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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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王都めぐり3

 食後はギアンサル川沿いをお散歩だ。


 王都ガシュラには石畳が敷かれ、赤煉瓦の家や店が立ち並び、レイの元の世界でいうヨーロッパのようなお伽話に出てきそうな素敵な街並みだ。

 ただ川べりを散歩しているだけでも、非常に絵になる。


 ギアンサル川の川幅は広く、水深は深い。深い青の流れはゆったりとしていて、いくつか大きな橋もかけられている。

 特に中心街の川岸をつなぐ大橋は、観光名所の一つだ。石造りのアーチ橋は頑強で見た目も美しく、大橋近くの川沿いには、いくつもの出店や屋台が出ている。


 今日は曇りのためか、暑すぎずちょうど散歩しやすい気候だった。

 川辺は水気を含んだ涼しい風が吹き、時折、水と風の玉型の精霊がふよふよと流れていった。


「風が吹くと気持ちいいですね」


 レイは大橋の欄干に手をついて、街の方を眺めた。絵画のような景観を、ゆったりと眺める。


 中心街の先の高台には、白亜のドラゴニア王宮があり、さらにその周辺には貴族街が広がり、瀟洒な屋敷がいくつもあった。


 琥珀は欄干の上に登って、レイと同じ方向を眺めていた。


「そうだね。ガシュラは美しい街だよ。それに、街並みだけじゃなくて、女性も美しい」


 ハムレットがさりげなくレイとの距離を詰めた。ふわりと、ほんのり甘いムスクの香りが漂ってくる。

 レイを見つめる色鮮やかな黄金眼は、いつになく熱っぽく潤んでいた。


(む、これはちょっとヤバいかも……!)


 レイはドギマギして、誤魔化すように屋台が並んでいる方を指差した。


「あ、あれ! フェリア・マギカで見たことがあります!」


 レイが指差したのは、ドリンク屋だ。


 色とりどりのジュースが入った瓶だけでなく、屋台の作業台の真ん中に、魔術陣が描かれた板が置かれていた。


 フェリア・マギカは、世界最大の魔術用品の定期市で、レイは一昨年の秋にフェリクスと一緒に行ったのだ。


「へぇ~、珍しいね。せっかくだし、いただいてみようか」


 ハムレットは颯爽とレイを連れて、屋台の方に向かった。


「いらっしゃい!」


 屋台のお兄さんがにこやかに声をかけてきた。


「ジュースはオレンジ、ブドウ、レモン水、アイスティーがあるんですね! どれにしよう?」


 レイはメニューの札を眺めた。


「ふぅん、疲労回復効果を付与できるんだね」


 ハムレットは、作業台の真ん中に置いてある魔術陣を見て、ぽつりと呟いた。


「やぁ、お兄さんも魔術師ですか? 魔術師の方は、ジュースよりもまず先にこの陣を見られるんですよ!」


 屋台のお兄さんが気さくに話しかけてきた。


「他の効果も付与できるのかな?」

「いえ、これだけっす! 街歩きで疲れた人に人気なんです」

「ふぅん、では、私はアイスティーにしようかな。レイはどうする?」

「私はレモン水にします!」


(散歩中だし、さっぱりしたのがいいかも!)


 レイも元気よく注文した。


 注文を受けると、屋台のお兄さんはグラスにそれぞれアイスティーとレモン水を入れた。

 まずは魔術陣の上にレモン水を載せると、お兄さんが魔力を少し流した。これで魔術ドリンクのできあがりだ。


「はい、お嬢さん。どうぞ」

「わぁ、ありがとうございます!」


 レイはお兄さんに魔術ドリンクを手渡され、笑顔でお礼を言った。


 お兄さんはアイスティーの方も魔術付与をし、ハムレットは二人分の料金を支払った。


「そこのベンチで休憩しようか?」

「賛成です!」


 屋台近くのベンチに並んで座ると、ハムレットとレイはそれぞれ魔術ドリンクを口にした。


「ふぅ……」


 レイはリラックスして、フッと息を吐いた。


(ちょっぴり元気が出るかも!)


 味は普通のレモン水だ。でも、歩き疲れた脚の疲れや身体のだるさが、少しほぐれたような気がした。


「へぇ、確かに疲労回復(小)が付いてるね。屋台であの金額で売るなら、このぐらいが妥当だね。魔力量によって売れる数も限られてるだろうし」


 ハムレットは、感心しながらアイスティーを飲んでいた。


「フェリア・マギカでは、他にも魔力回復とか、二日酔い解消とか、ジュースの後味を変えたりすることもできましたよ」

「うん、魔術陣を変えて付与するんだね。後味を変えるのは、よく考えたね。そういうニッチな魔術は、やっぱりフェリア・マギカならではだね」


 レイとハムレットは、朗らかにおしゃべりし合った。


「な〜ん」


 ふいに、琥珀がレイの膝の上に小さな前足を載せてきた。もの欲しそうに、レイを見上げる。


「あ、琥珀もお水飲みたいよね」


 レイは空間収納から琥珀用の水皿を取り出した。

 水皿をベンチの上に置くと、レイはするすると魔術で水を出した。


「おぉ! ……いい、水だねぇ」


 ハムレットが小さく感嘆の声をあげた。その視線は、うっとりと皿の中の水に釘付けだった。


『レイ、ありがと!』


 琥珀は念話でお礼を告げると、夢中で喉を潤した。


「いいな〜、琥珀ちゃん。レイ、私にも水を出してもらえるかな? 屋台の魔術ドリンクよりも、私にはそっちの水の方が効きそうだ」


 ハムレットはアイスティーを飲み干すと、レイの手を握ってお願いをした。

 柔和だが、有無を言わさない雰囲気で、レイに迫る。


「え、いいですけど……」


(ちょ、手……!)


 レイはドキドキしながらハムレットの手をそっと押し退けると、空いたグラスの方を掴んだ。水魔術で、グラスの中身をトプトプと満たしていく。


 ハムレットは「うん、いいね」と、魅入られるようにレイが紡ぐ水魔術を見つめていた。


 ザパッ!

 ザパパンッ!


 突然、ギアンサル川から水飛沫が上がった。


「「「!?」」」


 レイたちがギアンサル川の方を振り返ると、川面から何匹も大きな魚やトカゲのような頭が出ていた。みんな、こちらを憧れるようなキラキラした瞳で見つめている。


「みゃっ!? 魔物……?」


 レイはびくっと肩を震わせて、ハムレットの背中に隠れようとした。


 琥珀はベンチの上で背中を弓なりにして、川の魔物たちを威嚇していた。尻尾がいつになくぽわぽわと膨らんでいる。


「…………うちの(眷属)たちだね。レイの魔力に惹かれて来たかな?」


 ハムレットは珍しく気分を害したように眉根を寄せると、「帰りなさい」と追い払うようにシッ、シッと手を払った。


 水の王直々に追い払われ、川の魔物たちはトプン、トプンと川の中へと戻っていった。


「レイは外ではあまり水魔術は使わない方がいいかな。それから、これ以上使い魔は増やさないでね。私からの、お願い」


 ハムレットは苦笑して、レイを見下ろした。


「ゔっ、そうですね……」


(今度からちゃんと周りを確認してからやろう……)


 レイは、川の底へと沈んでいく魔物たちの影を眺めて言葉を詰まらせた。



 本日の王都めぐりは、これでお開きとなった。




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