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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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獣の祭り2

 細い小道をさらにたどって行くと、小さな村に出た——ガレッソ村だ。


「やっと、着いたな」

「へぇ〜、獣の祭りっていうだけあって、いろんな動物がいるね」


 小さな村の広場には、真ん中に大きな焚き火が焚かれ、その周りを、犬や猫だけでなく、馬や牛、鹿、うさぎ、イタチ、狐、熊、鷹や梟などさまざま動物が人々と一緒に取り巻いていた。

 人を恐れていないところを見ると、どうやら人間が動物に変身した姿のようだ。


 少しばかり出店もあるようで、ほかほかのスープと、シナモン香るホットワインの店が出ている。


「とりあえず、もうこの村で宿を取ろう。二人がこの状態で先に進むわけにはいかないだろう」

「ワフッ(そうだな)」


 村に着くなり、クリフが宿を探し始めた。

 ダズも尻尾をふりふり、彼の後をついて行く。


 レイは、ルーファスのコートのポケットの中で、うとうとしていた。

 ポカポカと暖かいうえに、ルーファスが子供をあやすように優しくポンポンと叩いてくれていたのだ。移動の揺れも、眠気を誘っていた。

 ぽわぽわの子猫の頭が、こくり、こくりと揺れる。


(……むぅ……あったかい……)


 レイはいつの間にか、意識を手放していた。



***



「……みゅ?」

「あ、起きた」


 レイが目を覚ましたのは、ガレッソ村の宿の一室だった。

 ぱちりと目を開いた先には、目尻を下げてこちらを見ているルーファスとカタリーナがいた。


「くぅ〜! 寝ててもかわいい、起きてもかわいい!」


 カタリーナが悶絶している。


「みゅ?(ここ、どこ?)」

「な〜ん(レイ、どこ〜?)」


 レイがキョロキョロと辺りと見回していると、琥珀がレイの影からひょっこりと出てきた。


 琥珀は、くぁっ、とあくびをして伸びをすると、いつもはいるはずの主人を探し始めた。


 琥珀の鮮やかなアンバー色の瞳が、ぽわぽわな黒毛玉を射抜く。


「なーん!(かわいい!)」

「みゅ!?(猫語が分かる!?)」


 琥珀はピンッと尻尾を立てて、レイの元に近寄ってきた。


「みゅ???(私、琥珀より小さい???)」

「にゃ(レイ、まだ子猫。小さい)」


 琥珀は、スンスンと子猫のレイの匂いを嗅ぎ始めた。


「な〜ん(まずは猫の挨拶)」

「みゅみゅっ!?(鼻チュー!?)」


 琥珀がその鼻先をちょこんとレイの鼻先にくっ付けると、レイはポンッと湯気をあげて飛び跳ねた。


「なー……(挨拶でこれじゃ、先、思いやられる)」


「……!!!」


 ルーファスは愛らしい猫のご挨拶に、言葉も無く悶絶していた。



「ふわふわだねぇ……」

「みゅっ」


 ルーファスは壊れ物に触れるかのように、優しくレイのぽわぽわな頭を撫でた。

 その頬は緩みっぱなしである。


 琥珀も隙あらばお世話しようと、注意深くレイを見つめてうろうろしている。


『ルーファス、触りすぎ。レイのお世話、使い魔の仕事。レイ、こっちおいで』

「みゅ?(何〜?)」


 レイが尻尾をピンッと立てて、テテテと琥珀に近寄っていくと、琥珀のオレンジブラウンの前脚でがっしりと抱え込まれた。

 琥珀はそのまま、ザリザリとレイのグルーミングを始めた。


 ゴロゴロゴロ……


(グルーミング、気持ちいい……喉、鳴っちゃう……)


 レイはなされるがままだ。


(ルーファスも琥珀もすごく嬉しそうだし、普段お世話になってるし……)


 NOとは言えない日本人である。


「バウッ!?(レイ、人間としてのプライドは無いのか!?)」


 同じ境遇に陥った同志として、ダズは信じられないものを見る目でレイを見つめた。



「ワフッ?(何だ?)」


 その時、ダズの上に怪しげな影が差した。


「一度、犬を飼ってみたかったんだよね」

「ヴゥゥ、ワンッ!(近寄るなぁ! 俺は人間なんだぁ!)」


 ダズは、カタリーナのペット扱いに激しく抵抗しているようだ。

 頭を撫でようとする彼女に警戒して、近づかないように吠えたてている。


「ほら、いい加減にしろ。ダズが嫌がってるだろう……」


 クリフが呆れた目で、カタリーナを見つめた。


「撫でるくらい、いいだろう? レイは撫でさせてくれるんだぞ」

「キャイン!」


 カタリーナが逃げ出そうとするダズの尻尾を掴んだ。

 そのまま力強く、その背中を撫でる。


「レイみたいにゴロゴロ言わないんだね」

「犬は言わないだろ」


 クリフは呆れて溜め息を吐いた。

 

「ギャイン!!」

「カタリーナ、力を込め過ぎだ。もっと力を抜いて優しく撫でてやれ」

「ああ、悪い。力加減って難しいね」

「ダズだからいいものを……」

「そうだね」

「ギャンッ!!(良くないだろっ!!)」


 ダズはあんまりなパーティーメンバーに、ツッコミを入れた。



「猫の扱いは、ユグドラで学びました……猫はこれが好きなのです」


 レヴィは徐に空間収納から猫じゃらしを取り出した——ドワーフ管理者モーガンの謹製品だ。


「みゅっ!?(あれは、数多の魔法猫を陥落させたという、モーガンが作った猫じゃらし!? 団欒室から持ってきちゃったの!?)」


 この猫じゃらしを振ると、シャカシャカという猫の興味を惹きつける音がし、猫心をくすぐるふわふわの鳥の羽が付いている。

 もちろん、魔法猫たちにも大好評だった。


 シュッ


「みゅっ!?(自然と目が追っちゃう!?)」


 シュッ


「みゅみゅっ!?(何だか、たぎってくる!?)」


 シュッ


 バッ!!


 レイが猫じゃらしに飛び付いた。


「おおっ!」

「猫じゃらしって人間にも効くんだねぇ」

「本当に猫のようだな……いや、今は猫か」

「クゥン……(レイは人間性を忘れたのか……?)」


 ダズは悲しげに鼻を鳴らした。



(うぅっ……猫じゃらし、恐るべし……)


 レイはひとしきり猫じゃらしで遊ぶと、ペタンと腹這いになって、ぜいぜいと小さく息を切らした。


「レヴィ、僕もやってみたい」

「いいですよ」

「みゅっ!?(ルーファス!?)」


 レイの小さな三角耳が反り立った。


「何で僕には怒るの!?」

「みゅっ!!(だって、恥ずかしいじゃない!!)」



 ルーファスがあらわれた。猫じゃらしを装備している。


 たたかう

 ぼうぎょ

▷やんのかコラ!

 にげる


 レイは背中を弓なりにして毛を逆立て、やんのかステップを踏んだ。コテン。レイはつまづいた。子猫にはまだ難しいようだ。


 ルーファスは様子を見ている。


 たたかう

 ぼうぎょ

▷やんのかゴラァ!

 にげる


 レイはまた背中を弓なりにして毛を逆立て、やんのかステップを踏んだ。ゴロン。レイは転がった。子猫にはまだ難しいようだ。


 ルーファスは笑顔で様子を見ている。


「みゅぅ……」


 レイはうるうると悲しげな瞳でルーファスを見上げた。


「あははっ! すごくかわいい!」

「みゅみゅぅ……(こんな筈じゃなかったのに……)」


 ルーファスに笑われて、黒毛玉はちんまりとしょぼくれた。


「クゥン……(レイは、心まで猫になってしまったのか……?)」


 ダズは、動物に変身してしまった同志を、哀愁漂う視線で見つめた。




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