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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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閑話 三角帽子

 クリスタンロッキーの街に戻って来ると、三番チームは冒険者ギルドに向かった。


 買い取りカウンターに、クォーツN二ダンジョンで倒した魔物の魔石を提出する。

 今回は他のチームもダンジョンに潜っていたこともあり、魔石の数は少なめだった。


「まぁ! ニルスもビョルンもマッドリザードを倒したの!?」


 受付の女性が、艶々と大きなマッドリザードの魔石を見て、歓声をあげた。


「いや。それは、こっちの二人が倒したんだ」

「俺たちは、見てるだけだったな」


 ニルスとビョルンは苦笑いを浮かべて、レイたちの方を目線で示した。


「な〜んだ。マッドリザードを倒せるなら、クリスタンロッキーでいい稼ぎ頭になれるのに。……ねぇ、お兄さんが倒したのよね? ここら辺では見かけない顔ね」


 受付の女性は、今度はレヴィに色目を使い始めた。


「変わり身が早すぎるだろう。それに、さっさと換金してくれ。試験を受けてきたばかりで、疲れてるんだ」


 ビョルンが迷惑そうにツッコミを入れた。


「は〜い。今日はBランク試験だったわよね。ここにいるってことは、実技は合格したのよね。おめでとう!」


 受付の女性は、買取証をバシッとカウンターの上に出すのと同時に、にっこりとお祝いの言葉を口にした。



 ニルスとビョルンに「軽く食事でも一緒にどうだ?」と誘われ、レイとレヴィは、ギルドのホールにある食事処に向かった。


 クリスタンロッキーのギルドの食事処は、食堂とバーを兼ね備えたような店だ。


 重厚なグレーの石壁に囲まれ、年季の入った渋いオーク材のカウンターやテーブルには、この地方特産のクリスタルライトがキャンドルのように置かれている。まだ昼間なのに、雰囲気はバッチリだ。


「打ち上げと言っても、ほぼ昼飯だな」


 ビョルンが苦笑いを浮かべた。


 三番チームは、踏破の印を取った後はノームの土人形に追われ、一気に五階層から駆け抜けてダンジョンを脱出したため、一番乗りで合格したのだ。


「とりあえず、エールでいいな? おっと、お嬢さんはジュースだな」


 ニルスが気を利かせて、まとめて注文をしてくれた。


 レイたち三番チームは、丸テーブルの席に座った。

 真っ昼間から飲んでいる者は他にはおらず、すぐに注文の品が届いた。


「それでは、実技試験の合格を祝して「「「乾杯!」」」」


 大人三人はエールを、レイはベリージュースで乾杯だ。

 カランッと木製グラスを打ちつけ合う音が、食事処に響いた。


 食事処の営業は冒険者が戻って来る夕方からが本番らしく、昼の間は軽食しかないようで、メニューはサンドイッチだけだった。


「忘れないうちに、先ほどの買い取り額を山分けしましょうか」


 レヴィが、魔物の買取カウンターで受け取ったお金をテーブルの上に置いた。


「マッドリザードは、俺たちの分はいいよ。それは実質、あんたたちだけで狩ったからな。二人で分けてくれ」


 ビョルンがそう言うと、ニルスも深く頷いた。


「それなら、マッドリザード分のお金をここのご飯代に当てよっか?」


 レイがレヴィの方を見上げて提案した。


「レイがそれでいいのなら、いいですよ」


 レヴィはこくりと頷いた。


「いいのか?」


 ビョルンが片眉を上げて尋ねた。


「いいですよ! マッドリザードを一番最初に見つけてくれたのはビョルンさんですし、お二人には、ノームの件でいろいろご迷惑をおかけしましたし……」


 レイは少しばつが悪そうに照れ笑いをした。


「ははっ。そういうことなら、ありがたくいただこう。お嬢さんのご厚意だ」


 ニルスは厳つい顔を柔らかく崩した。


「まさか、最後にノームの里長が出て来るとは思わなかったよ。あの人、滅多に里から出ないんだよ」


 ビョルンがグビグビッとエールを飲んで、語った。


「ビョルンさんは、里長さんとはお知り合いなんですか?」


 レイはゴックンとサンドイッチを飲み込んで、尋ねた。


「俺の母さんが、あの里長の妹なんだよ。それにノームの変身帽子を渡すだなんて、お嬢ちゃんは相当気に入られたね」


 ビョルンは、サンドイッチに手を伸ばしながら言った。


「えぇ……あれで気に入られてたんですか?」


 レイは怪訝そうに顔を顰めた。


 大量の泥や土人形に襲わせて、無理矢理ノームの里に案内しようとするのだ——到底、気に入られているようには思えなかった。


「ノームの愛情表現は変わってるんだよ」


 ビョルンはサンドイッチ片手に、やれやれと肩をすくめた。


 レイは「そうなんですね」と呟いて、リュックの中からノームの変身帽子を取り出した。あらためて、しげしげと眺める。


 色とりどりの糸で宝石のように刺繍が施されていて、てっぺんには、ふわふわのポンポンが付いている——かわいらしい帽子だ。


「そういえば、レアアイテムだと言っていたな?」


 ニルスは興味深そうに、レイの手の中にある三角帽子を見つめた。


「かぶってみますか?」


 レイが三角帽子をニルスに手渡すと、彼は一切の躊躇なくそれをかぶった。


 大きくがっしりとしたガタイに強面の顔をしているニルスの耳が、長く鋭く尖った。

 そんなゴブリンのように恐ろしげな大男に、ちょこんと載った愛らしい三角帽子……


 絶妙に似合っているのに、似合っていないのだ。


「あははっ! 極悪すぎっ!! パーティー会場に来た盗賊かよ!!!」


 ビョルンはニルスを指差して、からからと笑い出した。


「グフッ」


 レイも思わず吹き出してしまった。顔を隠すように横を向いて、小刻みに震えている。


「ニルス、似合ってますよ」


 レヴィはエールを飲みつつ、淡々と褒めていた。


「ビョルン、笑いすぎだ! ……どうやら、この帽子はかぶり手を選ぶようだな。私では他の人を驚かせてしまうな」


 ニルスは恥ずかしそうに頬を桜色に染めて、レイに三角帽子を返した。


「ビョルンさんもかぶってみますか?」

「俺は変わらないと思うよ」


 レイは今度はビョルンに三角帽子を手渡した。

 ビョルンも、さくさくと帽子をかぶった。


「……なんだ、つまらんな」

「本当に、変わらないですね。でも、よく似合ってます」


 ニルスとレイは目を皿のようにして、ビョルンがどこか変わってないか眺めた。


……ただ、ビョルンは、ビョルンだった。


 いつもかぶっている三角帽子よりも派手にはなったが、よく似合っていた。

 普段の軽めの雰囲気のせいもあるが、肩口でくるりと跳ねた赤紫色の髪と若干パーティー感のある変身帽子はしっくりと合っていた。


「いえ、ほんの数ミリほど耳が伸びてます」


 レヴィは自分の耳を指差して、指摘した。


「……逆に、よくその数ミリの差に気づけたね……」


 ビョルンは三角帽子を脱ぐと、今度はレヴィに手渡した。


 レヴィもわくわくと三角帽子をかぶる。


「どうですか?」


 レヴィが少し弾んだ声で、三人に尋ねた。


「……ビョルン以上に変わらないな」

「耳も尖らないね」

「元の顔が真面目そうだからか? 絶妙に『これじゃない感』があるな……」


 三人はまじまじとレヴィを見つめると、口々に思ったことを言葉にした。


 レヴィは落ち着いて真面目な顔立ちのためか、愛らしい三角帽子の少しはっちゃけた雰囲気が全く似合っていなかった。


「…………」


 レヴィは珍しく肩を落としてしょぼくれた。


「はりきってパーティーに出たはいいけど、空回りしすぎて、逆にコーディネートを外して浮いちゃった感じかな……?」


 レイがきょとんと口にしたトドメの一言に、レヴィは丸テーブルに深く沈んだ。



「そういえば、レヴィとお嬢さんはBランク冒険者になったら、どうするんだ? 普段はクリスタンロッキーで活動はしてないんだろう?」


 サンドイッチをぺろりと平らげると、ニルスが尋ねた。


「ええ。私たちは王都に向かう予定です」

「Bランクに上がったら、別の仕事に就く予定なんです」


 レヴィとレイは、淡々と答えた。


「そうか。どこかのお抱えになるのか〜。それもアリだな」


 ビョルンは、うんうんと相槌を打った。


「ニルスさんとビョルンさんはどうされるんですか?」


 今度はレイが二人に尋ねる。


「俺はこのままクリスタンロッキーで冒険者をやるかな。家族もいるし、他に特に行きたいところも無いし」


 ビョルンは苦笑いして答えた。


「私は少し国を周ってみたいと思う。Bランクだと、冒険者として一人前と見なされるからな。どこへ行っても、それなりに働けるだろう」


 ニルスはしっかりと答えた。


「治癒魔術が使えるなら、教会もいけそうですけど……」


 レイは素朴な疑問を口にした。


「……ああ。実は、私も幼い頃は聖鳳教会にいたんだ。だが、どうもあそこの雰囲気が合わなくてな……こうして、今は冒険者として自由にやってる」

「そうだったんですね! すみません……」

「いや、謝ることはない。誰にも向き不向きはあるからな」


 レイがあわあわと慌てて謝ると、ニルスはにかっと笑って、それを制した。



 冒険者ギルドの前で、四人は別れた。


 レイとレヴィは、きのこの帽子亭へと手を繋いで一緒に帰って行った。


「みんな、合格してるといいね」

「そうですね」


 レイがにこっと微笑んで見上げると、レヴィも柔らかく微笑み返した。




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