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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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大滝の守り人3

「やっぱりここにいたんだ。非常に強い魔力圧のぶつかりを感じたから、レイならきっと巻き込まれてるかと思って」

「うゔっ、ルーファスまで……」


 カタリーナを後から追いかけて来たルーファスの言葉に、レイはがくりと項垂れた。


「レイがトラブルに巻き込まれるのはいつものことです。大丈夫ですよ」

「ゔっ……」

「レヴィ、それは慰めになってないから……」


 そこへレヴィがフォローになっていないフォローを口にし、ルーファスがやんわりとツッコミを入れた。


「とにかく無事で良かったぜ」

「あの滝壺に落ちてよく無事だったな。怪我もなさそうで良かった」

「ダズとクリフが普通に心配してくれます!!」


 レイは当たり前のことに、目を潤ませて感動していた。



「それで、誰がレイの獲得者になったんだい? この大滝ではそういうルールなんだろ?」

「僕「いや、私だ!」」


 カタリーナの質問に、二匹のサーペントはぐぬぬ、と睨み合った。


「……これじゃあ、埒があかないね……こんな面倒くさい魔術が敷かれてなきゃ、二人を倒してレイを連れて行けるのに」


 カタリーナは残念そうに肩をすくめた。


「えっ!? 僕もなの!? せっかくレイにフェリクス様とアニータからの届け物を持って来てあげたのに!」

「そうなんですか!? ありがとうございます。カタリーナ、アイザックは対象外でお願いします」

「じゃあ、仕方ないね。……さて、あんたはどうする?」


 カタリーナは凄みを利かせてヘイデンを睨みつけた。ギラリと色鮮やかな黄金眼が光る。


 ヘイデンも、さすがに鉄竜王のカタリーナが相手では分が悪そうだ。だが、彼はこの森と大滝の守り人でもある。おいそれと引くわけにはいかない。


「それなら、ここは公平にジャッジしてもらおうか」

「どうするんだ?」


「グレート・フォールズの裏に、この魔術専用の祭壇がある。どちらが獲物の獲得者になったかハッキリしない時は、その祭壇に貢ぎ物を供えて祈ると、正義の精霊が審判を下してくれるんだ。これなら公平だろう?」


「……正義の精霊か……確かに、あの子たちなら嘘はつけないからね」


 カタリーナは腕を組んで、う〜んと唸ると、渋々了承した。


「正義の精霊……」


 レイはそんな生き物がいるのかと、不思議そうに呟いた。


「正義の精霊は法を基に、審判を下してくれるんだ。この場合の法は、大滝のルール……『誰が一番最初にレイに触れて獲得者になったか』だね」


 ルーファスが丁寧に説明してくれた。


「そんな裁判官みたいな精霊さんがいるんですね」


「とても珍しいよ。人間の世界にはいないんじゃないかな。権力者がお金や権力で法をねじ曲げたり、法の抜け目をかい潜って悪さをしたりするから、居付かないんだよね。彼らって、すごく潔癖だし」


「そうなんですね。すごくありそうです」


「でも、ルールがないと一気に優柔不断になるから、自然界でもあまり多くはないんだよね。自然界にいる子は、結構ぽやぽやしてるし」

「ぽやぽやの正義の精霊……」


(もし、ここにいる正義の精霊がぽやぽやなら、そんな子に判断してもらうのは不安だな……)


 レイが表情も暗く俯いていると、ヘイデンが眉を顰めつつ、話しかけてきた。


「グレート・フォールズの正義の精霊は、力が強くて立派だ。この土地が合うようだ」

「守り人の頭が固くて、ここのルールがきっちり、かっちり運用されてるからね。居心地がいいんでしょ」


 アイザックの軽口に、ヘイデンはますます眉間に皺を寄せた。


 また喧嘩が勃発しそうな雰囲気になったので、カタリーナが「早く案内しろ」とヘイデンを急かした。SSランクの魔物同士の喧嘩など、洒落にならないのだ。



***



 一行は、特殊な森の魔術で隠された道から、滝裏の祭壇に向かった。


 道は馬車一台がギリギリ通れるかどうかぐらいの道幅で、滝の裏側らしく、壁や地面をひんやりと綺麗な水が伝っていた。

 ゴツゴツと黒い岩壁には、苔や小さなシダ植物が所々生えていて、苔やシダの玉型の精霊が、チカチカと緑色の淡い光を放っていて、幻想的な秘密のトンネルのようだ。


 道を吹きるける風は、一段とひんやりとして清々しく、浄化されるような心持ちだ。



「ここだ」


 ヘイデンが苔むした大扉の前で立ち止まった。

 大扉には魔術式が掘り込まれているようだが、苔で覆われていて、よく見えない状態だ。


 彼が扉に手を当てて魔力を込めると、ズズズ……と音を立てて、ゆっくりと扉が開いていった。


「……ここはすごいな。こんなに魔力に溢れてすごい所、初めて来た」

「普通、人間はここに入れないからな。今回は特例だ」


 早速、ダズが感嘆の声を上げて、洞窟内を見渡した。


「さすがに、私もここには初めて来ました」


 レヴィも、目を丸くして洞窟内を眺め、しみじみと呟いた。


 大扉の内側はドーム状の空間になっていて、二十メートルはあろうかという高さの天井には、光を取り入れる魔術陣がびっしりと描かれ、淡く黄色に光っていた。魔術陣は遠くから見ると、聖堂内の天井画のようで、神々しささえあった。


 空間の中心地には、大きな祭壇が置かれ、天井から取り入れられた光がキラキラと降り注いでいた。


 ここは滝裏の道ほど湿気は無く、また、そこまで肌寒くもないため、過ごしやすそうだ。

 祭壇の周りには可憐な花々が咲き乱れ、色とりどりの玉型の精霊が、ふわふわと浮かび遊んでいるようだった。


「珍しいわね、あなたがここに人間を連れて来るなんて。減点かしら?」


 中央の祭壇から、ひょっこりと可愛らしい少女が顔を覗かせた。

 きっちりと編んだ長い金髪を、後頭部でぐるぐるとお団子型に巻き付けていて、白いローブのようなワンピースを着ている。

 こちらを興味深そうに見つめるぱっちりと大きな瞳は、色鮮やかな黄金眼だ。


 少女は早速レイに近づくと、物珍しそうにレイを見つめながら、その周りをくるくると回り出した。


(……正義の精霊の……女王様、かな?)


 レイは居心地悪く身じろぎしながらも、そう推察した。その色鮮やかな瞳から、かなり力の強い精霊だと思われた。


「マァト、この人間は狩りの獲物だ。他のは今回の審判の見届け人だ。ルールから外れているわけではない」

「ふ〜ん。まあ、いいわ。審判料はあるの?」

「大滝と森の魔力鉱石だ。欲しがってただろ」


 ヘイデンが青と緑が入り混じった綺麗な小石を、ポイッと精霊に投げた。


 精霊は「おっと!」と前のめりになりつつキャッチすると、手の中を覗き込んでにんまりと笑った。


「うふふふ。小粒だけど、質はかなり良いわね。いいわよ。あんたたち、出てきなさい!」


 正義の精霊女王マァトが、まるで舞台上の役者のように両腕を広げて呼びかけると、ぶわりと今まで岩陰や草陰に隠れていた無数の光の玉が飛び出してきた——玉型の正義の精霊たちだ。赤色か青色のどちらかの色に分かれていて、混じり気の無い、濃くハッキリした色合いだ。


「青い子は法を遵守する時の冷静さを、赤い子は法を執行する時の苛烈さを司ってるわ。ハッキリ、スッパリいきましょう」


 鮮やかな黄金眼をキラリと光らせて、マァトは宣言した。

 いつの間にか左手に銀色の秤を、右手に金色の剣を捧げ持っていて、秤にはそれぞれ赤と青の玉型の精霊が乗っており、シーソー遊びのようにギコギコと秤の皿を揺らしていた。ぼた餅のようなサイズで、他の玉型の子たちよりも、でっぷりと大きい。


 マァトは剣を天へ向けて突き上げた。


「さぁ、みんな! 正しいのは誰かしら!」


 マァトの一声で、幾百もの玉型の正義の精霊たちが、ブワッと一斉に動き出した。彼らは一ヶ所に向かって飛んで行った。


 互いに離れて立ち、神妙な面持ちで今か今かと願うようにその瞬間を待っているアイザックとヘイデンの脇をするりとすり抜け、レイの隣で主人に付き添って大人しくお座りしている琥珀の周りを、ぐるぐると取り囲むように回りながら飛んだ。


「「「「「「「えっ……」」」」」」」


その瞬間、誰もが固まった。予想外の相手だったからだ。


「今回の獲得者は、そこのキラーベンガルね!」

「何だと!? 本当なのか!?」


 ヘイデンがマァトに詰め寄った。


「本当よ。私たちは問われれば、過去のその瞬間の、まさにその場所の映像が見れるのよ。魔力を結構使うから、あまりやりたくないけどね」


 マァトはあっけらかんとそう言い放った。他の玉型の正義の精霊たちも、同意するように頷いている。


「使い魔だぞ! そんな奴が獲得者でいいのか!?」

「もうっ! 使い魔はいつも一緒にいるでしょ!? たまには僕に譲ってくれてもいいのに!」

『ダメ!! レイは琥珀の獲物! 琥珀が独り占めする!』


 アイザックとヘイデンが、レイに向かって詰め寄って行くと、琥珀がシャーッと耳と毛並みを逆立てて威嚇をした。大滝の魔術で、琥珀がレイの獲得者と認定されたため、SSランクの魔物に対しても強気だ。


(琥珀が守ってくれてる! うちの子が、カッコかわいい!!)


 レイは口元を両手で押さえて、感動で打ち震えていた。


『今日はいっぱいブラッシングしてね! マッサージもね!』

「もちろんです!」

『それから一緒に寝よう! 撫で撫でもいっぱいして!』

「はぁ……! 琥珀がかわいすぎる!!」


 きゅるるんとした瞳で見上げてきた琥珀を、レイは思わずぎゅっと抱きしめた。

 そして、メロメロと膝から崩れ落ちた——「うちの子」がかわいすぎた者の末路であった。



「獲得者になると、その証に光るのだが……光ったのか?」

「……そういえば、川岸にたどり着いた時に、一番最初に琥珀に触りました。琥珀、一瞬光ってたよね?」

『うん、ピカッてなった』


 その言葉を聞いて、二匹のサーペントはがっくりと肩を落として項垂れた。


「……自分で敷いた魔術に、こうもやられるとは……」


 ヘイデンはそのまま頭を抱え込んでいた。


「さぁ、審判は下ったわ! これはもう覆らないわよ! 帰った、帰った!」


 マァトはしっし、と追い払うように小さな手を振った。




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