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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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地雷蜘蛛2

 数日後、レイとレヴィ、テオはライデッカーの転移魔術で地雷蜘蛛の巣の近くに移動した。


 地雷蜘蛛の巣は王都からかなり離れた山の奥にあり、転移でもないと近づけないらしい。


 山は、鬱蒼とした木々が生い茂り、獣道ぐらいしかまともな道が無い。辺りに漂う魔力は濃く、ランクがやや高めな魔物や魔獣がうようよ生息していそうな雰囲気を醸し出していた。——人がほとんど分け入っていない証拠だ。



 レイは今日は動きやすい格好だ。

 腰元にはショートソードを、足元にはアイザックのブーツをはき、森織りのローブを羽織っている。黒いストレートの髪は、いつものようにポニーテールにしてリボンで留めている。


 レヴィは冒険者の剣士らしく、ウィルフレッドからもらったドワーフ製の剣を佩き、軽い革鎧を身に着けている。


 ライデッカーとテオは、軍服に近い真っ黒な魔術師の制服とケープを着ている。どうやら黒の塔の制服らしい。

 テオの方は相変わらず認識阻害付きのフードを目深に被っているので、顔や表情はよく分からない。



「ここからしばらく歩いたところに地雷蜘蛛の巣がある。奴らは急に地面から飛び出して来るからな。足元に違和感があったら、すぐに別の場所に移動してくれ。あと、静電気レベルだが、雷撃も撃ってくる。多少痛いし、びっくりもする。そうやって隙ができた獲物を狙うんだ」


 ライデッカーが地雷蜘蛛の特性を説明してくれた。


「分かりました」


 レイはこくりと頷いた。

 魔物の特性は大事な情報だ。それこそ命を左右するほどに。


 静かに息を潜めてライデッカーの後について行くと、地面に大きな洞穴が掘られていた。


「ここが地雷蜘蛛の巣だ。あの穴の先から、地下に蜘蛛の巣が掘られてる。……レイちゃんは、地雷蜘蛛を凍らせられそうかい?」


 ライデッカーが、レイの方を向いて様子を窺った。


「はいっ! やってみますね!」


 レイは地面に手を置くと、探索魔術を放った。物理と魔力の探索、両方だ。


(ニールが言うには、地雷蜘蛛もスルジ草も、そこそこ魔力を持ってる。ただ、地雷蜘蛛は子蜘蛛でもかなり大きいみたいだから……)


「アイスエイジ」


 レイはある程度魔力があるもので、大きい生き物を対象に、最大出力で氷魔術を放った。

 ふと見上げると、地雷蜘蛛の巣穴から、ひんやりと白い冷気が漏れ出ていた。


「……動いてる奴は居なさそうだな。それじゃあ、ちょっと行ってきます」


 ライデッカーが巣穴の前に手をつき、探索魔術を放って確認をした。


 ライデッカーが「くそ寒ぃ!」と言いながら巣穴に入って行くと、レヴィもその後を追った。


「私たちはここで他の地雷蜘蛛が巣に入って行かないように見張りだな」

「はいっ!」


 テオの言葉に、レイも力強く頷いた。



***



「な〜ん」


 レイたちが地雷蜘蛛の巣穴の前で見張りをしていると、子猫サイズの琥珀が、レイの影から飛び出した。影からすっぽり出ると、前脚を突き出して、気持ち良さそうにぐぐっと伸びをした。


「!? それは……?」


 テオが琥珀を見て、強張った声を出した。


「私の使い魔の琥珀です。きちんと契約をしているので、人は襲わないですよ」


 レイが琥珀の頭を撫でると、琥珀はアンバー色の瞳を眇めて、ゴロゴロと甘えるように鳴いた。


「……その柄は、キラーベンガルの幼生体か?」


 テオは警戒しつつも、琥珀に興味があるようだ。


 琥珀は、オレンジブラウンのツヤツヤな毛並みに、艶黒のロゼッタ模様が散っていて、彪のような非常に野生味のある模様だ。


「もう大人ですよ。今は縮小化魔術で小さくなってます。テオ様がよろしければ、元のサイズに戻してもいいですか? その方が、琥珀にも守ってもらえますので」

「……ああ、構わない」


 テオはぎこちなく頷いた。


「グルル……」


 琥珀がポンッと元のライオンサイズに戻ると、テオは一瞬びくりと後退ったが、まじまじと観察するように琥珀を見つめた。


「……こんな間近にキラーベンガルを見たのは初めてだ。南の地では『ジャングルの死神』との異名があるぐらいの魔獣だからな。滅多に見れるものではない。塔で自慢できるよ」


 テオの澄んだ声が少し弾んでいる。

 黒の塔の魔術師らしく、探究心から恐ろしさよりも好奇心が勝っているようだ。


「そうなんですか? ……ふふっ。琥珀は自慢の猫ちゃんですよ」

「グルル」


 レイが琥珀の大きな頭を撫でると、琥珀も嬉しそうにぐりぐりと額を擦りつけた。


「猫なのか、そいつは……」


 テオの呆れ返った声が漏れた。


「そういえば、テオ様はどんな魔術を使われるんですか? もし魔物が現れた時に、連携が取れた方がいいですよね?」


 見張りは琥珀に任せて、レイは大事なことをテオに確認した。


「一番得意なのは火魔術だ。あとは身体強化だな。レイ嬢は先ほど氷魔術を使っていたな。結界魔術が使えるとはライデッカーから聞いている。他には何か使えるか?」

「水も風も地も使えます。身体強化と治癒もできます」

「……万能だな。羨ましいぐらいだ……そういえば、杖は使わないのか?」

「はい。私は杖ではなくて、剣を使ってます。後衛でも自分で自分の身は守れた方がいいと聞いたので、レヴィに剣術を習ってるんです」

「……そうか、レヴィ殿に。彼の剣はかなりの腕前だと聞く」

「あれ? そういえば、テオ様は武器は……?」


 レイが特に何も武器を持っていないテオを見て首を捻っていると、「グルル……」と琥珀の低く警戒するような声が響いた。


 ざわざわと、こちらの様子を窺うような気配が、森の中のあちこちからしていた。


(囲まれてる……!?)


 レイが瞬時に探索魔術を放つと、十体近い蜘蛛のような大型の魔物の気配が引っかかった。


「テオ様、囲まれてます」

「おそらく地雷蜘蛛だな。外に出ていたのが巣穴に戻って来たか、異変に気づいて、他の群れの地雷蜘蛛が様子を見に来たのか……」


 レイが声のトーンを落としてテオに伝えると、彼も周囲の異変を感じ取っていたようだ。

 早くも臨戦態勢に入っている。


「数は十二です。先に氷魔術で凍らせて、動きを鈍らせます」

「こういう時に他の魔術が使えると便利だな。……頼む!」


 レイとテオは目配せし合い、小さく頷いた。


「アイスエイジ!」


 レイが氷魔術を放つと、飛びかかってきた二メートル近い巨大な蜘蛛が、目の前で凍った。

 その巨大蜘蛛の頭を、テオが両手を組んだだけの素手で、ガンッと上から下に激しく叩きつけた。


 巨大蜘蛛の頭が簡単にボトリと落ち、身体だけ残った蜘蛛を踏み台に、テオがさらに高く飛んだ。

 そこに半分身体が凍った別の巨大蜘蛛が激突する。


 テオは二頭目の蜘蛛の上にひらりと着地すると、片手でその頭を簡単に捻じ切った。

 彼の手は、深紅の鱗と鋭い爪に覆われていた。


(えぇーーーっ!!? 火竜の手!!? それに……!!)


 レイは衝撃の連続で、ただただテオに魅入っていた。


 テオのケープのフードはふぁさりと脱げ、深紅の髪と瞳を持つ繊細な美貌が(あらわ)になっていた。




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