はじめてのダンジョン3
「ここが最深部みたいですね」
レイたち銀の不死鳥メンバーは、現在、クォーツN二ダンジョンの五階層に来ていた。
坑道の行き止まりには広い空間があり、部分的に掘られた跡や、放棄されて錆びついた古いつるはしや工具が転がっていた。
廃鉱山を元にダンジョン化されたクォーツN二ダンジョンは、奇数階が坑道になっていた。
偶数階は純粋なダンジョンとなっていて、階層によって環境がガラッと変わっていた。
「鉱山とダンジョンがかなり入り乱れてるね。そんなに大きくはないダンジョンだから、試験会場にはちょうどいいのかもしれないね」
ルーファスは、クォーツN二ダンジョンの地図と現在地を見比べながら言った。
「坑道の方はあまり強い魔物は出なかったですね。もし疲れて休憩を取るなら、奇数階の方がよいでしょう」
歴代の剣聖に付き従って、何百回も何千回もダンジョンに潜ってきたレヴィが、意見を述べた。
「そうだね。ここで少し休憩したら、戻ろうか」
「賛成です!」
歩き通しでヘトヘトだったレイは、ルーファスの提案に大賛成した。
「それにしても、人がつくったものにダンジョンができるなんて、不思議な感じですね」
レイは、みんなのコップに水魔術で冷たい水を注ぎながら呟いた。
今日のおやつは、ドライフルーツがたっぷり入ったパウンドケーキだ。
ダンジョンや遠征の際の行動食として、食べやすい大きさに切ったものだ。
「先々代の魔王様は、ジェムゴーレムで、特に廃鉱山に好んでダンジョンを創られたらしいよ」
ルーファスは、「ありがとう」とレイから冷たい水入りのコップを受け取りながら言った。
「『ジェムゴーレム』……初めて聞きました」
レイは今度はレヴィに、冷たい水入りのコップを手渡した。
「先々代魔王様は、元々はロックゴーレムだったらしいよ。伝説では、魔王就任時に超進化して、ジェムゴーレムになったんだって」
「そんなことって、あるんですね」
レイは、ルーファスの話に、へぇ〜と相槌を打った。
「噂に聞いたことがあります。ありとあらゆる宝石でできたゴーレムがいた、と。ご主人様の中には、『討伐できれば大金持ちだ』と世界中を探し回った方がいらっしゃいます」
レヴィは、少し懐かしむように目を細めながら語った。
「先々代魔王様以外にも、ジェムゴーレムはいたのでしょうか?」
「さすがにいないんじゃないかな。いたとしても、魔王種レベルだと思うよ」
ルーファスは、パウンドケーキをもぐもぐと平らげて、答えた。
「魔王種レベル……そうだとしたら、その昔の剣聖様には、ジェムゴーレムの討伐は難しかったかもしれないね」
レイは、レヴィの方を向いた。
魔王種のランクはSSS+だ。いくら昔の剣聖が強かったとしても、人間が相手にできるような魔物ではなかったはずだ。
「ええ。そうでしょうね。でも、『ロマンを追いかけることは冒険者の醍醐味だ』と、そのご主人様はよく口にしてました」
「ふふっ。それはそれで冒険が楽しそうだね」
「ええ。そのご主人様は、冒険する時はいつも楽しそうでしたよ」
レイたちが和やかにおしゃべりしていると、ズシンッと地鳴りがした。
「休憩時間は終わりだね。噂をすれば、ロックゴーレムだ」
ルーファスが、鋭い視線を地鳴りの発信源に向けた。
二メートル近い大きさのロックゴーレムが一体、こちらに気づいてズシリ、ズシリと近づいて来ていた。
ロックゴーレムは、頭、胴体、腕、脚全てが硬い岩で覆われている。
各パーツは関節のような柔軟な接続部分で繋がれていて、頭のパーツの真ん中には、ビカビカと赤紫色に光る大きな玉が一つ付いている。
体の大半が岩でできている分、重量があって動きは鈍いようだ。
「ロックゴーレムは岩でできてるからね。かなり防御力が高い。ただ、体内に核があるから、そこを重点的に攻撃して破壊すれば倒せるよ。それから、手足の節は、他の部分に比べれば脆いから、機動力を削ぐのも手だね」
ルーファスが、ロックゴーレムの倒し方の解説を始めた。
「魔術は効きますか!?」
レイはロックゴーレムから視線を外さずに、確認した。
「全く効かないわけじゃないけど、効きづらいね」
ルーファスがあっさりと答えた。
「むぅ……実技試験では、是非とも会いたくない相手です……」
レイは難しい顔をした。むっと、眉根に皺が寄る。
「あとは、核から流れる魔力を遮断できれば、動きを止められるよ……だから、ロックゴーレムに魔力を流してごらん。レイの魔力量ならできるはずだよ」
「えっ?」
ルーファスの説明に、レイは目を丸くした。
(魔力を流す? そうすれば、核の魔力を遮断できるの??)
「僕とレヴィで足止めするから、やってごらん」
「……はいっ!」
「了解です」
レイは半信半疑だったが、とにかく素直に頷いた。ルーファスの言葉を信頼したのだ。
レヴィも淡々と返事をして、ロックゴーレムに詰め寄って、挑発を始めた。
(十一代目様!)
レイは慣れたように口寄せ魔術を使うと、自身に身体強化魔術をかけた。
ルーファスとレヴィが足止めしているロックゴーレムの方に向かう。
近づいている間に、目に魔力を込めて、ロックゴーレムを見る。
(あそこだ! 魔力が、あそこの塊から流れてる!)
レイはロックゴーレムの死角にスルリと滑り込むと、ロックゴーレムの核近くの岩肌に手を当てて、一気に魔力を流し込んだ。
「いっけぇ!!」
岩肌づてに、ロックゴーレムの核にピキッとヒビ割れが入る感触が伝わってきた。
ロックゴーレムは一瞬、ビクンッと大きく跳ねた。
そのまま糸が切れたマリオネットのように、プスンッと動かなくなってしまった。
「離れろ! 倒れるぞ!!」
ルーファスの掛け声に、レヴィとレイは反射的に安全な方へザッと後退った。
ドスンッというけたたましい音と、土煙を巻き上げて、ロックゴーレムはその場に倒れ込んだ。
「やったぁ!」
レイはぴょこんと跳ねて、歓声をあげた。
「ロックゴーレムは硬すぎて魔術は効きづらいんだけど、魔力は流せるんだ。大量の魔力を核に流し込むとオーバーヒートして、さっきみたいになるんだよ」
「へぇ〜、そうだったんですね。これならかなり倒しやすくなりますね!」
ルーファスの解説に、レイは感心して相槌を打った。
「ただ、核がオーバーヒートするほどの魔力を流せる人間は限られてくるからね。余程のピンチでもない限りは、人前では使わない方がいいよ」
「分かりました! ……そうなると、結局、地道作戦ですか……」
「そういうことになるね」
レイが残念そうに肩を落とすと、ルーファスは眉を下げて苦笑した。
「以前のご主人様たちも、ロックゴーレムは苦手でしたね。核を破壊してしまえば、魔石は採れなくなりますし、他に採れる素材も岩くらいです。大抵は、脚の関節を破壊して、機動力を削いでから逃げてました」
「そうだね。冒険者としては、労力と対価を考えると、そうなってしまうね」
レヴィのロックゴーレム話に、ルーファスも頷いた。
「とりあえず、今回の下見は完了ですね。ダンジョンの潜り方も、なんとなく分かりました!」
レイはルーファスの方を見上げた。
「良かった。じゃあ、そろそろ街に戻ろうか?」
「「は〜い!」」
ルーファスの提案に、レイとレヴィは元気よく返事をした。
はじめてのダンジョン攻略は無事に終わり、銀の不死鳥メンバーは、クリスタンロッキーの街へと戻って行った。




