランクであること。

 そして、今まで銀の召喚状で十三人ほど最下層に飛ばされたそうだが、自分以外は全員儚くなっていること、などなどだ。


 もちろん、魔術師の技巧箱は義父フェリクスが創ったダンジョンだということも、初級ダンジョン管理士の講習会の話も、一切しなかった。


「九十階層……!? よく戻って来られたな!」


 テオドールは、驚きのあまり目を剥いて、レイを見つめた。


「最低でもAAAランクの階層ボスかぁ〜、人間だけのパーティーじゃあ、かなりキツイだろうなぁ〜」


 ライデッカーは後頭部で腕を組み、まるでひとごとのようにぼやいた。


「やはり、他国の要人は全員亡くなられていたか。……まぁ、そんな難易度の高いダンジョンの最下層に飛ばされたのでは、無理もない……」


 ルイスは、痛ましげに視線を下げた。


 それぞれがそれぞれの感想を口にする中、マリーは全く別のことが気になったようだ。プニと指先で、レイの頬をつつく。


「あら? そういえば、レイちゃん。なんでお肌ツヤツヤなの? しっとりモチモチしてるし。ダンジョンから帰って来たのよね?」


「ゔっ、えっと、ダンジョンの最下層のさらに下に温泉がありまして……美肌に効くんです」


(エリクサーの湯だから、美肌というよりも、むしろ万病に効くみたいだけど……)


 レイがへらりと苦笑いを浮かべると、マリーはスンと真顔になった。そして、音もなくスッとソファから立ち上がった。


「…………ちょっと、ブラックマーケットに行って、銀の召喚状を買い占めて来るわ」

「やめてくれ、兄さん!! そんなことしたら、兄さんが殺人未遂で投獄されるよ!!! それにダンジョンの最下層に行ったとして、どうやって戻って来るつもりさ!?」


 ルイスが即座に反応して、マリーを背後から羽交締めにする。


「はーなーしーて! 美肌に効く温泉なんて行くしかないでしょ! 帰り方なんて、その時考えればいいのよ! レイちゃんだって戻って来れたんだし!!」

「帰って来れる保証なんてないでしょ!! 何考えてるんですか!?」

「何言ってるの、すべては美肌のためよ!!!」


 レイたち三人はぽかんと、マリーとルイスのやりとりを眺めていた。



 ギャレット兄弟の言い争いは、まだしばらく続いたのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ