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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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雨の回廊2

「……ここは?」

「どっかの街だな。俺でも見覚えがない……そもそも、サハリアにこんなに緑があるはずが無い」


 レイとダズが足跡をたどって森の中をしばらく歩いて行くと、細く頼りなかった獣道のような小道は道幅が広がっていき、そのうち街が見えてきた。

 素朴なレンガ積みの家々の街並みが続き、街の向こう側には大きな宮殿のような建物も見える。


 雨はいつの間にか止んでいて、雲の隙間から、晴れ間がのぞいていた。



「すみません! ここは何ていう街なんですか?」


 レイは街に入るとすぐに、近くにいた住民に声をかけてみた。


「あんたらどこから来たんだ? 珍しい格好してるな。ここはサハリアの王都ベリアだ」

「ベリア!!?」


 ダズが素っ頓狂な声をあげる。


「そうだ、ベリアだ」


 急に声をあげたダズを、おじさんが訝しげに見つめる。


「そうなんですね! ありがとうございます!」


 レイはおじさんに笑顔でお礼を言うと、ダズの背中を押して歩くよう先を促した。



「ベリア……先のサハリア王国の王都の名前だ……」


 街の中心らしき広場に出ると、ダズは鳩が豆鉄砲を喰らったように呆然と周囲を見回した。


 砂岩や日干しレンガではなく、オレンジ色がかった素焼きレンガの家々。

 現サハリア王国ではほとんど見られなくなった、青々と茂る常緑樹や色とりどりの花々。

 街の中を走る川と、そこで水遊びをする子供たち。


 空気も砂漠とは違って乾燥していないようで、街の住民の服装も、ターバンやスカーフ、マントのような砂漠の砂や日差し対策のようなものは着ておらず、むしろ、レイが元々拠点にしていたドラゴニアの服装に近い。シンプルなチュニックやドレス、ローブなんかだ。


「ここが、サハリア? ……以前は、こんなにも違ったのか……」


 ダズはよろよろと歩き、現サハリア王国との違いに、かなりショックを受けているようだった。


 一方で、街ゆく人々の雰囲気は明るく、どこかお祝いムードで浮かれていた。


「ラヒム第一王子様が隣国のお姫様と婚約だってよ」

「めでたいな」

「これで帝国も手出ししづらくなるな」

「そうすると、優秀な第二王子様じゃなくて、第一王子様が王位を継ぐのか?」

「第二王子様は病弱なんだろう? 元々兄王子の補佐にって話だったんじゃなかったか?」

「だが、これで決まったようなもんだな」


(ラヒムさんには弟さんがいたんだ。それに、今はアイシャ皇女との婚約が成立した後なのかな?)


 レイはさりげなく街の住民たちの会話に耳を傾けては、情報収集をしていた。

 ショックでフラフラと揺れながら歩いている大男のダズの袖を掴んで引っ張って、どこか落ち着けそうな場所も一緒に探す。


「ダズ、大丈夫ですか? どこかで一旦、休みますか?」

「……うぅ。そうだな、少し休もうか」


 ダズは大きな手を額に当て、力無くレイの提案に頷いた。



(あれ? あっちの方、なんだか人だかりができてる??)


 レイは広場のベンチにダズを座らせると、ガヤガヤと騒がしく人だかりができている方に目を向けた。



「ラーさん。あんた、そんな目立つ格好でこんな所に来ちゃダメだよ。バレちまうよ」

「まぁ、とにかくおめでとさん! 婚約したんだってな!」

「また今度うちの店に寄っとくれ! お祝いだからね。サービスしとくよ!」


 街の住民たちは、騒ぎの中心にいる男性に、口々にお祝いの言葉をかけているようだ。


「??? ……ハハハ、ありがとう?」


 街の住民たちに囲まれた男性は、淡いグレー色の長い髪をきちりと結い、藍色の祭祀服に身を包んでいた。

 周囲の人々の勢いと祝いの言葉に戸惑いつつも、慣れた様子で、王太子らしい爽やかな笑顔で対応している。


 彼の後ろでは、白い祭祀用のローブをまとった藤色の髪に銀縁眼鏡の人物が、頭痛を堪えるようにこめかみを手で押さえていた。


「あれって、サディク殿下とクリフじゃないですか!?」

「なにぃっ!!?」


 レイが彼らをシュバッと指差して声をあげると、ダズもがばりと頭を上げて、目を剥いて彼らの方を振り向いた。



***



「とにかく、合流できて良かった。俺一人では殿下をお守りするにも、帰り道を探すにも限界があったからな」


 クリフがふぅっと安堵の息を吐いた。


 レイたちは四人分の宿を取り、今は宿の部屋に落ち着いている。

 サディクもダズもクリフも、クリフの空間収納内にあった平民の服装に着替えている。街中で祭祀服は目立つからだ。


 レイも普段の冒険者の服装に着替えていた。



「殿下、この者は私の助手でレイと申します。中級魔術師で、私の研究を手伝ってもらっております」


 クリフに改めて紹介してもらい、レイは王族への礼の姿勢をとった。


「そうか、分かった。ラクにしてくれていい」


 サディクは鷹揚に頷いた。

 レイも頭を上げる。


「それじゃあ、情報共有といくか」


 ダズは、サディクやクリフに会い、また、落ち着ける場所に来たためか、少し持ち直したようだ。


 宿の使い古した木製のテーブルを、ぐるりと四人で椅子に座って囲む。


「ここは、何者かの魔術空間の中だと思われます。おそらく、高位の妖精か精霊、魔物が作り出した特殊空間でしょう。そういう者たちは、こういった特殊魔術が得意です」


 クリフが銀縁眼鏡をクイッと指先で上げると、話し始めた。


「そういえば、儀式中、祭壇の上に水鏡が見えました。水鏡の中では雨が降っていて、誰か……男の人と女の人の話し声が聞こえました」

「今回のことに関係あるかもしれねぇな」


 レイが思い切って儀式中に見えたものを告げると、ダズが相槌を打った。


「つまり、我々はその水鏡の世界にいると……」


 サディクも難しい顔をして頷く。


「祭壇の上に水鏡があったのであれば、本日の儀式——『砂竜の祭祀』に関係あるな。レイ、今まで見てきた記憶の中で、砂竜に会いやすい場所はあるか?」


 クリフがレイの方を振り向く。


「う〜ん……この世界には『ワルダの庭園』はあるのでしょうか? 記憶の世界では、よくその庭園にあるガゼボが登場してました」


 レイが首を捻りつつ尋ねた。


「『ワルダの庭園』か……まだサハリアが砂漠化していないことを考えれば、ありそうだが……」


 クリフが腕を組んで、考え込む。


 ワルダの庭園は、現実の世界では、サハリアが砂漠化した時に生まれたオアシス・ガザルの水底に沈んでしまっている。


「街の住民に訊いたら、ここは『サハリアの王都ベリア』だと言っていた。また、広場では、『ラヒム殿下が隣国の皇女殿下と婚約した』と噂されてたな。おそらく、今は七百年ぐらい前の時代じゃないか?」


 ダズが語る。広場ではショックを受けてフラフラしていたのだが、しっかり情報収集だけはしていたようだ。


「それなら、まだ庭園がある可能性が高いな。そこで砂竜を待つか」


 クリフが呟く。


「隣国の皇女と婚約……それで、街全体がお祝いムードなのか。それにしても、私自身もやけに祝いの言葉をかけられたのだが……?」


 サディクは別のことが気になったようだ。ふむ、と相槌を打ちつつも、疑問を口にした。


「……その、申し上げにくいのですが、サディク殿下はラヒム殿下に瓜二つでして、街の住民が間違えたのでしょう」


 レイが少し言いづらそうに答えた。


「ラヒム初代国王陛下は先祖にあたるから、似ていると言われても不思議ではないが……」


 サディクは、チラリと弟のダズの方を向いた。

 ダズはサディクと同じ淡いグレー色の髪をしているが、サディクは藍色の、ダズは赤色の瞳だ。母親が違うためか、体格や面立ちはかなり違う。


「レイには、私の研究の一環で、サハリアの建国当初の手記に触れ、その当時の記憶を探ってもらっています。その際に、ラヒム陛下のご尊顔も拝見しております」

「お姿だけでなく、お声もそっくりです」


 クリフに説明され、レイも頷く。


「なるほど? そこまで似ているのか。間違われるわけだ」


 サディクは一応納得したようだ。



「とりあえず、ワルダの庭園に行きませんか? おそらく、そこにヒントがあるような気がするんです」


 レイは全員を見回して、提案した。


「今のところ、他に手がかりがないからな。まずはそうしてみよう」


 サディクが同意すると、他の二人もこくりと頷いた。




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