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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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ドラゴニアへ

「そう。それから本題だけど、レイはそろそろドラゴニアに戻るのかな?」


 レイの表情が落ち着いたのを確認すると、ニールが話を切り出した。


「そうですね。剣聖候補の督促の手紙が来ちゃいましたし、クリフの助手のお仕事もひと段落しましたし」

「それなら、レイに冒険者として、指名依頼しようかな」


 ニールは、色鮮やかな黄金眼をキラリと光らせて、レイの様子を窺うように見つめた。


「指名依頼? 何でしょう?」

「うちのキャラバンの護衛だよ。ドラゴニアの王都まで一緒に帰ろうか?」

「私は大丈夫ですけど……ルーファスとレヴィにも相談しなきゃ」

「ルーファス殿には既に伝えてある。レイたちの都合に合わせると言ってたな」

「分かりました。頑張って護衛しますね!」

「はははっ。楽しみにしてるよ」


 ニールは目尻に皺を寄せ、朗らかに笑っていた。



***



 休日明けの剣術指南の日、訓練前にレヴィとアルメダが指南役を辞めることを告げると、兵士たちはかなりの衝撃を受けていた。


「レヴィ師匠、本当に行っちゃうんですか!?」

「アルメダ教官がいなくなるだなんて! 俺は何を楽しみに訓練をすればいいんだ!!」


 特に元の野郎だらけのむさ苦しい訓練に戻ってしまうことを嫌がった兵士たちは、アルメダも辞めてしまうことをかなり嘆いていた。



「アルメダ、話は聞いた。……その、本当のことなのか?」


 サディクが、珍しく執務着姿のまま、兵士の訓練場に現れた。

 ショックを受けているようで、気も(そぞ)ろに、どこか足元がおぼつかない感じだ。


 兵士たちは今までの項垂れた様子から、一気に背筋をしゃんとして、王族への礼の姿勢をとった。


「はい。短い間でしたが、大変お世話になりました」


 アルメダもきちりと、王族への礼の姿勢をとる。


「訓練の後、用事はあるか? 無ければ、また護衛をお願いしたい」

「はい。大丈夫です」

「そうか。訓練後にまた使いを寄越す」

「承知しました」


 アルメダが頷いたのを確認すると、「執務に戻る」と、サディクは訓練場をフラフラと後にした。



***



 訓練後、レイ、ことアルメダは、迎えに来てくれた王宮の侍女について行き、支度をしてもらった。


 アルメダは、またお風呂やマッサージ、ヘアメイクをしてもらった後、押し付けるように返却した前回の護衛任務で着ていた服装一式に着替えさせられた。

 エメラルド色の大胆な柄が入ったワンピース姿だ。上に羽織るためのベージュ色のマントは腕に掛けて持っている。


 サディクは、前回と同じ服装の上に、以前クリフから借りて着ていた認識阻害魔術付きのケープを羽織っていた。

 髪型などは、執務の時とほぼ同じようで、今回の街へのお忍びは、急遽決まったことのようだ。


「急に悪いね。でも、とてもよく似合っていて綺麗だよ。じゃあ、行こうか」


 サディクは、どこか少しそわそわしているようだったが、アルメダは「かしこまりました、殿下」と頷いて彼について行く。


 サディクは、「お忍びの時は、『サディク』で」とはにかむような笑顔で注意した。



 着いた場所は、以前にもお忍びで来たオアシス・ガザルのほとりのベンチだ。

 他のベンチにも街の人々が座って休んだり、そこで仲間たちと語らったりして、和やかな雰囲気が漂っている。


 オアシス・ガザルは本日も美しく、透明度の高い水は、ローズ色の水底まで見渡せた。

 水音はちゃぷりと優しく、聞いてるだけでも癒されるようで、静かな時が流れていた。


「アルメダ、この国に残る気はないか?」


 サディクは隣に座るアルメダの手を取り、彼女のエメラルド色の瞳をじっと見つめた。


「えっ……」


 アルメダは、急にサディクに覗き込まれ、たじろいだ。

 彼の藍色の瞳には、熱がこもっていた。


「君のことが好きだ。君と共に生きたい。そばにいてもらえないだろうか?」


 握り締められた手は少し熱いと思えるほどで、サディクの本気の思いが伝わってくるようだ。

 ふわりと甘い香木の香りが鼻をくすぐり、アルメダはくらりときた。


 アルメダ、ことレイは、一瞬、何を言われているか分からなかったが、一拍置いて「告白された」と気づいた瞬間、ボンッと首から上が真っ赤に茹で上がるかと思うほどに熱を帯びた。

 急に胸がドキドキと早く駆け、大きく脈打つ音が自分の耳にまで聞こえてくるようだ。


(うぅっ、申し訳ないけど……)


「もったいないお言葉をありがとうございます。私は、一介の冒険者です。王妃様になれるような器はございません。それにまだまだ旅を続けたいんです。ごめんなさい」


 アルメダはどうにか微笑んで答えた。


 サディクが優しくて、とても真面目で素敵な人だということはよく分かっている。だからといって、自分に恋心があるかといえば、そうではないのだ。


「……そうだな。君には自由がよく似合う」


 サディクは目線を伏せ、ほろ苦く笑った。


「君の旅の無事を祈る」


 サディクは、アルメダから手を放してベンチから立ち上がると、切なげに微笑んだ。



***



 オアシス・ガザルを渡る南の大橋近くの広場に、バレット商会の大きな荷馬車が四台と、商会の主人ニール・バレットが乗る装飾は少なめだが上等な馬車一台が、列をなしていた。

 バレット商会の正式な商隊兵も、キャラバンの近くで自分たちが乗る馬の世話をしていた。


 カタリーナ、ダズ、クリフ、アッバス、シャマラの鉄竜の鱗メンバーも、レイたちの見送りに南大橋の広場に来てくれていた。 



「もう行っちゃうんだね」


 シャマラがしんみりと呟いた。そのままレイとハグをする。


「そのうちまたサハリアに来ますね」

「もちろんだよ! その時は絶対、鉄竜の鱗の拠点(うち)に寄ってね」

「はいっ! もちろんです!」


 レイとシャマラは握手してブンブンと腕を上下に振った。

 二人とも、ほろりと涙目だ。


「レヴィとレイのおかげで、うちの兵士も随分マシになったぜ。あっちに戻っても、頑張れよ」


 ダズがレヴィの肩をバシバシと叩いた。


「レヴィのおかげで、俺も剣の腕が随分上達した。ありがとう。気をつけて行けよ」


 アッバスも、大きな手でガシッとレヴィと握手する。


「ダズもアッバスも、見送りをありがとうございます。それから、兵士のみなさんも、はじめに比べてとても上達しました。このまま倦まず弛まず訓練を積んでください、とお伝えください」


 レヴィが笑顔で答えた。


 ダズが「ああ、伝えよう」と力強く頷いた。


「そういえば、『呪い』は、以前のままみんなには伝えるんですか?」


 レイはどうしても知りたくて、最後にクリフにこっそりと確認した。

 民衆の間では、サハリア王国が砂漠化したのは、砂竜が呪いをかけたからだと言い伝えられているのだ。


「それが砂竜王の願いでもあるからな。だが、王族とその周囲にはきちんとした歴史を伝えていく予定だ。もう二度と絶やさないようにな」


 クリフが優しく微笑んだ。


「そうですね。きっと、その方が砂竜王様はいいですよね」


(それがきっと、砂竜王様の愛のカタチだし)


 レイは、切なく痛む胸元をキュッと押さえて、ほろ苦く笑った。



「こっちは準備ができた。そろそろ行くか?」


 ニールがレイたちに声をかけてきた。

 普段はパリッとしたスーツ姿だが、今日は旅がしやすいように、白シャツの袖を捲り、動きやすそうなパンツに上等なミドルブーツを合わせている。首からはアクアマリン色の魔石がついたペンダントを下げていた。

 艶やかな濡羽色のウルフヘアは、襟足が小さな三つ編みになっている。


「あんた。レイに怪我でもさせようものなら、あたしがぶん殴りに行ってやるからね」


 カタリーナが、黄色味の強い色鮮やかな黄金眼をギラリと光らせて、ニールを睨みあげた。

 竜の第一席と第二席は、相変わらず反りが合わないようだ。


「そういうことならご心配なく。商隊兵だけでなく、私もレイの護衛に当たりますから」


 ニールも睨み返すように、不敵にくすりと笑う。


「えっ? 私が護衛するんじゃないんですか?」


 レイはびっくりして、パッとニールの方を見上げた。



 ニールに促されて、レイたち銀の不死鳥メンバーも、彼と一緒の馬車に乗り込んだ。 


「行くぞ。出発だ!」


 ニールがキャラバンに向けて掛け声をかけた。

 ガラガラと荷馬車が動き出し、商隊兵の乗る馬もパカラパカラと歩き出す。


 バレット商会のキャラバンは、立派な石積みの南の大橋を渡って行く。


 本日も晴天。オアシス・ガザルはキラキラと日の光を反射して、眩しいほどだ。

 ちゃぷりと水が跳ね、柔らかい水の香りがふわりと漂う。


「ばいばーい! みんな、ありがとうー!!」


 レイが馬車の窓から身を乗り出して、大きく手を振った。


「気をつけて行けよー!」

「向こうに着いたら連絡ちょうだいねー!」


 互いに手を振り合って、レイたちは王都ガザルを後にした。




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