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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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閑話 秘めた恋(マリアンヌ視点)

 私、マリアンヌ・ゴリッツの世界は、筋肉にまみれていた。


 私が生まれ育ったゴリッツ子爵領には、タンネンヴァルトという深い森がある。


 背の高いモミの木々が生い茂り、森の中は日中でも暗い影が落ちて、どこか不気味な雰囲気が漂っている。

 この森には、強くて厄介な魔物や魔獣、狼なんかが多く棲みついている。


 そんな魔物たちからこの地の住民を守るヴォルフェン騎士団の騎士たちは、屈強な者ばかり。

 強い魔物たちと戦い、日々鍛錬を欠かさないからか、団員たちはみんなゴリゴリの立派な筋肉を持っている。


 代々の領主一家は、そんなヴォルフェン騎士団を率いてきた。

 父も兄三人もヴォルフェン騎士団に所属していて日々鍛えているから、もちろん筋肉ムッキムキのマッチョ体型よ。


 唯一女の子として生まれた私は、ムッキムキの家族や、バッキバキの騎士団員に囲まれて、むさ苦しい環境で育ってきた。


 父は、さすがに末娘の私には鍛錬するようには言わなかったし、騎士団に入るように勧めることもなかった。


 家族も騎士団員もみんないい人なんだけど、明るくポジティブすぎて、そして何もかもを筋肉で考えて、筋肉で解決する彼らのノリについていけないことが、私には何度かあった。


 そんなむさ苦しい現実(筋肉)に食傷気味だった私は、だんだんと物語の世界に心惹かれてのめり込むようになっていった。

 幼い頃は乳母に読み聞かせてもらった、王子様がお姫様を助けて結ばれるお話に夢中になったし、成長してからは巷で流行りの恋愛小説が好きになった。


 そんな物語に登場する王子様や英雄様たちは、現実でよく見かける筋肉モリモリな男性というよりは、スマートで綺麗でかっこいい殿方ばかりだった。

 普段目にすることのない見目麗しく線の細いヒーローたちは、私の心の中で、密やかな憧れになっていった。



***



 レイ様と出会った時は、本当に衝撃的だった。


 黒狼に襲われていた私の前に颯爽とあらわれて、一瞬で敵を倒して私を救ってくださったの。


 女性のように繊細なお顔立ちに、清潔感のあるサラリと流れるような髪。黒々と輝く瞳も髪も、タンネンヴァルトの森のようで私には親しみ深く感じられた。

 何よりも、ヴォルフェンに暮らす男たちが最も価値を置く筋肉はかなり控えめな細身なのに、一瞬で黒狼を倒してしまうほどの腕っぷしの強さ──まるで、私が愛読してきた物語や恋愛小説の中から飛び出してきた王子様のように感じられた。


 今まで、こんなに素敵な人に出会ったことはなかった。一目見た時から、胸の鼓動がずっと高鳴りっぱなしだった。



 レイ様──レイ・メーヴィス魔術伯爵は、私とそう年も変わらないのに、魔術伯爵位をいただいて、王都にあるドラゴニア王立特殊魔術研究所に勤めてらっしゃった。


 一代限りの爵位とはいえ、すでに貴族位をお持ちで、群れて厄介な黒狼と戦えるほどの腕っぷしもある──お父様も、レイ様とのことは反対されなかったわ。むしろ、良い縁だと後押ししてくださった。



 ゴリッツ子爵家には代々伝わる家宝がある──とても美しい片刃のドラゴンスレイヤーよ。


 高祖父かさらにその前の代に、タンネンヴァルトの森に竜があらわらたことがあった。その竜を討伐した際に、生まれたものらしいわ。


 代々の当主はそのドラゴンスレイヤーを丁寧に扱い、大切に保管してきた。でも、誰もその特別な武器の持ち主に選ばれたことはなかった。


「メーヴィス殿なら、もしかしたらドラゴンスレイヤーに選ばれるかもしれないな」


 お父様はそんなことを口ずさんだかと思うと、あれよあれよという間に剣闘大会を開く手筈を整えてしまった。


 剣闘大会の優勝者には、私との婚約、ヴォルフェン騎士団内での役職、それからドラゴンスレイヤーの持ち主になるための挑戦権を与えるということになった。


 レイ様は細身で男性にしてはかなり小柄だから、屈強な男性が多いヴォルフェンでは、どうしても舐められやすい。剣闘大会で実力を示すことで、領主の娘である私に相応しいお方なんだと、周囲に知らしめる機会にして欲しい──お父様なりの気遣いだったみたい。


 レイ様から剣闘大会に参加する旨のお手紙が届いた時は、私は天にも昇るような気持ちだった。


 剣闘大会に参加するということは、レイ様も、少なからず私のことを好いてくださってる──それだけで、屋敷中を飛び跳ねて回りたいくらい嬉しかった。


 まさか、後からあんな風にこの気持ちが裏切られるなんて、この時の私は全く考えていなかったわ……



 レイ様がわが家に到着する日は、私は朝から準備に余念がなかった。早起きして、お風呂に入り、マッサージでお肌を整えてもらった。

 一番お気に入りのドレスを着て、メイクも髪型も世界で一番可愛く仕上げてもらった。


 ニヤける頬を押さえて、どうにか淑女らしい笑顔に変えて、私は家族と一緒にレイ様たちを出迎えに、屋敷の前で待つことにした。


 しばらくして、馬車から降りて来たのは、可憐な美少女だった。

 レイ様と同じ黒髪に黒い瞳──はじめは、レイ様の妹かと思ったわ。


「ご無沙汰しております、レイ・メーヴィスです」


 丁寧な淑女の礼で挨拶する彼女を見て、私の頭の中は真っ白になってしまった。



 気づいたら、自分の部屋のベッドに寝かされていたわ。


「お嬢様! お気づきですか!」


 目が覚めると、子供の頃から世話になってる侍女のアンナが涙目で話しかけてきた。


「……レイ様は……?」

「メーヴィスお嬢様は、旦那様たちとドラゴンスレイヤーの見学に行かれているようです」

「メーヴィス、()()()……」


 やっぱり、私が会ったのは、少年ではなくて、女の子のレイ・メーヴィス様だったのね……

 何かの間違いであって欲しいと期待したけれど、現実は残酷だったみたい……


 その日は食事も喉を通らず、一晩泣いて過ごしたわ……



 倒れた次の日は、剣闘大会本番の日──優勝賞品になっている私は、欠席するわけにはいかなかった。


 本来であれば、この日この場で華々しくレイ様との婚約を発表することになっていた……まさかとんでもなく基本的なこと──レイ様が女性だったってことで、それが全て台無しになってしまうだなんて……


 昨日とは違って、朝はなかなか起きられなかったし、会場へ向かう足取りも鉛のように重かった。

 行かなきゃいけないのに、心の方が全然ついてきてくれなかった。


「領主の娘として務めを果たさなければ」と、どうにか入場前ギリギリの時間に、私は会場へと向かった。


 控え室前の廊下で偶然レイ様と出くわした時には、まだ私の心の整理がついてなくて、何も答えられなかった。それに、そっけない態度まで取ってしまったわ……


 レイ様と顔を合わせるのも恥ずかしくて、苦しくて、私は控え室に逃げ込むように入った。



 剣闘大会は、正直、全然興味が持てなかったわ。


 私やお父様に丁寧に挨拶をしたり意気込みを伝えてくる参加者たちに、形式的に微笑むのがやっとだった。

 目の前で繰り広げられる大接戦も、観客席の賑やかな歓声も、なんだか遠くの出来事のように感じられた──全てが他人事のように、私の表面を滑り落ちるように流れていった。


 大会が盛り上がって、みんなの注目が試合に向いている時、私はこっそり騎士棟の方に戻った。少しでいいから、一人になりたかったの。


 でも、騎士棟の前で待っていたのは、三人の男たちだった。

 一般人の服装はしているけど、下卑た笑いも、不穏な目つきや雰囲気も、ろくな男たちじゃないってことを語ってたわ。


 私は呆気なく捕まってしまった。

 抵抗しようにも、あまりに恐ろしくて、まともに声も出せなかった。


「助けて!」と心の中で叫んだ瞬間、レイ様があらわれた。


 レイ様は、ただ毅然としていた。

 無言を貫いて、一切抵抗しなかった。

 でも、それはレイ様が強いから。そして、その強さに自信があるから。

 私は、レイ様のそんな強さが、ただ眩しく感じられた。


 こんな状況だったけれど、そんなレイ様がそばに付いていてくれることが、とても心強く頼もしく感じられた。


 私はきっと、レイ様のそんな強さに心惹かれて好きになったのかもしれないと、この時初めて気づいたわ……



 野盗たちのアジトでは、レイ様の侍女と使い魔が急にあらわれて、それからあっという間に野盗たちを倒してくれた。

 彼女たちが戦っている間は、レイ様が結界を張ってくださって、私は安心して無防備に泣くことができた。


 強くて、優しくて、私の好きな人。

 私は、今までの想いも込めて、レイ様にぎゅっと抱きついて、わんわん泣いたわ──手酷い失恋をしたのですもの、このくらいは許されてもいいでしょう?



***



 騎士団のみんなに保護されて、私たちはヴォルフェンの街に戻った。


 剣闘大会は中止になったけれど、私の心は凪いでいた。

 もし、私が人攫いに遭わずにあのまま大会が進んでしまっていたらと思うと……気持ちが乱れたままで、見知らぬ誰かを婚約者として受け入れるなんて、きっと私にはできなかったわ。


 レイ様のおっしゃるとおり、これで良かったのだわ……



 野盗たちの狙いがドラゴンスレイヤーだったということもあって、例の武器は、ゴリッツ家でさらに厳重に保管されることになった。

 私と一緒に優勝賞品としてレイ様のものになるはずだったけれど、苦い恋の思い出と一緒に、ドラゴンスレイヤーは私の目に入らない所にしまわれることになった。



 レイ様は、次の日には王都に戻られることになった。


 レイ様は最後まで、笑顔が明るくて、優しくて、とっても素敵な方だったわ!

 まだ少し胸が痛むけれど、私も最後は笑顔で見送れて良かったわ!



 初めての恋も二度目の恋も残念な結果になったけれど、レイ様とお友達になれて心から良かったと思ってるわ。


 レイ様のことを、はじめは男の子だと思っていたことは、ずっと秘密。

 そして、恋をしてたことも、ね。





※今週は金・土に投稿予定です。

※スピンオフの投稿を再開しております。

第五章は、聖女昇格試験のお話です。

全部で十五、六話くらいを予定しております。


『冒険者を辞めたら天職でした 〜パーティーを追放された凄腕治癒師は、大聖者と崇められる〜』

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こちらも是非よろしくお願いします!


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