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今日もにゃーと鳴く  作者: トキリンゴ
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今日も君はにゃーと鳴く

 窓の外、名も知らない小鳥達がピチパチと鳴き始めて空は白み始める。今日もお腹を空かせた君は「にゃー」と鳴く。僕が教えてからは餌を鳴いてねだるようになった。君はとっても賢くてかわいらしい。

 この家に来てまだそう月日が経っていなかった頃、警戒心の強かった君はしばしば逃げ出そうとするし、賢さ故の脱走の上手さには困ったものだった。もうすっかりこの家に馴染んだ君だけど、やっぱり朝一番に部屋に君がいるのを見るとほっとする。君にとって外はとても危ないところだから。それに、もしこの家から出て行ってしまえばもう二度と会うことは叶わないだろう。君はそうゆう性《たち》だし、この社会というのはそうゆうものだ。


 頭を撫でていれば「にゃー」と餌を催促される。

「少し待っていてね。美味しいのを作るから」

 愛しい君にあげるものは美味しいものがいいし、身体に良いものがいいから、手作りのご飯だ。寂しくないように、僕と同じ机で、僕が食べるものと似たものを食べさせる。大抵は僕が手ずから君の口に運ぶ。控えめに開く口元に多すぎない一口分を差し出せば、慣れたようにぱくりと食んで、眼差しで次を促す。来たばかりの頃は催促すらもせず、ひたすらに拒んでいた。すっかり僕に慣れた君の様子が嬉しい。


 君が来て早五年。すっかりこの平和な朝が日常となった。初めの二、三年、僕は昼間外で働いていた。そのためか留守中君は結構荒れていた。騒いでゲージを壊そうとしたり、電話やらをいじりだしたり、時には寂しさのせいか体調を崩したりと大変だった。しみじみと思い出す。あの頃のようにいじらしい君に手を焼くのも頬が緩むが、今のようなほのぼのとした日々は一層幸せだ。家で君と過ごすのが、僕の心を一番安らげる。君が落ち着き始めたのも、二年前、家で仕事をするようになってから。警戒していながらも、僕に居場所を感じだした君に微笑みが零れてしまう。


 朝食を終え、すっかり一息ついてパソコンに向かう。時折かまってちゃんになる君が遊びに来ても大丈夫なように、パソコンはしっかり対策してある。だいぶ前、適当に放置していたらデータが消えたり、変なメールを送りかけていたりと大変だった。その時は少しきつく怒ってしまって、しばらく君はどんよりとしていた。やんちゃでかまってちゃんな君もかわいいけれど、躾はきちんとしなくちゃいけない。あの時はしょんぼりさせてしまってとっても心が痛かった。

 今ではすっかりやんちゃは落ち着いて、陽の当たる窓辺でまったりとしている。僕が呼べば足元に座って大人しくしている。君はいい子。仕事合間の手慰みに、流れる毛並みが心地の良い君の頭を撫でる。


 すっかり日が傾いて、部屋にはオレンジの光が広がる。今日はもう仕事はお終い。忘れてはいけない大切な日、君の誕生日だから君との時間は沢山とりたい。そうは言っても本当の君の誕生日は僕には分からない。それでも祝いたかったから、君と僕が初めて出会った日を誕生日なんて呼んでいる。

 夕飯の準備をしていれば、君は鳴きだした。誕生日だからと豪華な、手の込んだものを作っていたらだいぶ時間が経ってしまったらしい。外はもう真っ暗で、僕も君も空腹だ。手ずから君にご飯を食べさせれば、いつもは視線だけの催促が、白い手を僕の腕に乗せて催促している。美味しいのだろうか、いつもより柔らかく見える君の表情が愛おしい。


 遅めの夕食が終わり、いつもよりも多めに食べた君はとろんとしている。白い首元を飾る無機質な黒色の首輪が目に付いた。忘れてはいけない、君にプレゼントがあった。今の首輪も似合ってはいるが少し適当に買った節があったから、プレゼントは決まっている。それに今日は君と出会って五年の記念日。いつも身につけるものを送りたい。少し高いけれども良いものを買ってしまった。きっと君に似合う朱色の革製の首輪。君に見せれば、遠慮気味に「にぃー」と鳴いた。


 黒色のそれを外して朱色のそれを着ける。首元を触ったせいか、後ずさって頭を振っている。ちょっと突然だったから気に障ってしまったのかもしれない。お詫びに撫でれば大人しく座った。新しい首輪にまだ慣れないのか、どこか居心地の悪そうな顔つきだ。もしくは、あまりに朱色が似合う姿に僕が見惚れているせいかもしれない。前よりも色々な表情を見せる君。君の全てが大好きだ。

 もう遅い時間、愛おしい君に暖かいミルクを飲ませて寝かしつける。安らいだ君の寝顔に僕も眠気に誘われる。また「にゃー」と鳴く君を想えば、心凪ぐ夢心地に落ち着いた。 


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