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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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魔動絵本3

 アルカダッドのホテルでは、二人部屋を二部屋取っていた。


「僕とレイが一緒の部屋だね」と、颯爽とフェリクスがレイとの相部屋を勝ち取った。


 なぜ僕が聖剣と!? とアイザックは抵抗したが、


「僕はレイと親子だからいいけど、若い(ように見える)男たちと相部屋にするわけないでしょ」


 と言ってフェリクスはレイを連れてさっさと部屋に入ってしまった。



「レイ、泊まり用の荷物はここに出すね。先にシャワー浴びてくるといいよ。僕はアイザックといろいろ話して来るから」


 フェリクスは空間収納からお泊まり用の荷物を出してくれた後、落ち着く間もなく部屋を出て行った。


(いろいろ……)


 レイは心の中でアイザックに合掌しつつ、ありがたく先にシャワーを使わせてもらうことにした。


 今回は良いホテルを取ってもらったためか、各部屋にシャワーが付いていて、サボンのいい香りのアメニティが付いている。

 シャワーの後は、水魔術で水分を飛ばして髪の毛を乾かす。


 レイが髪を乾かしていると、フェリクスが部屋に戻って来た。

 フェリクスがシャワーを浴びている間、レイはお泊まり用の荷物を整理し、寝る準備を始めた。


 フェリクスがシャワーから上がってきた。魔術で瞬時に髪を乾かしている。

 ゆるりとはだけた夜着姿で、頬が少し上気していて、イケオジっぷりが目に毒だ。


「せっかくだし、一緒に寝るかい? 親子は添い寝すると聞いたことがあるよ」

「小さい子供だけですよ! 私はもう添い寝するような年齢じゃないですよ!」


(どこで聞いたの、そんなこと!?)


 レイはフェリクスのいきなりの発言に目を白黒させた。子供姿とはいえ、男女で添い寝は恥ずかしすぎて眠れそうにない。


「琥珀とはいつも一緒に寝てるんだろう?」

「そうですけど、それとこれとは違います! 琥珀は猫ちゃんですよ!」


 琥珀は実際にはキラーベンガルという魔物だが、主人のレイにとっては、自分のかわいいお猫様だ。


 そこへ琥珀が主人に呼ばれたと思って、レイの影からひょっこり顔を出してきた。

 レイにゴロゴロとひとしきり頭を擦り付けて甘えた後、ベッドがあるのに気づいて、もう寝るのかと勘違いしたのか、ベッドの匂いをすんすんと嗅いで、丸くなるのにベストなポジションを探してうろうろし始めた。


 二人は一瞬何が起こったのかと、ボーっとその様子に見入ってしまった。


 レイが先にハッと再起動した。


「琥珀は女の子ですし、こんな感じで純粋なので、一緒に添い寝しても問題ないんです。人型じゃなくて猫ちゃんですし!」


「それなら……」


 フェリクスは顎に長い指を当て、少し考え込むとボンッと鳥形に変身した。部屋の大きさに合わせて、遠乗りの時よりも小型だ。湯上がりのせいか、前回よりも羽毛がほわほわと膨らんでいる。


『これなら人型じゃないし大丈夫かな?』


(ちっがーう!!)


 そういうことじゃないとレイは頭を抱えたが、ふわふわの羽毛は柔らかで魅力的だし、小首を傾げた感じも非常にあざとかわいい。


「うっ……」


 レイが答えに行き詰まっていると、フェリクスは、目をきらりと光らせて、ここは押せ押せとばかりにひらりとベッドの上に飛び乗って、羽毛の下にレイを入れてしまった。

 親鳥が温めている卵の位置を調整するように、嘴でレイの位置を優しく調整すると、仕上げとばかりに琥珀の首裏を咥えると、ぼすっとレイがいる羽毛の下に突っ込み、満足げに尾羽をふぁさふぁさと左右に揺らした。


 今日はグランバザールで土産物を見つついっぱい歩いて、観劇もして、何だかんだいって疲れが溜まっていたレイは、フェニックスの上等な羽毛布団の誘惑には勝てなかった。

 安心材料の琥珀も羽毛下に入ってきてほっとしたのか、あっという間に眠りについてしまった。


 羽下から寝息が聞こえてくると、フェリクスも安心したのか、スラリと長い首を背中に回して寝始めた。



 次の日の朝、レイは起きると、頭を抱えた。

 スッキリ目が覚めて、却って冷静になってしまったのだ。


 疲れていたとはいえ、淑女にあるまじき添い寝だった。

 最上級の羽毛布団はサボンのいい香りがしたし、フェリクスが気を利かせて魔術で温度や湿度を調整してくれたため、もの凄く気持ちよく眠れた。


 イケオジの朝の笑顔も目に眩しく、よりげんなりと気苦労を誘った。



 朝食のためにホテルのレストランに行くと、ばったりアイザックとレヴィに出くわした。

 アイザックは少しやつれたような雰囲気だが、レヴィはいつも通りだ。


「貴重な体験をさせてもらいました。パジャマパーティーです」


 レヴィはにこやかに朝から爆弾発言をしてきた。


 アイザックがげっそりした顔で説明してくれた。


 夜中にアイザックがいろいろと愚痴をレヴィに聞かせたらしいが、


「これがパジャマパーティーというものですね! レイがこの前やってました!」


 と目をキラキラさせて興味深々だったそうだ。


 アイザックは却って興が覚めて「明日もあるし早く寝るか」とさっさと寝に入ったが、レヴィは許してくれなかったそうだ。

 ある程度愚痴らされた後、やっと解放して貰えたらしい。


「こいつは本当、大(業)物だね。僕、今日も一緒の部屋は嫌だよ」


 とアイザックは朝から心底嫌そうな顔をした。


「じゃあ、今夜は剣型に戻しましょうか?」

「……剣型でもしゃべるんでしょ?」


 あまり意味はなさそうだった。



「あ、レイ、これ持ってて」


 朝食後、アイザックから魔術を上乗せした昨日の護符を渡された。


「ありがとうございます」


 最近、魔術式の見方を習い始めたレイは、思わず目に魔力を込めて魔術式を見た。

 護符に元々かかっていた低級魔物避けの魔術式のほか、幻影を作るものと、もう一つ付いていた。


「幻影魔術の他に何か付いてます?」

「ああ、それね……」


 アイザックが苦笑しながら目線を外した。


「それは僕が付けたものだよ。幻影に触れたものを灰にするんだ。本当はレイの半径五メートルの者を灰にするものを付けようかと思ったんだけど、アイザックに止められてね」


 あたり一帯を殲滅する勢いのあまりの効果に冷や汗をかいたレイは、慌てて今の護符を褒めたたえた。


「い、今の護符の方がいいです!! 私にはこっちの方が使いやすそうですし!」

「そうかい?」


 フェリクスは小首を傾けた。



***



 アルカダッドの協力者は、アイザックの元部下だった。

 彼もサーペントで、妖精の奥さんができたのをきっかけに、人型に変身してアルカダッドで一緒に暮らしている。

 奥さんはザクロの妖精で、薬屋を営んでいて、グランバザールに店を構えているのだ。


「昨日はここら辺には来てなかったですね」

「グランバザールは広すぎて一日では周りきれないんだ。昨日は観光を優先させたしね」


 そこはグランバザールの奥地の方で、昨日の土産物屋がいっぱいある所よりも現地住民らしい人が多くて、日用品や生活必需品のお店が多い所だ。現地の人々はここら辺で買い物をするらしい。


 アイザックは迷いなく、とある薬品店に入って行った。


「いらっしゃい」

「久しぶり、トビー!」

「おお! お久しぶりです、アイザック様!」

「今日は一人かい?」

「妻は今、工房の方で薬作りしてますね。今日はどうされました?」

「今日は仕事で来ててね。魔動絵本について教えて欲しいんだ」

「ああ、例の本ですね」


 そう言うと、トビーは防音結界を展開した。


「そうそう、紹介するよ。管理者のフェリクス様とレイだ。後ろのはレイの護衛のレヴィだよ」

「よろしくお願いします。トビーと申します」


 トビーはキャラメル色の髪を一つにまとめた男性だ。狐目で、商売人らしく愛想が良い。ゆったりとしたユークラスト地方の民族衣装を着ている。


 互いに簡単に挨拶し合うと、早速本題に入った。


「例の本は、ユークラストの水災と英雄の物語が題材のようです。魔動絵本を扱う店には魔術師団の調査が入って、グランバザールでも同様の物が他にも三冊見つかってます。調査の際にも魔術師が一人犠牲になったとか。魔動絵本を入荷する際は変な魔術が仕掛けられてないか、検査するよう指導が入ったみたいです」


「発禁にはしてないんだね」

「ええ、ここら辺では土産物として人気の題材なので、発禁は各所から反発があったみたいです。出版元の方にも調査や、変な者には売らないようにと指導が入ったみたいです」


「ふーん、見つかった絵本はもう魔術解析はされたのかい?」

「犠牲者も出ていてかなり慎重になってるみたいです。まだ解析が完了したというような話は出て無いですね。王宮お抱えの解析が得意な魔術師に依頼中のようです」


 フェリクスの問いに、トビーが丁寧に答えていく。


「ここだけの話ですが、追加で見つかった本は、カパルディア方面から仕入れられたものみたいなんです。あちらは魔術師の工房が多いですからね」


 トビーが少し声のトーンを落として、囁くように言った。


 魔動絵本は出版元が魔術加工していない元本を準備し、お抱えの魔術師や魔術工房へ依頼して魔術を掛けてもらう。

 魔動絵本は魔術加工されている分高価なため、上流階級向けが多く、豪奢な作りものものが多い。贈答用としても人気だ。

 そのため、上流階級向けの暗殺用に利用されたのではないかと推測されている。


 追加で見つかった三冊は、出版元もバラついていて、加工したとされる魔術師もバラバラなため、捜査が難航しているようだ。


「いつ解析が終わるか分からないですし、現地に直接行かれて魔術跡を追う方が早いかもしれませんね」


 トビーが困ったように肩をすくめた。


「そうなると、明日はカパルディアかな」

「カパルディア……」


 カパルディアは、ユークラスト地方の西側にある奇岩地帯だ。


 昔は変わり者の魔術師たちが、岩をくり抜いて工房を構えて住んでいた。

 今でも現地の魔術師たちが作成した魔道具や魔術薬、魔術加工された工芸品や武器防具などの工房がたくさんあり、年に二回、世界中の魔術関係者が訪れる定期市も開かれている。


 また、最近では奇岩をくり抜いて作られたホテルに宿泊したり、魔動気球で空から奇岩地帯を眺めるレジャーが人気となっている。


「カパルディアならそこそこの魔術師が揃っていそうだね」


 フェリクスは納得したように頷いた。



 謝礼としてトビーにユグドラの森産の薬草を渡すと、非常に喜ばれた。


「妻が喜びます! ユグドラのものは魔力が豊富で質の良い薬ができるんです」


 またいらしてください、とトビーににこやかに見送られて四人は薬屋を後にした。




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