閑話 女子会〜捕縛員選定会〜
「さてと。これで女子だけになったし、正直に話しちゃいましょうか」
男性陣を会議室から追い出し、扉を後ろ手に閉めると、ミランダがにっこりと微笑んだ。
「まずは、どの範囲の人まで協力してもらうかですよね」
レイは、早速シェリーが用意してくれたクッキーに手を伸ばした。
今日はプレーンとココアの二種類だ。もちろん、両方ともゲットする。
「当たり前だけど、管理者は拒否権なしよね」
「そうですね」
ミランダとレイが頷く。
「管理者だけだと少ないと思うので、ユグドラ在住の方や、ユグドラ外でもこちらの事情を知っている方も対象にしましょうか?」
レイが紅茶でクッキーを流し込むと、意見を述べた。
「そうね」
ミランダも、シェリーが淹れてくれた紅茶を口にする。
「まず管理者からだけど……」
「アイザックには是非お願いしましょう」
ミランダの言葉に、レイがシュバッと挙手して意見した。
魔物のアイザックは、人型の時はクールな美貌をしている。サファイアブルー色の瞳は、見惚れてしまいそうになるほど美しい。
サーペント型の時も見た目が良いらしく、特に爬虫類系の魔物女子に人気だ。
「そうね」
「もちろんよ」
ミランダもシェリーも賛成する。
彼の見た目なら誰からも文句は出ないだろう。
「師匠はどうします?」
次にレイは、師匠のウィルフレッドについて確認した。
エルフのウィルフレッドは、カールの入った金髪に、人好きのするヘーゼルの瞳をしていて、正統派に整った顔立ちだ。
エルフにしてはがっしりと筋肉質な体型で、スタイルが悪いわけでも無い……ただ——
「そうね。頼んでもいいけど、普段の服装が……」
「そうよね、見た目はいいんだけど、本当に……」
ミランダとシェリーも表情を翳らせて、口ごもった。
「「「残念なイケメン!」」」
女子三人の声が重なって、会議室内に響いた。
「シェリー、お仕事の日だけ師匠をコーディネートしてもらえませんか? それならたぶん、大丈夫です」
レイがシェリーの方を振り向いた。その瞳は、「あのエルフをどうにかしてくれ」との期待が籠っていた。
「そうね。コーディネート不可なら、裏方に回ってもらいましょう」
シェリーがしっかりと頷く。
「義父さんはどうでしょう? イケオジだと思います」
レイは次に自身の義父について尋ねた。
先代魔王フェリクスの人型は、襟足までの緩くウェーブのかかった柔らかい白銀色の髪に、魔王種以上が持つ色の濃い黄金眼をしていて、神秘的だ。聖職者らしい落ち着きと、優しげな微笑みを湛えていて、包容力がありそうな四十代ぐらいの素敵なおじ様だ。
フェニックス型の時は、絶世の美貌らしく、ミランダやシェリーにとって推しのような存在らしい。
「フェリクス様はかっこいいけど、見た目の年齢が、恋の精霊の好みからは外れてるんじゃないかしら?」
シェリーが頬に手を当て、おっとりと首を傾げる。
「確かにそうね。でも、人型なら魔術で変えられるから、若いバージョンならいけるかもしれないわね!」
ミランダが思いついたかのように、両手をパンッと軽く合わせた。
「「「…………」」」
三人は互いに顔を見合わせあった。
「若い義父さん!!!」
「「若いフェリクス様!!!」」
「「「絶対に、見たい!!!」」」
きゃあ、と女子三人の声が重なった。
「レイ、こういう時こそおねだりよ!」
「了解です!!」
ミランダにビシッと指差され、レイも了承の意味で敬礼する。
「レイのお願いだったら、フェリクス様もきっと喜んで聞いていただけるわ!」
シェリーも期待に瞳をキラキラと輝かせて、願うように胸のあたりで手を組んだ。
「義父さんがいけるなら、ルーファスはどうでしょうか?」
「ルーファス?」
ミランダがクッキーをサクリと齧りながら、小首を傾げた。
「お世話になってる光竜です。一緒に冒険者をやってるんです」
「私は何度か見たことがあるわ。確かにイケメンね。優しげな、正統派のイケメン王子様って感じよね」
「そうです!」
ルーファスは、何度かユグドラを訪れていた。
シェリーはその時に、彼の来客対応をしていたので、覚えていたのだ。
「それなら、そのルーファスさんにもお願いしてみましょう」
シェリーが好感触そうなのを見て、ミランダも軽く頷いた。
「かっこいいといえば、ニールもそうですよね」
「黒竜様!?」
「協力していただけるの!?」
ミランダとシェリーが、同時にテーブルに身を乗り出して声をあげた。
影竜王ニールは絶世の美貌だが、どこか近寄り難い雰囲気があり、竜の第二席とかなり高ランクなこともあるため、お願いもしづらい。
「今、ニールのキャラバンの護衛任務をしてるんですが、少し手伝ってもらえないか訊いてみますね。たぶん大丈夫だとは思います……」
「可能なら、是非お願いしたいわね」
レイの言葉に、シェリーも相槌を打つ。
「ミステリアスで、色気があって、どこか俺様的な雰囲気があるのもたまらないわね」
ミランダは、頬に手を添え、うっとりとニールの良いところをあげていった。
「商会長としての経済力や丁寧な物腰も、大人の魅力って感じで素敵よね」
シェリーも、瞳をキラキラと輝かせて弾むように言った。
「ニールは優しいですし、いろんな所に気が利くので、スパダリ枠ですね」
レイも力強く頷いた。
「あといないのは……癒し系かしら?」
シェリーが尋ねた。
クッキーが終わってしまったので、追加分を空間収納から取り出す。
「エルネスト、いいんじゃない?」
ミランダが早速、追加のクッキーに手を伸ばしつつ、意見を述べた。
「中性的で、かっこいいというよりは、キレイ系よね」
「ただ……」
「「「口を開かなければね!」」」
女子三人の声がまたピシリと揃う。
「あのスパルタな所は全くもって癒し成分が無いわ」
ミランダがバッサリと言い切った。
うんうんと他の二人も同意して頷く。
「エルネスト様の場合は、一日中口を開かない、って条件付きね」
「そうですね」
シェリーの意見に、レイも相槌を打つ。
「……そういえば、治癒院はお休みにしちゃまずいですよね?」
レイは大事なことに気づいてしまった。
「じゃあ、エルネストは抜きね」
ミランダは、早々にエルネスト案を没にした。
他の二人も、これは仕方がないと頷いた。
「はっ! メガネ……インテリメガネ枠が誰もいないです!! どうしましょう!?」
レイが紅茶を飲み終わると、目をカッ開いて慌てだした。一息ついて、思いついたようだ。
「困ったわね。もし恋の精霊がメガネ萌えだった場合に、効果が薄れるわ……」
シェリーが眉を下げた。サクリとクッキーを摘む。
「ダリルを参加させましょう」
「でも、ダリルはお忙しいのでは?」
「あいつだけ、三大魔女の中でまだ流行性の恋の仕事をしたことがないのよ」
ミランダが、ぷっくりと艶やかな唇を少し尖らせた。
「……それは由々しき問題ですね」
一瞬で、レイの目が据わった。
「ミランダ? レイ? それって、私怨入ってない?」
シェリーは、おろおろと二人を交互に見つめた。
「入ってないと言えば嘘になりますが、是非、ダリルも参加させましょう! 元々学者っぽい雰囲気なんで、伊達メガネを掛けさせれば、即席インテリメガネ枠の完成です!」
レイが力強く拳を握る。
「入ってることは認めるのね……」
シェリーが、やんわりとツッコミを入れた。
「イケメンにメガネが掛かってれば、とりあえずOKです。大事なのは、顔面力とメガネのハーモニーです」
「まぁ、そうよね。大事なのは参加することだし」
レイの謎のメガネ理論に、ミランダも乗っかった。
ただし、ミランダは、ダリルを流行性の恋の仕事に巻き込めればとにかくOKなようだ。
「クールな図書館司書、残念なイケメン、義父さん、正統派王子様、スパダリ、インテリメガネ……あ、そういえばとっておきが……」
レイはメンバーを指折り数えいくうちに、もう一人、大事な存在を思い出した。
「えっ? まだ誰かいたかしら?」
ミランダが紫色の瞳をぱちくりと瞬かせる。
「レヴィです。ハーフエルフの十二代目様に変身してもらえば……」
レイはいい案だ! とポンッと両手を叩いた。ついでに、十二代目剣聖の姿に変身する。
十二代目剣聖は、儚げな絶世の美貌を持っているハーフエルフだ。スラリとした長身に、厚すぎず細すぎないバランスの良い体格だ。
サラサラの淡い金髪をしていて、アクアマリンのような水色の瞳は、長いまつ毛に縁取られている。真顔の時は彫像のような硬質な美貌だが、ふとした瞬間の微笑みの艶やかさは、まるで芸術品のようだ。
「それもう、反則よ!」
ミランダがシュバッと力強く指差して叫んだ。
「恋の精霊どころか、街中の女の子たちが恋に落ちちゃうわ!」
シェリーも自分の両頬を手で押さえて叫び声をあげた。
頬をポッポと上気させて、くらりときている。
「それじゃあ、十代目様ですね。爽やかな剣聖です」
レイは次に十代目剣聖に変身した。
十代目剣聖はよく日に焼けた色黒で、くすんだプラチナ色の長髪と、エメラルドグリーンの瞳をしていて、どこかエキゾチックだ。
がっしりとした体格ではあるが、顔立ちは整っていて、爽やかな系統だ。
「それならいいわ」
「爽やかスポーツマンタイプね」
ミランダもシェリーも、ほっと胸を撫で下ろして相槌を打つ。
「でも、最終兵器として十二代目剣聖様はとっておきましょうか」
ミランダは、ウィンクをした。
「分かりました! レヴィにも伝えておきますね!」
レイもにっこり微笑んで頷いた。
***
ミランダたちは、ユグドラの樹、中層階にある団欒室に向かった。
団欒室の中に入ると、ローテーブルを挟むように、フェリクス、ウィルフレッド、エルネスト、アイザックがソファにぐったりと座っていた。
「決議内容を伝えるわ。中には予定を確認しなければいけない方々もいるけれど、とりあえず案として伝えるわ……って、どうしたの、みんな??」
ミランダは、団欒室に流れている微妙な空気に気づいて、小首を傾げた。
「「「「……何でもないよ……」」」」
男性陣は、ただただ苦笑いを浮かべていた。




