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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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レイの内職6〜スクロール作り〜

「わぁ~、すごい……」


 レイは資料室内を見渡して、息を飲んだ。


 資料室は、博物館と図書館を足して二で割ったような場所だった。


 出入り口近くの大きな石台の上には、レイが両手を広げてやっと収まるぐらいの巨大な本が置かれていた。


 本が置かれた台座の周りには、遺跡から持ってきたような石板や石像、巨大な壺やレリーフなどが置かれていて、それぞれに古い文字が刻まれている。


 広すぎる室内は、入り口付近からは壁がどこにあるのか分からないほど奥に続いていた。

 床には、落ち着いた深緑色のふかふかのカーペットが敷かれていて、足音も立たないほどだ。


 保管棚は、高い天井近くまで(そび)えるように立ち並び、本や手紙などの紙の資料や、異国情緒あふれる巻物、木簡や竹簡の束、謎の魔道具等々さまざまなものが詰め込まれていた。


「この資料室には魔術的に危険なものはないけど、脆くなってるものも多いから、これ使って」


 アイザックがレイに白い手袋を手渡した。


 レイが目に魔力を込めて、渡された手袋を見ると、この手袋で触れた物を守る防護魔術がかけられているようだった。


「手袋をしたら、こっちに来て。調べ方を説明するよ」


 アイザックは、出入り口近くにある巨大な本が載った石台の所まで行くと、手招きした。


 レイも手袋をはめると、さっさとアイザックの元へ向かう。


「この本は、この資料室にある物全ての場所が記されたリストなんだ。この部屋の中に入った物は自動で全て記録されるから、もちろん、僕たちも今はこの本に居場所が載ってるよ」


 アイザックは、巨大な本のページをめくりながら説明した。

 とあるページで急に指差したかと思うと、そこにはアイザックとレイの名前が書かれていた。


「『入り口、索引の書前』って、ここのことですね? ……というか、私たちって物扱いなんですね……」


 レイはなんだか複雑な気持ちで、ページに書かれた自分の名前を見つめていた。


「そうだね~。まぁ、生き物だけを除外指定するのが大変だったんじゃない? ここの部屋自体にも、特殊な魔術が敷いてあるし」


 アイザックは特に気にすることなく、あっさりと答えた。

 巨大な索引の書をめくって、一番最初のページまで戻る。そのページには、横に細長い四角形だけが記されていた。


「? 何ですか、このページ?」


 レイは、アイザックの横から索引の書を覗き込んだ。


「この四角の中に調べたいものを書き込むと、どこにあるか教えてもらえるんだよ」

「えっ!?」


(すごい! この本に検索機能が!?)


 レイはびっくりして声をあげた。

 脳裏には、元の世界での某インターネットサービスの検索画面が思い浮かんでいた。


「この羽ペンを使って書き込むんだ。文字を消したい時は、指でなぞるだけでいいんだよ。例えば……」


 アイザックは、索引の書の横に置いてあった羽ペンを手に取ると、「スクロール 作り方」とサラサラと書き込んだ。


 索引の書が淡い青色の光に包まれると、勢いよくパラパラとページがめくれていった。あるページまでくるとピタリと動きが止まり、自然とページが開かれた。

 そのページのいくつかの項目に、ユグドラの花が描かれていた。


「わぁ、すごい……!」


(っていうか、検索欄の書き方も、そんなグー◯ルみたいな感じでオッケーなの!?)


 レイはいろいろな意味で感動していた。


「このユグドラの花が現れた項目が、該当する資料だよ。棚の方にも目印がつくから、分かりやすいよ……う~んと、あれだね!」


 アイザックは資料室内をキョロキョロと見回すと、ある棚を指差した。

 その棚の一角には、青い光を放つ玉型の精霊が群がっていた。


「え!? あれって、何の精霊ですか!? 初めて見ました!」

「資料室の精霊、なのかな? よく分からないけど、いつの間にか現れるようになったんだ。とにかく、あれを目印に探すといいよ」


 アイザックも首を捻りつつ、答えてくれた。


「とりあえず、行ってみようか?」


 アイザックに促され、レイも棚の方に歩いて行った。


 アイザックとレイは目的の棚の前にたどり着くと、ぐっと上の方を見上げた──天井近くの段に青い光が集まっているのだ。


「どうしましょう? ものすごく高いところにありますね……」

「大丈夫だよ。梯子があるから」


 レイが不安そうに口にすると、アイザックがニッと笑った。


「え? 梯子? どこにですか?」

「ここだよ」


 アイザックは、保管棚の前側に付いている、天井向かって伸びる手すりを掴んだ。彼がそこに軽く魔力を流し込むと、足元にステップが現れた。


 ステップは幅の広い葉っぱのような形で、隣の手すりのところまで伸びていた。


「おぉっ! これに乗るんですか?」

「そうだよ。これに乗るとね──」


 アイザックは手すりを掴んだまま、ステップに乗った。ステップが静かに上昇を始め、アイザックも一緒にスルスルと棚の上の方へと昇っていく。


「すごい……!」


(でも、梯子というか、エレベーターみたいな感じ??)


 レイは、昇っていくアイザックを下から眺めた。感動しっぱなしで上を見上げたため、口も開きっぱなしだ。


 アイザックはお目当ての棚の前まで昇ると、棚から資料を探して取っているようだった。資料を取り終わると、今度はゆっくりとステップが降りてくる。


「はい、これ。梯子で上がる時は、落ちないように気をつけてね。まぁ、ユグドラって飛べる奴とか頑丈な奴が多いから、梯子から落ちないようにはなってないから」


 アイザックが、古びたノートを手渡してきた。


「ありがとうございます! 落ちないように気をつけますね」


 レイはノートを受け取ると、にっこり笑ってお礼をした。


「まぁ、レイが落ちそうになっても、僕がすぐに助けに行くけどね」

「や、約束ですよ!」


 アイザックがウィンクして言うと、レイも慌ててお願いした。高いところから落っこちて、怪我をするのは御免なのだ。


 アイザックとレイは、手分けして資料を探した。

 閲覧用のテーブルもあるようで、集めた資料はそこに置いていく。


 ある程度資料が集まると、レイは椅子に座って資料の中身のチェックを始めた。

 古今東西、一点ものの資料を集めたせいか、癖のある手書きのものが多く、また言葉遣いも古めかしいものが多くて、読み込むこと自体が大変だった。


(ここから探し出すだけでも大変かも。本みたいにきちんと順序立ててまとめてあるわけでもないし……)


 レイは四苦八苦しながら資料を読み込んでいた。

 少しでも役に立ちそうなものは、ページの間に栞代わりに紙を挟み込んでいた。


「レイー、この資料で最後だよー」


 アイザックが、奥の方から紙の束を抱えて戻って来た。


「ゔぅっ、ありがとうございます。メモ書きの束ですか……」


 レイはアイザックが抱えているものを見て、これからの作業の大変さが頭をよぎった。


「そうだね〜。目を通すだけでも結構時間がかかるかもね」


 アイザックは、資料の山のそばに持ってきた紙の束をどさりと置いた。

 レイの隣の椅子を引いて、腰掛ける。


(せめて、もうちょっと詳しく検索をかけてれば……)


「あ! 転移魔術のスクロールに絞れば、もっと資料が減るんじゃ……?」


 レイはピンッと閃いて、ぽんっと手を打った。


「あ。そうだね! レイ、もう一度検索かけてみて!」


 アイザックに連れられて、レイはまた索引の書の前にやってきた。


 レイは羽ペンを握ると、「スクロール 作り方」と書かれている四角形の中に、追加で「転移魔術」と書き込む。

 すると、今度は閲覧席の上に置いた資料に、青く光る玉型の精霊たちが集まってきた。


「あ! 精霊が集まってる資料と集まってない資料に分かれました!」


 レイは、閲覧テーブルに駆け寄った。

 精霊が付いている資料を、注意深く避けていく。


「じゃあ、他の資料は返却口に戻しとくね」


 アイザックは、精霊が付いていない資料の方をまとめ始めた。


「あれ? 元の場所に戻さなくていいんですか?」

「あそこの台に置いておくと、元の場所に戻してもらえるんだ」


 アイザックは、出入り口付近の壁際にある、何も置かれていない石の台座を指差した。


「ほえ〜、便利ですね」

「そ! 便利なんだよ!」


 レイが目を丸くすると、アイザックはにんまりと笑って胸を張った。



 残った資料は、そこまで多くはなかった──転移魔術自体が、上級魔術だからだろう。


 残ったものは、スクロール作りを生業とする魔術師の作業メモや、魔術研究者の手記がほとんどだった。

 レイはざっと目を通して、栞を挟んだり、メモを取ったりしていった。


 アイザックは、用のない資料を返却台に運んでいった。



「ふぅ〜……」


 作業がひと段落すると、レイは軽く伸びをして、深く息を吐いた。目頭を親指と人差し指で挟んで、ぐりぐりと揉む。


「どう? 終わった?」

「とりあえずは……」


 アイザックに訊かれ、レイは疲れが滲んだ笑みで答えた。


「この資料室は貸し出し禁止だから、またこの資料を見たいなら取っておくよ?」

「是非、お願いします」


 アイザックが取り置き作業をしている間、レイは自分で書いたメモを見返していた。


(あれだけ資料を探して、見つかったのは二つ。『転移魔術に影響しない属性の魔術を追加して防御。聖属性なら、幅広い状態異常系に対応可能』、あとは『呪い返しを応用したトラップを仕掛ける』か──どっちでいくかは、ニールと相談かも)


「レイー! そろそろ戻ろっか?」

「はーい!」


 アイザックに声をかけられ、レイも返事を返した。



***



 アイザックとレイが図書館の一階に戻って来ると、貸し出しカウンターの前でウィルフレッドが待っていた。


 ウィルフレッドはユグドラ内にいるためか、ドラゴニア王都で過ごしていた時とは異なり、襟元の伸びたシャツに着古したパンツ、そして傷のついたミドルブーツと、相変わらずの格好だ。


 カウンター奥から出て来たアイザックとレイを見つけて、「おや?」とヘーゼルの瞳を丸く見開く。


「あれ? レイ?」

「師匠?」


 レイも思いがけない人物に会って、目を瞠った。


「どうしたんだ? 珍しいな」

「ニールに調べものの課題を出されて、図書館に調べに来たんです」


 レイはウィルフレッドの近くにトコトコと寄って行って、素直に答えた。


「そっか。まぁいい、ちょうど良かった。近々、ドラゴニア北部でサーペントの王が復活しそうなんだ。それで、起きたてのかの王と接触するメンバーを募ってるんだが、レイも行くか? あの爺さんは予測不可能だからな、メンバーは多ければ多いほどいい」


 ウィルフレッドが、さらりと説明する。


「ちょっと! そんな危ない奴のところにレイを連れて行かないでよ! 絶対、レイのこと気に入るから!!」


 アイザックがどさくさに紛れて、ウィルフレッドから庇うようにレイに抱きついた。


(危険なのって、そっち?)


 レイは胡乱な目でアイザックを見上げた。自分を放すように、パシパシと彼を叩いて合図を送る。


「あ、でも、レイは塔の方の仕事が忙しいか?」


 ウィルフレッドはぴくりと片眉を動かすと、ベリッとアイザックをレイから引き剥がした。レイの方に振り返ると、愛想よく尋ねる。


「今は休暇中なので、大丈夫です」


 レイはふりふりと首を横に振った。


「それじゃあ五日後だな。バレット邸に迎えに行く」

「!? ウィル!? 締めすぎだから!」


 ウィルフレッドは、アイザックがまたレイに抱きつかないよう彼の首に腕を回して、取り押さえていた。

 アイザックは、息苦しそうにバンバンとウィルフレッドの腕を叩いている。


(五日後なら、スクロール作りの調べ作業はもう済んでるだろうし、大丈夫かな?)


「分かりました! ニールにも伝えておきますね!」


 レイはアイザックのことは軽くスルーして、こくりと頷いた。




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