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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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淡藤湖1

 翌日、レイたち銀の不死鳥メンバーは、アクアブリッジの冒険者ギルドに来ていた。

 今回はアイザックも一緒だ。


「僕はリーダーにこだわりがあるわけじゃないから、君に任せるよ」


 アイザックはあっさりと、ルーファスにリーダーの役割を押し付けていた。


「ええ。承知しました」


 ルーファスはどちらでも良かったらしく、苦笑しながら頷いていた。



 冒険者ギルドの扉を開けてアイザックが堂々と中に入ると、ギルドのホールが一瞬ざわりと揺れた。

 怯えるような視線が、レイたち銀の不死鳥メンバーに向けられていた。


(……前回の時と、全然視線が違う……)


 レイはアイザックのすぐ後ろを歩きながら、さりげなくギルド内を観察した。


「レイ、指名依頼はこっちで確認できるみたいだよ」


 アイザックはにこにこと笑いながら軽くレイの頭をひと撫ですると、彼女の肩に手を載せて自らの方に引き寄せた。

 ついでにチラチラと、ギルド内のあちこちに視線を飛ばす。


 一瞬にしてホールが静まりかえった。もう誰も銀の不死鳥メンバーを見てはいなかった。


「これでここでは面倒なことは起きないよ。さて、依頼、依頼!」


 アイザックは茶化すように軽口を叩いた。早く次へ行こうよと、レイたちを急かす。


(……すごい。視線だけでこの場を鎮めちゃった!)


 レイは改めてアイザックが高ランクの魔物なのだと実感した。

 アイザックが普段は大らかで自由奔放な性格のため、本来の彼が恐ろしいSSランクのサーペントだとはあまり感じていなかったのだ。



 銀の不死鳥メンバーがギルドの職員に通されたのは、応接室だった。

 レイたちが応接室内にある椅子に座って待っていると、アクアブリッジの冒険者ギルドのマスターが後から入ってきた。


 水色の短髪で、ガタイの良い男性だ。糸目で、真面目そうな面立ちだ。


「久しぶりだね、エスキル。レイ、彼は水蜘蛛の魔物なんだよ」

「まさか、アイザック様がいらっしゃるとは。ご無沙汰しております」

「堅苦しいのはいいから、先、進めてくれる?」


 アイザックとエスキルは顔見知りだったらしく、軽く再会の挨拶を交わしていた。

 ルーファスとレイとレヴィは、軽く会釈をした。


「銀の不死鳥には、ラングフォード魔術伯爵より指名依頼が二つ出ております。一つは、水藤草(みずふじくさ)絢壺草(あやつぼくさ)の採集。もう一つは、ラングフォード領内に入り込んだサラマンダーの殲滅ですね。どちらもギルドの方にご納品をお願いします」


 エスキルは、アイザックたちとは向かいの席に座ると、今回の指名依頼の説明を始めた。


「うん、分かった。サラマンダーは魔石だけでも大丈夫?」

「ええ。大好物だとお伺いしておりますので、魔石のみで結構です。牙や爪、鱗などもございましたら、追加で買い取らせていただきます。水藤草と絢壺草の方は、『数量は可能な限りたくさん』とのことで、歩合制になってます。こちらが数量と代金の対応表です」


 エスキルは、ぺらりと代金の一覧表の紙をアイザックに手渡した。


「ふ〜ん。分かった。そういえば、淡藤湖(あわふじこ)の主は息災? 古い友人なんだ」

「ええ。イェルド様はお元気ですよ。最近は新しい奥様を迎えられて、淡藤湖に篭られてますね。アクアブリッジの方にはあまり顔を出されてませんよ」

「そっか。じゃあ、何か手土産でも持って行こうかな」

「ええ、喜ばれるかと思います」


 アイザックの意見に、エスキルも大きく相槌を打った。


「孔雀湖の方は、確か古くからいる精霊女王だったよね?」

「そうですね。苔の精霊女王ロニヤ様です」

「僕、まだ会ったことないんだ」

「非常にしっかりされた方で、礼儀に少々厳しい方です。絢壺草を採集するにしても、先にご挨拶を済ませられてからの方が良いかと思います」

「こっちも何か手土産かなぁ〜」


 アイザックが、手土産を何にしようかと腕を組んで考え込んでいると、


「彼女なら、もしかしたら簡単に許可が下りるかもしれませんよ」


 エスキルは、レイの方に視線を向けた。


「へっ!? 私、ですか?」


 レイはびっくりして、自分自身を指差した。


「へぇ……どうしてだい?」


 アイザックが、ひたりと重たい魔力圧を応接室内に放った。目を細めてじとりとエスキルを見据える。


「ロニヤ様は水が大好物なんです! 良質な水を提供できるようでしたら、きっと喜んで協力していただけますよ!」


 エスキルが慌てて理由を説明した。顔色は真っ青になっていて、額には脂汗が滲んでいる。


「……それならいいかな。レイ自身を欲しがったら、苔の精霊女王が代替りするかもしれないけど」


 アイザックは一応納得したようで、ムスッと不機嫌そうにしつつも、魔力圧を抑えた。


「ロニヤ様は聡明なお方です。そのような心配はないかと……!」


 エスキルは額の汗をタオルで拭きつつ、慌てて苔の精霊女王をフォローした。


「そういえば、ラングフォードにサラマンダーはどのくらい入ってきてるの?」


 アイザックは気を取り直して、大好物についての質問を始めた。気になっていたようで、少しだけそわそわしている。


「魔物の移動が今までに何回かありまして、目撃情報もまちまちなのですが……だいたい五、六十は領内に入り込んでいるかと思われます」

「結構いるね。レスタリアの営巣地でも、北部の魔物に襲撃されたのかな?」

「それもありますが、レスタリアの冒険者ギルドでサラマンダーの討伐依頼が出てましたよ。営巣地があった所に鉱山を開こうとしているみたいですね」

「わぁ……人間は恐れ知らずだね。サラマンダーの営巣地って、グリムフォレストの妖精たちのテリトリーの近くだよ? あそこの子たちは排他的で凶暴なのに」


 アイザックが、あからさまに「うわぁ……」と引いた表情をした。


「ええ。本当にその通りだと思います。今まで相互不可侵で平和でしたのに。人間は相変わらず欲深いですね」


 エスキルもうんうんと、深く相槌を打った。



***



「さて。淡藤湖に行く前に、スイレンで手土産を買っておこうか?」


 冒険者ギルドから出ると、アイザックはぐっと伸びをした。


「アイザックは、淡藤湖の主さんとは知り合いなんですよね? お土産は何がいいんでしょうか?」

「イェルドはお酒だね! ラングフォードは水がいいから、お酒はどれもおいしいんだよ!」


 レイがアイザックの方を見上げると、彼はにっこり笑ってレイの頭を撫でた。


「ラングフォードは水竜の魔力が濃いし、先代の水竜王様が酒好きだったからね。お酒の名産地なんだよ」

「そうなんですね」


 ルーファスの追加説明に、レイはふむふむと相槌を打った。



 レイたちは総合百貨店スイレンで、北の淡藤湖の主用にお酒を何種類か買い入れ、東の孔雀湖の主用にも念のため定番の菓子折りを買った。「良質な水」が交渉材料になるとは言われていたが、さすがに手ぶらで行くのは気が引けたのだ。


「さて、手土産の準備もできたし、イェルドの奥さんの顔でも拝みに行こうか!」


 アイザックがにやりと笑って言った。


 ルーファスは苦笑し、レヴィは「あれ?」ときょとんとしていた。


「あれ? なんか目的が変わってませんか……?」


 レイだけが小首を傾げて、ツッコミを入れていた。





本日、新作短編を投稿しております。


『悪役令嬢♂でございます。』

https://ncode.syosetu.com/n9412jj/


『鈴蘭の魔女の代替り』シリーズとは関係はありませんが、

是非、こちらもよろしくお願いします!


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