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鈴蘭の魔女の代替り  作者: 拝詩ルルー


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リリスの部屋

 その日、久々にユグドラの精が現れた。

 緑色の小さな光は、こっちにおいで、と誘うようにレイを案内してふわふわと飛んでいる。レイがその光について行くと、とある部屋にたどり着いた。


 ミランダとダリルもユグドラの精に案内されていたようで、その部屋の前でばったりと三大魔女が全員集合した。


「おはよう」

「おはようございます」

「ああ、おはよう」


……挨拶の後、一瞬の沈黙があった。


「とりあえず、リリスの部屋に入る? みんなユグドラの精に呼ばれたみたいだし」


 ミランダに促されて、三人はリリスの部屋の中に入ることにした。



 リリスの部屋は雑然としていた。引き出しは開け放たれ、中身が飛び出している。机の上は書類や本が散らばり、秋の落ち葉のように乱雑に積み重なっている。クローゼットも開けっ放しで、ベッドの上も床の上にも物が散乱していた。


「わあ……」


 レイが目を大きく見開いて絶句した。あのかわいらしいリリスさんが……とでも誤解しているのだろう。


 リリスの部屋は元々綺麗に整えられていた。事を起こそうと決めていたのだ、それはそれは丁寧に整理整頓されていた……はずだった。


 あの召喚事件の後、証拠品を押収するため、ミランダとダリルがリリスの部屋を家探しした結果、リリスの部屋は荒れに荒れてしまったのである。


 あの時は召喚後の事実確認や現場検証、召喚されて来たレイへの対応などもあり、かなり慌てていて仕方がなかったとはいえ、改めて冷静に見ると酷い有様である。

 せめて元に戻しておけば良かったと、家探しした二人は心の中でリリスに謝った。



 三人を案内してくれたユグドラの精はまだ消えていない。まだ何か伝えたいことがあるようだ。


 三つの緑色の光は、それぞれ担当の三大魔女の目の前に躍り出ると、明滅し、また誘導するように動き始めた。


 レイの前の光は、クローゼットまでレイを連れてきた。小さい光を思いっきり動かして、しきりにリリスの服を指し示す。


「これは貰っていいの?」


 レイが小首を傾げてユグドラの精に尋ねると、それは円を描くようにくるりと飛び、イエスと伝えてきた。器用だ。


「リリスの形見分けかもね」


 ミランダがそう呟くと、またユグドラの精は円を描くように飛んだ。



 結局、ミランダは魔術薬用の素材や器具を、ダリルは魔術本を、レイはリリスの服と小筐を指定された。


「レイはリリスと同じぐらいの背格好だから、ちょうどいいかもね。細部はシェリーに調整してもらった方がいいかも。このローブは特殊効果が付いてるから大事にした方がいいわ。こっちのワンピースもよ」


 ミランダは、レイがもらった服やローブなどを一つ一つ魔術効果が付与されていないか確認してくれた。


「ありがとうございます。シェリーさんに相談してみますね」


 レイはこちらの世界に来たばかりで、服や小物類などまだいろいろな物が揃っていない。


(物に罪はない! ありがたく使わせて貰おう!)


 現実的なレイであった。


「こっちの小筐は何でしょう?」


 手のひらサイズの、寄木細工のような木製の小筐だ。レイは何度か開けようと捻ったり回してみたりしたのだが、開け口がどこにあるのかさえも分からない状態だ。


「ちょっと見せてみろ」


 ダリルが興味を持って覗き込んできた。


 ダリルは骨張った大きな手でくるくると小筐を回して眺めたが、溜め息をついて、レイに小筐を戻してきた。


「これは魔術の条件式が刻まれている。条件を満たさないと開けられない仕組みだ。何の条件かも分からないようになってるから、開けるにはかなり時間がかかるかもな。ユグドラの精に預けられたんだ、そのうち開けられるようになるかもしれん」

「そうなんですね」


 レイはちょっと残念に思ってじっと小筐を見たが、やっぱり開け方は分からない。仕方がないので今回は諦めて、しばらくはこのまま保管しておくことにした。



 三人がユグドラの精に指示された物を確保すると、次々とユグドラの住民たちが、ユグドラの精に導かれてリリスの部屋にやって来た。みんなそれぞれにユグドラの精に品物を指定され、しんみりした顔でそれを受け取っていく。どれもリリスとの思い出の品のようだ。



 いつの間にかウィルフレッドがレイの隣に来ていた。


「レイは何をもらったんだ?」

「服と小筐です」

「使えそうなやつで良かったな」

「師匠は何をもらったんですか?」

「ああ、貸してた物が返ってきたんだ」


 ウィルフレッドは一冊の本を軽く掲げた。



 リリスの部屋の中は、だんだんと人が少なくなってきていた。形見を受け取った者からぱらぱらとリリスの部屋を出て行っているのだ。


「……そろそろかな。レイ、管理者はユグドラの樹から個人専用の部屋を与えられるが、管理者が亡くなるとその部屋自体も無くなって、基本的には誰も入れなくなるんだ。今回はこんな感じで形見分けがあったが、そうでない事も多い。部屋の持ち主が亡くなったと同時に、部屋の入り口さえ消えてしまうことも多い」

「そうなんですね……」


 レイは、リリスの部屋へは今まで全く入ったことは無かったが、もう二度と入れないと思うと何だかしんみりしてきた。


「ただ、必要な時はまた部屋が開かれる事もある。結局、全てユグドラの樹次第だけどな」


 そろそろ出るか、とウィルフレッドはレイに退出を促した。リリスの部屋に残っていた者たちもそれを聞いて、部屋を続々と出ていく。


 最後の者がリリスの部屋を出た瞬間に、部屋の入り口は魔法のように跡形も無く消え、そこにはユグドラの樹の壁面だけがあった。


 誰ともなく黙祷を捧げ始めた。

 レイも一緒に目を閉じ、リリスの冥福を祈った。




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