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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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目指せ!ダンジョン管理士!3

「ニールには連絡したし、これであちら側は大丈夫かな」


 フェリクスは、通信の魔道具をそっと撫でて通話を切ると、隣に座るレイを見下ろした。


 魔術師の技巧箱(アルカ・アルス)の最下層にある小部屋には、このダンジョンの創造主で、ダンジョンマスターでもあるフェリクスが急遽呼ばれていた。


 小部屋は、レイの元の世界で言う「モニタールーム」のような場所だった。


 奥の壁一面には水晶モニターがいくつもはめ込まれていて、ダンジョン内のあちこちの様子が、ここからでも見れるようになっていた。

 モニター側に向き合うように、大きなソファがいくつも置かれていて、ちょっぴり高級なシアタールームのような雰囲気も醸し出している。


 モニター前最前列ど真ん中のソファにフェリクスが座り、レイはその隣にちょこんと座っていた。

 レイたちの前には、どこからか運び込まれた小さな丸テーブルがあった。その上には、トリコロールカラーの器に山盛りに盛られたポップコーンらしきものと、二人分のドリンクが置かれていた。


(……ここ、映画館か何か……?)


 レイはなんとも言えない表情で、元の世界では映画館の定番商品だったブツと睨めっこをしていた。


「お嬢様。こちらは当ダンジョンの名産品『コーンポップス』です。当ダンジョン産のコーンと岩塩を百パーセント使用した軽食です。そのまま手で摘んでお召し上がりいただけます」


 執事服を着た異形の男が、丁寧に説明してくれた。訝しそうに見つめていたレイを、気遣ってくれたのだろう。


 レイは勧められるがままに、おそるおそるコーンポップスに手を伸ばした。

 元の世界にあったポップコーンよりも粒は大きめだが、クリーム色がかった白色なのは一緒だ。


 口の中に放り込めば、くしゅりと潰れて、香ばしいコーンの香りと程よい塩味が広がる。


(……まんまポップコーン!)


 懐かしい味に、レイは目を丸くした。思わず、黙々とコーンポップスに手を伸ばす。


「レイ、あまり食べすぎてはダメだよ? コーンポップスは魔力が豊富だからね。食べすぎると魔力酔いしてしまうよ?」


 無心にかぶりつく義娘に、フェリクスは、心配そうにおろおろと止めに入った。


「これならバターとかチーズも合うと思いますよ! あ、あとキャラメルも!」


 レイは、がばりと執事服の男を見上げた。


 執事服の男は、雷に打たれたかのような衝撃を受けて、目をカッと見開いた。痺れたような拙い足取りで、よろけてモニター側の壁に背中をぶつけると、すぐさまポケットからメモ帳を取り出して、何やら必死に書き物を始めた。


「さすがはフェリクス様のお嬢様! 素晴らしい発想です!! ……コーンポップスが、このダンジョンに生まれてから八十年。まさかここにきて新しい味が加わるとは……!!」


(……いや、元の世界では定番の味なんだけどな……)


 レイはそんな彼の様子を、呆気にとられて見ていた。


「そういえば、そもそもここはどんな場所なんですか? それに、私、何か銀色の招待状のような物で、ここに飛ばされて来たんですけど……?」


(ダンジョンの最下層とは聞いたけど、不思議な部屋はあるし、義父さんのダンジョンだとは聞いたけど、あの招待状との関連もよく分からないし?? それに、ここにいる魔物たちも人型ではあるけど、完全には人間の姿はしてないし???)


 レイは今まで疑問に思ってたことを、ぶつけてみた。


「ここは、フェリクス様が二百年程前に創られたダンジョンです。外の世界では『魔術師の技巧箱』と呼ばれているようですね。申し遅れましたが、私、当ダンジョンのラスボスを務めさせていただいております、ギムレットと申します。以後、お見知り置きを」


 ギムレットはピシリと腰を折り、優雅に礼をした。


 彼の話によると、二百年程前に、先代魔王フェリクスは、バルゼビス王国の奥地にダンジョンを創ったらしい。

「今までで最高傑作を!」と張り切りすぎ、かつ、久々のダンジョン創造だったため、うっかり難しくしすぎて誰も中・下層まで来られない最難関ダンジョンとなってしまったそうだ。


 百年程前に、ダンジョンボスたちから「あまりにも暇すぎる!」との抗議の声が上がったため、フェリクスはダンジョン最下層へ招待する召喚状を五十枚作成し、流通させたそうだ。


 現在、その悪夢のような召喚状は、ブラックマーケットで高値で取引されており、主に要人暗殺に利用されているそうだ。


「……ということは、私は所長暗殺の身代わりでここに……?」


「暗殺目的かどうかはともかく、私どもとしましては、当ダンジョンにいらした方には、誠心誠意おもてなしをさせていただいてます」


 レイがきょとんと自分自身を指差すと、ギムレットはニコニコと回答した。


(もしかして、さっきの登場の仕方も、ダンジョンボス的おもてなしの一つなのかな? 確かに、いきなり見たこともない異形の者があらわれたら、絶体絶命のピンチって感じがしてびっくりするけど……)


 レイは余計なことに気づいてしまい、頭がくらくらする思いだった。

 あまりにも外部の者が誰も訪れないせいか、彼らの感覚はどこかズレていた。


「……これまでに召喚状が使われたのは、レイを含めて十三名。そのうち、レイ以外の全員がこのダンジョン内で亡くなってるね」


 フェリクスは、ポチポチと真っ黒な板のような物を操作して言った。レイの元の世界にあったタブレット端末のような見た目だった。


「うん? 義父さん、何ですか、それ?」

「ああ、これはね、ダンジョン管理士のみが使える魔道具だよ。ダンジョン内のマップや情報を閲覧できるんだ」


 義娘に訊かれ、フェリクスが朗らかに教えてくれた。


「?」


 レイがフェリクスの手元を覗き込むと、真っ黒な板には、何も表示されていなかった。


「ふふっ。ダンジョン管理士の称号を持ってないと、これは使えないよ。……そうだ! レイも初級ダンジョン管理士を取ってみるかい?」


 不思議そうに覗き込む義娘に、フェリクスは穏やかに提案した。


「『初級ダンジョン管理士』!?」


(何それ!? この世界にも資格が!? でも、「称号」って言ってたよね!?)


 レイは初耳の称号に、目を丸くした。


「そう。初級ダンジョン管理士の称号を取れば、各階にあるこういった管理士専用ルームも使えるしね。そうすれば、十日も待たなくても、安全にダンジョンの外に出ることができるよ」


「『初級ダンジョン管理士』って、何ができるんですか? どんな効果があるんですか? どうやったらその称号を取得できるんですか?」


 いろいろメリットがありそうだと分かるや否や、レイはぐいぐいとフェリクスに詰め寄って行った。


 フェリクスは、レイを落ち着かせるようにポンポンと優しく頭を撫でると、説明を始めた。


 フェリクスの解説によると、「初級ダンジョン管理士」とは、ダンジョンを管理・運営する者として、特定の講習を受講完了した者に与えられる称号らしい。


 称号の効果として、ダンジョン内の魔物に襲われなくなる効果、トラップ無効、ダンジョン内にある管理人施設の入場権と利用権、ダンジョンマップの閲覧権、ダンジョンの一部情報のアクセス権、ダンジョン管理士専用魔道具の使用閲覧権などが与えられる破格の称号だ。


 なぜこの破格の称号が、そんなに知られていないかというと──


「それはそれは、お嬢様は非常に運が良いですね。以前、初級ダンジョン管理士の講習が開かれたのは、一千年前だと伺っております」


 ギムレットが「ほぅ」と、横から感嘆の声を漏らした。


「えっ?」

「そういえば、そうだね。ここ一千年程は、誰も僕に『初級ダンジョン管理士の講習を開いて欲しい』なんて言ってこなかったからねぇ」


 フェリクスは、思い返すように視線を上の方に動かすと、のほほんと呟いた。


(それ! 絶対に、義父さんに言いづらかっただけだよ!!)


 レイは、瞬時に原因を察した──誰が、先代魔王に気軽にお願いできようか……一日講習を聞いただけで取れてしまうこの称号取得の最大のボトルネックは、講師自身にあった。


(でもこれなら、早くにこのダンジョンから出られるかも! それに、なんだか、ダンジョン管理士って面白そうだし……!)


「その初級ダンジョン管理士の講習、是非、受けたいです! 義父さん、お願いできますか?」


 レイはわくわくと胸を躍らせて、ハイッと元気よく手をあげた。


 フェリクスも義娘に頼られるのが嬉しかったのか、目尻をこれでもかと下げて「うん、いいよ」と一つ返事で頷いていた。


「そうだ! 久々の開催だから、他の者も呼ぼうか?」

「「「「「えっ!?」」」」」


 そして、フェリクスは「良いことを思い付いた」と、ポンッと軽く手を打った。


 異形のダンジョンボスたちの、戸惑いの声が綺麗に重なる。


 いきなりの急展開に、ダンジョンボスたちは、おろおろと不安そうに互いに視線を交わし合った。


「みんなにバラバラにお願いされて、都度講習会を開くのは大変だからね。僕も今は大司教の仕事をしていて、そこそこ忙しいし。ギムレットたちも、ここには誰も来なくて暇だって言ってただろう? スペースは十分に広いし、ダンジョン内だから、ダンジョン管理士の講習にはうってつけの場所じゃないかな?」


 フェリクスがうきうきと提案すると、ダンジョンボスたちは目を白黒させて焦り始めた。


「でででで、ですがフェリクス様! 私どもは、このダンジョンができてから、大量のお客人を最下層に受け入れたことが今までに一度も無く……その、上手くご対応できるかどうか……!」


 ギムレットは、急に泡を食ったように、しどろもどろに言い訳を始めた。

 彼の背後では、他の四人のダンジョンボスたちも、首がもげそうになる程うんうんと力強く頷いている。


「何事も経験だよ。ほら、今はこのダンジョンを攻略してる者たちがいるだろう? もし彼らが大量に押し寄せて来たらどうするんだい? もてなすのが怖いからと、黙って先に通してしまうのかい? それはダンジョンのボスがやるべきことなのかい?」


 フェリクスにズバリ指摘され、ダンジョンボスたちは「ゔっ」と言葉を詰まらせた。


 みすみす敵をダンジョンの奥へと通してしまう──それはダンジョンボスとして、あるまじき姿なのだ。


「今回ダンジョンを訪れる者たちは敵ではないんだし、人馴れするにはちょうどいいんじゃないのかな?」

「…………ハイ……かしこ、まりました…………」


 フェリクスが穏やかな笑みでもう一押しすると、ギムレットはしょんぼりと竜の羽を下げて、頷いたのだった。


 他のボスたちも、それぞれが通夜のような表情で、ガックリと肩を落としていた。



 こうして、先代魔王フェリクスによる初級ダンジョン管理士講習が、三日後に開かれることになったのだった。




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