表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/428

フェリクス1

「そろそろ一回、レイも人間の街に行ってみるか」


 ウィルフレッドから提案があった。

 人間の街へ、はじめてのおつかいである。


 ウィルフレッドは、最近ずっとレイに付きっきりだった。溜まりに溜まったユグドラの仕事を、レイがおつかいに出ている間に済ます予定だ。


 レイが、一人でおつかいなんて大丈夫かなと考えていると、「フェリクスと一緒だから大丈夫」とウィルフレッドが言ってきた。


(……フェリクスさんって誰?)


 レイは見知らぬ人物名に、小首を傾げた。


「三日後に、レイのおつかいの面倒を見てくれるように頼んでおいたから」


 ウィルフレッドはにんまりと笑った。



***



 今日のレイは、街歩きしやすい白のブラウスと黒のパンツ姿だ。ブラウンの編み上げブーツを履き、森林のように深い緑色の膝丈のローブを羽織っている。このローブは、リリスの形見分けでもらった品だ。散策しやすいように、お手伝いエルフのシェリーに、サイドに一筋編み込みを入れたポニーテールにしてもらった。


 人間の街に行くので、他の人を怖がらせないために、琥珀はお留守番だ。



 レイがウィルフレッドに会うと、彼は悪い笑顔をしていた。人間の街へ行くのに、彼の友人のフェニックスに乗せてくれるらしい。


 レイは気づいている。ウィルフレッドは、エルフというイケメンの皮を被った中身おっさんである、と。子供に対しては、揶揄いたがりの構いたがりだ。


(こんな悪い笑顔をしてるんだから、絶対に何か裏があるはず……)


 何かしらレイを驚かせたいのだろう。ここ最近はずっと一緒にいるのだ、そのぐらいレイには分かる。ただ、命までは取られないだろうということで、レイは静観している状態だ。


(黙っていればイケメンなのに勿体無い……)


 レイは遠い目をした。


「レイ、今何か失礼なこと考えてなかったか?」


 ウィルフレッドの問いに、レイは何でもない風を装って首を横に振った。



 レイの予想は、良い方向に裏切られた。

 ユグドラの樹のバルコニースペースに、ウィルフレッドの友人——フェニックスが舞い降りた。


 レイが今まで見てきた鳥の中で、最も美しくて幻想的だった。


 幻覚のように黄色〜オレンジ〜ピンク〜赤色の炎が、オーロラのように揺蕩っては羽や尾羽に灯っている。この炎は、フェニックスに認められた者なら触っても熱くなく、火傷もしない。そうでない者は、一瞬で灰になってしまう。

 羽自体は白銀色だ。翼や尾羽の先にいくほど透明感を増し、炎と相俟って、この世の物でなさに拍車をかけている。

 白磁のように白い嘴も足も鋭い爪も、すらりと長い首も頭の羽飾りも、白孔雀のような長い尾羽も、全てが見事で、まるで天上の生き物のようだ。

 一点、炎を除いて唯一色を持っているのが、猛禽類のように強い瞳だ。とろりと上等な蜂蜜のように濃い艶のある黄金色をしていて、光の加減で、虹彩の中を無数の星がキラキラとスパークしている。


 レイが「すごい……」と目を瞠って見ていると、

「レイ、見つめすぎちゃダメだぞ! 魅入られたら大変だからな」と、ウィルフレッドに、目を手で塞がれてしまった。



「店はフェリクスが知ってるから、ついて行けば大丈夫だ。金は少し多めに入れたから、買い物が終われば、多少、屋台で買い食いできるぞ。荷物は、この空間魔術付きのリュックに入れて、持って帰って来い」


「ありがとうございます」


 レイは、ウィルフレッドから買い物リストと一緒に、財布とリュックを受けとった。


「フェリクスも、レイは子供だから、逸れないように街では手を繋いでやるんだぞ。あと人攫いにも気をつけろ」


 フェリクスは、ピュイッと一声鳴いて頷いた。


 ウィルフレッドは、フェリクスに取り付けた鞍に、レイが乗るのを手伝った。命綱がしっかり付いているのを確認し、レイにゴーグルを渡して、飛行中はそれを付けるようにと伝えた。


「楽しんで来いよ」

「はいっ!」


 ウィルフレッドが、レイの頭をガシッと撫でた。

 早くもシェリー作のポニーテールが崩れ始めた。



 フェリクスは、レイを乗せて音もなく離陸した。一瞬のふわりとした浮遊感の後、ギュンッと一気に上昇する。


「わあ〜!」


 絶景である。快晴の中、ユグドラの樹、街、森が下に見え、今まで見たことも無いほど遥か遠くまで見渡せる。遮るものは何も無い。


 フェリクスが羽ばたき、加速していく。


 レイは「ゴーグルがあって良かった」と思った。心地良いというよりは、早く冷たく圧を感じる風だ。

 レイはぎゅっと鞍の持ち手を握った。下の森や景色がものすごい速さで遠ざかっていくのが見えた。


 白の領域を軽々と飛び越え、レイはこの世界へ来て初めて人間の領域へ足を踏み入れた。



 目的の街には、思いの外、早く到着した。

 フェリクスは、街の外、人の気配の無い開けた場所に、音も無くふわりと舞い降りた。


 レイは命綱を外して、のそのそとフェリクスから降りた。

 レイが降りたのを確認すると、フェリクスは、パッと光って人型に変身した。


 そこには鞍に長い指を引っ掛けて肩にかけている、ナイスすぎるミドルなおじ様がいた。


 白銀色の長い前髪は、緩やかに外巻きになっていて、緩くウェーブのかかった髪は、襟足までに切り揃えられている。目尻にある柔らかい皺も、微笑んだ後のような薄いほうれい線も、優しそうな人柄が窺えるようで、却って魅力的に見え、聖職者のような落ち着いた笑みを湛えている。

 グレーのスーツが、更に品の良さを醸し出していた。


 あまりの変貌ぶりにレイはびっくりしたが、彼の目を見れば、先ほどのフェニックスと全く同じ、とろりと濃い黄金色の瞳だった。


「……フェリクスさんですか?」

「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はさっきのフェニックスで、フェリクスっていうんだ。よろしく」

「こちらこそご挨拶が遅れてごめんなさい。レイです。レイって呼んでください。今日はよろしくお願いします」


 ぺこりとレイがお辞儀をした。


「じゃあレイ、早速街に行こうか」


 鞍をパッと空間収納にしまうと、フェリクスがにこやかに手を差し伸べてきた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ